17:かくして魔導世界へ
「セっラちゃ~んっ!!」
「わぁっ、あははっ……やっぱこうなる、ははっ」
ユフォンの気配を頼りに、マグリア魔導書館司書室に姿を現したセラ。そしてすぐさま、勘でも予見でもなくとも想像できたことが起こった。
ヒュエリの涙と笑顔交じりの抱擁。
セラは破顔して抱き返す。
「お久しぶりです、ヒュエリさん」
「わ~、本当にセラちゃんです! あったか~い」
「……温かい?……ははっ、ヒュエリさんも温かいですよ」
「ヒュエリさん、そろそろセラを離してあげてくださいよ。新調したばかりの服が、涙でぐちゃぐちゃになっちゃいますから」
ユフォンは半ば強引にヒュエリをセラから引きはがす。
「ああっ、ひどいですよ、ユフォンくん! 感動の再会なんですよ!」
「それはそうですけど、限度がありますよ。ね、セラ」
「まあ、ははっ、そうだね」
「はうっ、セラちゃっまでっ……!」
愕然とするヒュエリ。彼女をよそに、ユフォンとセラは互いに口を開く。
「ねぇ、ユフォン」
「あのさ、セラ」
「おぉ~、さすがですね、お二人さん」
ヒュエリは一転して、にやにや楽しそうに二人の間に入り込んだ。二人を何度も交互に見やる。
「いいですねぇ~、いいですねぇ~、仲睦まじいのはいいことですね~」
「「……」」
二人はじっとヒュエリを睨んだ。
その気は当然ないが、殺気に似た鋭さに、ヒュエリは急遽自粛し、二人から距離を取った。部屋の壁際まで、一足飛びに。
「……ぁぁ、っと、二人に……しましょうか?」
「ごめんなさい、ヒュエリさん」セラはふっと笑顔になって優しく言う。「でも大丈夫ですよ。ブレグさんも来たみたいなので」
セラが扉の外をサファイアで示すと、それと同時にノックの音が響いた。
「は、はい」
部屋の主が応えると、扉の外から勇ましさの滲む声が返ってくる。
「ダレだ。ヒュエリちゃん。セラちゃんが来ているだろ?」
「はい! どうぞ、入ってください、ブレグ隊長」
扉が開き、ブレグが「おぉ」と息を漏らしながらセラに歩み寄ってくる。
と、そんな彼の前にヒュエリが颯爽と割って入る。得意げな顔だ。
「ああ、駄目ですよ、ブレグ隊長。セラちゃんとの再会のハグはしちゃ駄目です。新しくした服が汚れてしまうのでね」
ふんすと、腰に両手を当て息巻く。
「「「……」」」
これには三人とも呆然だった。
「あぁ……ユフォンくん?」ブレグが筆師を窺う。「俺はそもそも握手で済ませようとしたんだが、一つだけ、確認していいか?」
「ええ」
「俺は、そんなに汚く見えるか?」
「いえ、そんなことは。ねぇ、セラ」
「はい」セラは力強く同意する。「わたしはハグでも全然大丈夫ですよ」
「……フォロー、ではないよな」
「もちろんです、変な空気になってますけど、ブレグ隊長は汚くないです。もう、ヒュエリさん、変なこと言わないでくださいよ、まったく」
「ええぇ! だって、さっきユフォンくんがわたしに言ったんじゃないですかぁ!」
「それはヒュエリさんが泣いて抱きつくからで」
「なんですか? わたしの涙は絶対ブレグ隊長よりきれいですよ、師匠に向かって失礼ですね、ユフォンくん」
「……改めて、久しぶり。セラちゃん」
言い合いをする二人を迂回し、ブレグがらしくなくおずおずとセラに手を差し出した。
「お久しぶりです」セラは彼と握手を交わす。「ハグ、しますか?」
「いや、やめておこう」
「ほんと、気にしないでくださいね。ヒュエリさんがはしゃいでるだけなんで」
「ああ、もうなんとなくわかったから、大丈夫だよ。ありがとう。それでさっそくなんだが、参加するのかな?」
「参加?」
「大会だ。なんだ、まだ話してなかったのか、ユフォンくん」
「あ、はい」ユフォンがヒュエリからブレグへと視線を変える。「ちょうど話そうとしたところでブレグさんが来たので。これからです」
「そうか、なら俺から話そう」
ブレグが頷きセラに向き直ると、セラは先に口を開く。
「もしかして、魔導・闘技トーナメントをやるんですか?」
「そう、その通り。ホワッグマーラ復興記念大会だ」