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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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168:ぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃ!

『怠惰な大河』の名前の通り、緩慢な流れの川。その岸に種類を問わず、数多の船がひしめき合って停泊している。その中にさすらい義団の異空船もあった。

 ソクァムとズィードは意識を取り戻した少女ペレカと船大工のハビノを連れて、そんな我が家へ戻った。

「ズィード。ペレカちゃんをシァンとネモのところに。話を聞いくように頼んでくれ。俺はハビノさんと船の状態を確認して回る」

「おう」ソクァムに言われ、ズィードはペレカを手招く「こっち、こっち」

 そうして女子部屋の前につくと、扉をノックせずに空いた穴から声をかける。

「シァン、ネモ。ちょっと出てきてくれ」

「なに?」

「どうしたの?」

 破損の衝撃で散らかったものを片していた二人が、揃って顔を向けた。

「その子は?」シァンが首を傾げてズィードの後ろで所在なさげにしているペレカを見た。「『三つの蒼』の天原族?」

「えっと、そうなのかペレカ?」

 ズィードが聞くと、ペレカは頷いて「はい」とだけ答えた。

「だって」

「ペレカちゃんっていうんだ、おいでおいで。散らかってるけど」

 ネモがペレカの元へ軽やかに近づくと、背中に回って女子部屋に招き入れた。

「散らかしたの、あたし……」とシァンは申し訳なさそうでいて、冗談めかした笑みをペレカに向けた。

 そこにネモがすかさず続ける。

「そうそう、シァンが暴れちゃって。怒らせちゃだめだよ?」

「ちょっと、ネモ。ペレカちゃん怖がらせないでよ。大丈夫だからね、あたしもう大丈夫だから、仲良くしようね、ペレカちゃん」

 少女と視線を合わせて笑いかけるシァン。どうしたことかその顔を見たペレカはネモの後ろに下がってしまった。

「あれ? なんでぇ! もう、ネモが変なこと言うからぁ~!」

「ごめんなさい、違うんです……」とペレカが恐る恐るネモの陰からシァンに告げる。「でも、その、目と角……竜人の、ですよね……わたし、破界者のこと、思い出しちゃって…………関係ないのに……ごめんなさい」

「あぁ……そっか『蒼白大戦争』の…………」

 シァンはただそれだけしか言わなかった。ズィードも込み入った話は聞いていないが、シァンと破界者はまったく関係ないというわけではないのだ。血のことも、今回の暴走のことも。

 ズィードは重くなりかけた空気を吹き飛ばそうと、本題を投げかけた。

「ペレカさ、一人で森の中にいたんだ。俺たちが話聞いてもよかったんだけど、二人の方がペレカも話しやすいだろって、ソクァムが」

「そっか、でもあたしもいない方がいいかな? ネモだけでお願い」

「……うん」

 シァンはネモの心配そうな返事を聞くと、女子部屋を出ていく。ズィードはその背中を追おうかどうか迷った。団長としてメンバーの抱えているものとどう向き合うべきか。関わりすぎるのも、逆に重荷になるだろうか。

「じゃあ、ネモ。頼む」

 ズィードは女子部屋の前を離れて、辺りを探した。空気に集中する。羽ばたきを感じた。空を見上げると、マストに止まるところのピャギーを見つける。



「ピャギー」

 マストを登り、落ちないように巨鳥の隣に歩み寄るズィード。

「ぴゃっ!」

 煌びやかな羽をはためかせ、飛び立とうとするピャギー。ズィードはすぐに呼び止める。

「待てよ、シァンの話だ」

「ぴゃぁ」

 ピャギーは羽を畳んで、少しばかり不服そうにズィードが隣に来るのを待つ。そこに辿り着くと、ズィードはマストに腰を下ろした。

「どう思う? お前が傍にいないのは、そっとしておきたいからか?」

「ぴゃ」

 首を横に振ってから、身体に括り付けたバッグに嘴を突っ込むと、ピャギーはそこに魚を咥えて顔を出した。どうやら川の魚を取っていたらしい。

「メシ代が浮くってソクァムが喜びそうだな」

 頭を上に向け、魚を丸のみにする巨鳥。「ぴゃあ!」

「で、シァンだけどさ、セラ姉ちゃんのおかげで葉っぱへの衝動はなくなったみたいだけど、やっぱ気にしてるよな」

 ぴゃあぴゃあと頷くピャギー。

「気にすんなって言っても、気にするよな、あいつ。……俺はどうしたらいい。暴走しても止めてやるって言えるほど、強くなればいいのか? 任せろって言葉に見合う力が俺にあれば、こんなことにはならなかったよな……」

「ぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃ!」

 バサバサと羽音を立てて、ピャギーはズィードを何度も叩いた。

「いててて」

「ぴゃーぴゃ! ぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃ、ぴゃん、ぴゃー!」

「……」

「ぴゃぴゃ? ぴゃぴゃーぴゃ!」

「…‥」

「ぴゃー!」

「……」

 手振りならぬ羽振りでなにやら表現しているようだが、ズィードにはピャギーの言わんとしていることが全くわからなかった。

「わりぃ、お前がなんて言いたいのかわかんねーや」

「ぴゃ!? びゃびゃーっ!」

「あ、それはわかる。怒ってるな……って、どわっ!?」

 力いっぱい背中を叩かれ、ズィードはマストから真っすぐ甲板に向かって落とされるのだった。甲板を突き破り、船室に受け止められた。

「おいズィード!」ソクァムの声が降ってくる。「これ以上壊すなよ!」

「いや、俺のせいかよっ……!」

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