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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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178:紅蓮騎士の剣

 シァンはズィードから目を逸らし、逆鱗花の葉を無造作に掴んで取り出した。それを口に運ぶ。これしか、偽者のズィプを倒す方法はない。

「やめろってシァン、また暴走するぞ!」

 ケルバがそれを見てすかさず羽交い絞めにして止めにくる。

「放してケルバ! もう、これしかない。あたしがあたしでなくなっても、みんなを護る!」

「矛盾してるだろ! シァンがシァンでなくなったら、俺たちまで攻撃する!」

「しない! しないよ! もうそんなことしない! 強く想ってれば、きっと、ううん絶対にみんなのことだけは傷つけない!」

「そんな保証ないだろっ? やめ――」

 ケルバが言葉と拘束をやめた。シァンはこの隙に葉っぱを口にすることができたが、そうはしなかった。後ろに大きな、そしてどっしりとした気配があったから。

 自然と頬が上がって、手は下がった。

 団長の声がする。

「保証ならある! 好きなだけ暴れていいぞシァン。俺がちゃんと止めてやるから」

 シァンは振り返る。首を大きく横に振って、鋭い歯を見せて笑う。

「ううん! 大丈夫! 大丈夫だよっ!」

「ふっ、そうか」

 紅い気迫に満ち満ちたズィード。カツンと肩にスヴァニを乗っけた。

 今まで感じたことのない安心感があった。この人が、自分たちの団長なのだと、確信した。そしてこれが『紅蓮騎士』なのだと、不思議と腑に落ちた。



 ズィードは目を鋭く細めると、スヴァニを横に振るった。

「なに取ってんんだ! 返せぇっ!」

 ズィプが紅い閃光と共に現れて手を伸ばした。振るわれたスヴァニとその手の間に隙間があるままに、二人は押し合う。

「スヴァニが俺のとこに帰ってきてんだ! もうわかるだろ!」

「知るか! スヴァニは俺の! ズィプガル・ピャストロンの剣だっ!」

『もう違うんだな、これが。スヴァニは「紅蓮騎士」の剣に変わった。諦めろよ、俺』

「本物のズィプさんが言ってるぞ、もう『紅蓮騎士』のものだって!」

 ズィードは莫大な空気の塊を身体という範囲を超えて、紅い気迫と共にズィプに放った。彼は大地をブーツで削りながら下がっていく。

「本物は……俺だぁ!」

 負けじとズィプも空気を押し返してくる。そのぶつかり合いから弾かれた空気が、大地や岸の船たちを襲う。

「くそっ!」

 ズィプは吐き捨てると、ちらりと泊まる船の一つを見た。するとその船が紅い花びらを散らして消えて、二人の『紅蓮騎士』の真ん中に現れ、大破しながら空気のぶつかり合いを止めた。

 ズィードは飛んでくる船の破片を避けながらズィプに向かって駆けていく。途中、スヴァニを纏まった破片たちの隙間に投げ通すと、ナパードで躱した。そのまま、今度はズィプに向かって投擲する。

 ズィプがスヴァニを取ろうと手を掛けた途端、ズィードもそこに現れて、刃の部分に手を掛けようとする。

「馬鹿が!」

「どーかなっ! スヴァニ!」

 ズィードが剣の名を呼ぶと、ハヤブサはその場でナパードをした。向きを変えて。

「なにっ!?」

 驚愕に紅が見開かれる。そして、そこに赤い飛沫が映り込む。

 伸ばしていたズィプの腕をズィードが見事に一刀両断したのだ。

「うぐぁ……!」

「終わりだ」

 静かに言うと、ズィードはズィプの胴を一閃した。

 切り抜けた先で、スヴァニから血を払い、納刀する。

 暴風は収まり、ズィードに纏わる紅きヴェールもそよ風と共に消え去る。

「んん~っ」

 大きく息を吸いながら、身体を伸ばすズィード。空気のおいしい朝だった。

 負傷した仲間もいる。手放しには喜べないが、脅威はなくなった。船の修理も合わせて、この場所でさすらい義団の休暇といこう、ズィードはそんなことを考えていた。

「あ、ピャギー! 探さなきゃ」ズィードは義団の船に駆け足で戻る。「シァーン、ケルバー。ピャギー、どこかに落ちてないかー? 探してく……んぐっ……なん、で…………?」

 スヴァニが腹から突き出てきたのを見下ろして、ズィードは倒れた。

「ズィード!?」

「うそ!?」

 ケルバとシァンの声が遠のいていく。

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