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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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169:森の誘い

「ま、なに言ってるかはわかんなかったけど、励ましてくれたんだろうな」

 ズィードは穴から甲板に這いあがりながら空を見上げた。ピャギーが悠々と旋回している。

「シァンを励まそうってのに、俺が励まされてどうすんだか。俺に考えすぎは似合わねえな……強くなるなら強くなればいいし、護りたいなら護ればいい。したいことができる力があれば俺はそれでいい」

「なにがそれでいいだよ。いいわけないだろ」

 甲板ではソクァムが腕を組んで待っていた。穴から出てきたズィードを冷めた目で見下ろしている。

「直す場所が増えればその分出費が増えるんだぞ」

「あーそれな、それなんだけど、ピャギーの食費が浮くから大丈夫だ」

「……はぁ。まあいい、いやよくないけどな。直せないところはないみたいだから、全部ハビノさんに頼むぞ。いいか」

「おう。どれくらいかかるんだ?」

「少なくても二週間だそうだ」

「二週間!? っか~、その間ここで足止めかぁ」

「ああ、稼ぎもなくなるから、その間はピャギーじゃないけど、魚釣ったりしないと飯はなしだぞ」

「マジか……あ、さっきのシシシシシって食べられるかな?」

「シシシジシな。食べていいものなのかはハビノさんに聞いてみよう」

「よっし、聞いてこよう」

 ズィードは甲板に躍り出て、さっそくハビノを探しはじめるのだった。



「お父さんを探してるんだって」

 ズィードと別れたソクァムは女子部屋を覗き、ネモに声をかけた。部屋の中にペレカを残し、ネモに彼女について聞きはじめたところだ。

「父親を? ペレカは捨て子なのか?」

「捨て子? どういう考えなんですか、それ。ソクァムさん」

「あ、いや……そうか。なんでもない、で、どうして父親を探してるんだあの子は」

「うーん、なんか複雑みたいなんだけど、死んじゃったって言われたけど、生きてるって思ってるらしいの。それで、異空連盟の本部のある所から飛び出してきたって」

「スウィ・フォリクァ? 連盟の関係者なのか? いや、それはいいとして、なにか生きてる証拠とかがあるってことなのか?」

「話してみた感じだと、ただ感情的にそう信じてるみたいですよ」

「なるほど。とりあえずは船が直り次第スウィ・フォリクァに行ってみるか。それまでは俺たちしっかり保護しておこう。心得もなしに異空を飛び回るのは危険だからな」



 自分の中に眠る危険な衝動。

 セラに助けられたことで消えた葉っぱへの衝動。

 逆鱗花の葉を多量に摂取しなければ、また暴走することはない。衝動がない今、強い意志を持たずとも抑制はできる。それでも、シァンの中にはそういうことがあったという記憶が残り、不安を煽る。

 なにより仲間を傷つけたことが自分で許せていない。義団の仲間たちは、冗談を交えてそのことに言及することで笑い話にしてくれている。シァンもそれに救われている。

 今も船を降りて川辺を歩いていると、浅瀬で水遊びをするダジャール、ケルバ、アルケンの姿が見えてほっとする。さすらい義団はなにも変わらず、今まで通りだ。

 ただシァンの心持ちを除いては。

 心の底から楽しんで、困っている人たちを見つけたら助ける旅。それはもう、きっとできない。

 自分を受け入れ、受け止めてくれている仲間たちと、このまま一緒にいることが怖いと思ってしまう。また傷つけるかもしれない。一緒にいたいのに、それが心を締め付ける。

 さすらい義団を抜けるべき。シァンはここ数日でそう考えるようになっていた。

 大河を離れ、森へ向かっていく。

 あてもなく、森をいく。

「あたしは、どこへ……」

「どこに行くのかわからないなら、僕と一緒に来ませんか? 新しい空の仲間を増やしているところなんだ」

「え?」

 突然声をかけられ、シァンがその方を向くと、そこには真っ青な瞳の男が巨木に寄りかかっていた。というより、寄りかかっているように腕を組んで、背を巨木につけている。

 男は雲のようにもくもくとしていて、上半身しかないのだ。

「君はこの空から消えてしまいたいって思ってる、違うかい?」

 シァンはなにも答えずに、男の目をまっすぐと見た。

「肯定しづらいのかな? 君には多くの人との繋がりがあるようだ。それを気にしているんだね。不思議だ。傷つけることを恐れているのに、繋がっていたいだなんて」

 まさか自分は口に出していたのかと、シァンは一瞬思った。しかし、自分が似たようなことをしているのと同じように、半身の男は彼女の心を読んだのだとすぐに改める。そして仕返しとばかりに、今しがた目を覗き込んで仕入れている情報を口に出す。

「ズーデル……うん? ズーデルは他の人の名前?……本当の名前は……なにこれ、60(ろくじゅう)()()?……とにかく、あなた青雲覇王でしょ」

 シァンの言葉に、男は少し辛そうに目を細めてこめかみを押さえる。

「ズーデル?……ロク、マル、ニ?……青雲覇王?…………違う! そいつらはもう死んだんだ。この空に消えた」

 真っ青な瞳に黒みが差したように見えた。そして男はシァンに手を差し伸べた。

「さあ! 君も行こう、新しい空に!」

 シァンは男が出した手をじっと見つめた。そしてその視線を男の瞳に移す。

「あたしは行かない」

 その言葉に男は驚いたように目を見開いた。「へぇ、そうか来ないんだ。……わかったよ。でも、覚えておいて。君の心にこの空を離れたいという気持ちがある限り、僕はそこにいる」

 シァンの胸元を指さして、それから男は雲が風に流れるように消えていった。

「あたしは、みんなと一緒にいたい」

 男への反抗心か、改めて義団の仲間たちへの想いが強まった。シァンは指さされていた胸の前で手をぎゅっと握った。ここにいると言った男を握る潰すように。

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