表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
175/387

172:お礼

 今日もセラの方が先に目を覚ました。眠気眼のユフォンと共に朝食を済ませてから、二人はホワッグマーラに出かけるための支度をしていた。

 そんな折のことだった。

「あ、コクスーリャが来る」

 気配を感じ取ったわけではなかったが、勘が働いた。そしてほどなくして、二人の前にコクスーリャが現れた。天原族と思われる、腰の羽根と耳の上の羽根っ毛を持つ少女と一緒に。

 その少女のことは聞かずとも、セラには察しがついた。コクスーリャが連れていることもそう。ユフォンが目を見開いたこともそう。そして、薄っすらと脳裏にある幼き日の面影が想起されたのもそう。

 彼女はペレカだ。

 ユフォンが答えを告げる。「ペレカちゃん!」

 さっと駆け寄って、視線の高さを合わせるユフォン。無事を確認できたことへの安堵も交えて微笑んでいる。だがどうしたことか、ペレカの表情は少しばかり暗い気がセラにした。

 勝手にスウィ・フォリクァを抜け出したことを、申し訳なく思っているのだろうか。だがそれにしては、そこには不信感があるように思える。

 それを感じ取ったようで、ユフォンは視線を上げてコクスーリャに問う。

「どうしたんだい?」

「父親を探してほしいと依頼を受けることになった」

「え……?」

「わたしのお父さん……」ペレカがユフォンを真っすぐ見て言う。「生きて、ますよね……?」

「どうして……」

 ユフォンは窺うようにまたコクスーリャを見る。

「俺は話してない。ペレカは自分でそう思って、探すために異空に飛び出したんだそうだ」

「そうなのかい?」

「はい……。勝手にいなくなって、ごめんなさい。でも、お父さん、絶対生きてると思うんです! ユフォンさん、教えてください、本当のことを!」

「……」

 セラはそっと呼び掛ける。「ユフォン」

「うん」頷くと、ユフォンはペレカを真っすぐと見つめた。「わかった。僕の方こそ嘘をついてごめんよ。ちゃんと、話すよ」

 そうしてセラの部屋、四人で机に収まってペレカの父、ネゴード・ボエルについてユフォンは語った。彼の稼業のことも、彼とのペレカに関する約束も。

「ネゴード・ボエル……武器商人……」

 すべてを聞き終えると、ペレカは父親の裏の顔をどうにか飲み込もうと、言葉を何度か繰り返して零した。しばらくそれを見守ってからコクスーリャが彼女に優しく問いかける。

「全てを知ったうえで、捜索の依頼を出すかな?」

「……はい。お願いします、コクスーリャさん」

「わかった。ネゴード・ボエル……オトゲン・エウロブの捜索、引き受けよう。君はスウィ・フォリクァで待っていてくれるかな?」

「はい、わかりました。でも、わたし、今さらですけど、お金全然持ってないでんですけど……」

「気にしなくていい。君には申し訳ないけど、君のお父さんは捕まえるだけで価値がある人物だからね」

「……お父さん、見つかったら、捕まっちゃうんですか…………?」

「そうだね。やっぱり依頼は取り下げるかな?」

「……」ペレカはぎゅっと机の上で拳を握った。それから探偵に涙目を向ける。「お願いします。お父さんと、会いたいっ……!」

「よし」コクスーリャは立ち上がる。「じゃあ俺はさっそく捜索をはじめるとするよ。ペレカちゃんは二人に任せていいよな」

「はい。僕が責任もってスウィ・フォリクァに連れていきます」

「どうせなら、ホワッグマーラ観光に一緒に行く? ペレカちゃん」

 ユフォンとセラも席を立って、ペレカの脇につく。

「あ、はい!……あ。あの、セラさんですよね」

 セラはペレカと視線の高さを合わせる。「うん」

「わたし、ずっとお礼を言いたくて……それにあの時、なにも言わずに逃げちゃって、ごめんなさい」

「うん。無事でよかった。大きくなったね、ペレカちゃん」

 セラはペレカの頭を撫でて、子どものように破顔した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ