表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
176/387

173:夜明けの紅

 怠慢な川の流れとピャギーの羽が朝日を反射する。高見台でピャギーに包まれ朝日を浴びるシァン。

「ぴゃぁ~……」

 巨鳥があくびと共に起きた。二人で立ち上がり、朝日を望む。

「いい朝だね」

「ぴゃあ」

 この清々しさの前では不安も薄らぐ。みんなと一緒にいたい。その気持ちが朝日の温かさと共にじんわりと胸に広がる。

「あたし、ここにいてもいいんだよね」

 そっとピャギーに寄り添う。

「ぴゃぴゃ!」

「ペレカちゃんにあんな偉そうなこと言ったんだから、あたしも受け止めなきゃ。みんなにも助けてもらいながら」

「ぴゃ!」

 ばさっと胸を叩くピャギー。彼もいっしょに受け止めてくれるようだ。

「ピャギーも頼りにしてるよ」

「ぴゃー!」

 もさもさと強くシァンを抱きしめてくれるピャギー。

「くすぐったいよ、ピャギー!」

 戯れる半竜人と巨鳥を余所に、風が『怠惰な大河』に吹いて、川面をさざめかせていた。



 異空船が小刻みに揺れた。軋んだ船が出す音に、ズィードは目を覚ました。男子部屋はまだ寝息で満ちていた。ただ一人、ソクァムが神経質そうにベッドから降りていた。そしてズィードの目が開いていることに気づいて潜めた声で話しかけてきた。

「ここにきてこんなに揺れたの初めてじゃないか?」

「……あー……あん? そう、か? 気にしすぎじゃないか……?」

「ちょっと外を見てくる」

 ソクァムが扉を開けると、朝日が差し込んだ。そして風が吹き込んだ。

「っ!」ズィードは跳ね起きた。そしてソクァムを呼び止める。「待て、ソクァム」

「なんだ、急に」

「なんか、嫌な空気だった。俺も出る」

 ズィードは手早く着替えて、背中にスヴァニを追うとソクァムと共に船外に出た。



 ズィードが外に出ると、風は急激に強さを増した。

「ズィード、ソクァムさん!」

 シァンがピャギーに乗って甲板の高さまで降りてきた。

「凄い風! こんないきなり風が強くなるなんて、『虹架諸島』でもなかったよ! 船、大丈夫かな!」

「わからない!」ソクァムがシァンに向けて叫ぶ。「とにかく、みんなを起こしてきてくれ、シァン」

「うん! ピャギー、ネモを起こしてきて。あたしは男子部屋に」

 甲板に降りてそれぞれ目的地に向かうシァンとピャギー。それを見送ると、ソクァムはズィードに聞いてくる。

「ズィード、外在力でどうにかなるか?」

「任せろって言いたいけど、さすがに無理。俺より強い外在力だ、これ」

「なに?……っつ」

 ガンッ――。

 隣接する船とこすれ合い、船が大きな揺れた。その次の瞬間だ。さらに大きな揺れが異空船を襲った。衝撃と共に、甲板に人が降ってきたのだ。

「えっ!?」

「なんで……!?」

 ズィードとソクァムは降ってきた人物に目を瞠る。

「見つけたぞ、スヴァニ」

 紅の瞳が鋭くズィードの背中の剣を射抜いた。

 ズィプガル・ピャストロン。

 額に包帯を巻いた『紅蓮騎士』がその場でズィード、否、スヴァニに向かって手を伸ばした。するとズィード背で紅き花が散って、スヴァニは鞘ごとズィプの背中に移動した。

「え、今触れないで……!?」とソクァムが驚くのを余所に、ズィプは愛剣を抜いて懐かしそうに、笑む。だがすぐに彼の顔は敵意に満ちる。

「それはもう俺のだ!」

 ズィードが紅きヴェールを纏い、スヴァニの元へナパードをして、奪い返そうと手を掛けたのだ。

「お前の? 俺のだ!」

 ハヤブサを通じて、新旧の主が睨み合う。風が荒ぶ。優劣は歴然。先代の男が圧倒的だった。

「ぐぬぶぶぶぶぶっ……」

 強風にズィードの口は大きく開き、耳は大きくはためく。頭の中では『紅蓮騎士』の意思が叫んでうるさい。

『なにやってんだ! そいつ俺じゃねーぞっ!』

「っわかって……っけどぉ!」

 空気を押し返そうと力を込めるもびくともしない。そしてついに、ズィードの身体は大きく吹き飛ばされた。

「ぬぁあああああ!」

「んおっ……!?」

 大きな衝撃と共に、ズィードは部屋から出てきたダジャールに受け止められた。

「なんだ!? なにが起きて……おい、あれって『紅蓮騎士』かっ?」

「んなわけないだろ」ダジャールから離れて、ズィードは甲板のズィプに目を向ける。「俺の中に声は残ってる。あいつは偽モンだ……たぶん」

「たぶんって、どうなのそれ」と次いで部屋から出てきたケルバが円らな瞳を細める。「すごい強いじゃん、あいつ。暴走したときのシァンよりさ」

「もお、あたしのことはいいでしょ、ケルバ。それより、アルケンはどこ?」

「アルケン? いただろ、さっきまで」

「ふん、あいつのことだ。もう逃げたんだろ」

「逃げ道があったってことだ。もったいないなぁ、あんな面白そうなやつと戦えるチャンスなのに」

「なんで楽しそうなの、ケルバ。あたしたちも逃げるべきじゃない、ズィード」

「駄目だ。スヴァニを盗られた! 取り返さないと! みんな、手伝ってくれ。俺一人じゃ無理そうだ」

「っへ、いいぜ。俺がスヴァニをとったら、団長交代だぜ!」

 ダジャールが一番に甲板に降りた。

「おい、それは違うからな!」とズィードが追って、「団長も剣もどうでもいいけど、倒すのは俺だっ!」とさらにケルバが続く。



「あたしは……」

 三人の男子を見送るシァンは、一瞬留まった。ケルバの言ったことは冗談交じりではあったが、あながち間違いではない。甲板にいるズィプからは、これまでに出会ったことのない大きな気配を感じる。

 逆鱗花の葉が必須になってくる。使っても歯が立たないかもしれない。そうしたら、また……。

 葉っぱを取り出し、カリっと少し齧る。角が僅かに伸び、頭髪は小さく逆立つ。竜の眼は野性味を増した。

「……大丈夫、みんなもいる」

 残りの葉っぱをしまって、甲板に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ