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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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174:ズィプガル対さすらい義団

 揺れる船上は暴風と殺気に満ちていた。荒れ狂う川面から飛沫が舞い上がり、ズィードたちを濡らす。

 そんな中つまらなそうな紅い瞳が、さすらい義団の面々を見やっている。きっとスヴァニにしか興味がなかったのだろう。かと思うと、急にズィプの口角が上がった。

「久しぶりのスヴァニだ。試し斬りでもしてくか」

 やはり『紅蓮騎士』ではない。ズィードはそう思った。本物の『紅蓮騎士』ならば、むやみに人を傷つけようだなんて考えない。

『そんなこと、スヴァニが泣く! 絶対に止めろよ!』

 声が背中を押す。紅い気迫もまだ消えていない。本物のズィプの遺志はまだここにある。

「これが『紅蓮騎士』になるための最後の試練ってとこ?」

『いや、まだそれ言ってんのかよ。「紅蓮騎士」は俺ので……っていいや、話してる場合じゃない、来るぞ!』

 ダンッと甲板を鳴らしたズィプ。飛沫を散らしながら義団に迫る。

「俺が最初だ!」

 ダジャールが先陣を切る。スヴァニを握るズィプの手を、大きな手で掴み込んで受け止める。

「一人じゃ無理だ」

 ソクァムが言いながら、止まったズィプにナイフを投げた。しかしそのナイフは簡単に空気に押し返され、甲板に虚しく落ちた。そしてズィプはダジャールを蹴り飛ばした。

「ぐぁっ」

 軽々と浮かび上がり、義団一の巨体が船縁の外に出て船体に隠れて見えなくなった。

「ダジャールっ!」

「ピャングッ!」

 ネモとピャギーの声がしたかと思うと、背中にネモを乗せ、嘴にダジャールを咥えたピャギーが上昇してきた。

「ぴゃぁああああっ…………!」

 重そうにしながら甲板にダジャールを投げ降ろし、ネモと共に空高く甲板から離れる。

「もっと丁寧に降ろせねえのかよ、あとで焼き鳥にしてやる」

 軽口を叩きながら立ち上がるダジャール。

 ズィードはふっと笑って、スヴァニの元へナパードした。

「またか」

「まただ……けど、今度は一人じゃない」

 再度スヴァニを掴み、睨み合う二人。

「こっち!」

 空からのネモの声で、ズィプが天を仰いだ。ネモが注意を引いたのだ。その一瞬が大きな隙だ。両わきからシァンとケルバがズィプに迫る。

 ケルバが剣を突く。シァンが掌底を繰り出す。それにズィプが気付いたが対応するにはもう遅い。空気で押し返そうとしても、短時間だけならズィードがそれを止める。

 決まりだ。

 仲間と力を合わせれば、強敵であろうと、敵ではない。

『おい、ナパードがあるだろ! 気抜くな!』

 頭の中からの注意喚起にはもちろんだと思った。だがその点にはソクァムが動いてくれている。ズィードが視界の端に捉えるソクァムは、角笛に口をつけている。口をズィプに向けている笛から、音は出ていない。ソクァムの頬は膨らんでいない。彼が吸っているからだ。

 ソクァムの角笛に吸われている人間は、その場から瞬間移動することができなくなる。それは瞬間移動の祖ともいえるナパードでも例外ではないと、昔ズィードは彼から説明を受けた。

 抜かりなく、さすらい義団の勝利だ。

 あ、そういえばとズィードはダジャールに気を向けた。逃げたアルケンはともかく、この攻撃に参加していないダジャールが不意に気になったのだ。彼は跳躍していた。ネモとピャギー、ズィプの間にちょうど入り込んで、遅れながらも上から攻撃に参加するように。

 間に合わないだろうな。ズィードがそう思った時だった。

 紅い花が散った。

 ズィードの目の前で。

 ケルバの前、ダジャールの巨体が割り込んできて、それに押されたズィプとズィードがシァンの方へと体勢を崩す。

「やばっ!」とケルバの焦る声が聞こえた。

「ぐはっ……!」とダジャールの苦悶の声が聞こえた。

「また、触れずに!?」とソクァムの驚きの声が聞こえた。

「みんな!」とネモの声が空から聞こえた。

「ズィード!」とシァンの危険を知らせる声が聞こえた。

 顔面をシァンの掌底が打つ音が聞こえた。

 そこでズィードの意識は飛んだ。

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