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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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167:異空船大工

 突然頭が痛んだ。苦悶のなか手を伸ばすが、セラは行ってしまった。いや、セラではなかったかもしれない。

 逃れることなどできないのは知っているのに、痛みから逃れたくてナパードをした。

 頭が混乱する。

 生きているはずなのに、死んだ記憶があった。銀髪の女に言われて、脳天を割らんばかりの衝撃を受けた。

 ズィーは這う這うの体で壁伝いに進む。

 目的の部屋はすぐそこだ。

 扉の前につくと、自動的に空いた扉の中に倒れ込んだ。薄暗い部屋。セラを探すために飛び立った部屋。

「おや、『紅蓮騎士』に似合わない姿ですね」

 頭蓋のお面から覗く猫の瞳が振り返った。

「お前……俺と戦ったこと、あるだろっ……!」

 ズィーは倒れたままクェト・トゥトゥ・スを睨み上げた。

 そんな彼を猫の眼が冷たく見下ろした。



「本当のわたしは誰なのか、なんでセラの姿をしているのか、知らなきゃいけない気がするの。なんのために生まれてきたのかを」

 砂塵が止んだ真っ赤な空と、どこまでも続く砂漠の果てを見据えながら、セラはアレスにそう宣言した。

「付き合ってくれる?」

「友達だからな」

 赤い空気の中、アレスは一緒になって遥か遠くを見据えながら静かに言った。

「付き合ってやるよ」

「ありがと、これもわたしたちの思い出になるね」

「ああ」



「いい思い出になったよ、ははっ」

 ユフォンは額の汗をぬぐいながら笑った。

 結局トトスの森だけでは物足りなくなったセラは、リョスカ山へ行くことを彼に提案した。もちろん、ピクニックの話ではない。薬草採集の話だ。

 彼女を尊重した彼はもちろん承諾してくれた。

「ピクニックの方がよかったって思ってない?」

「半分くらい? でも、君とこうやって連盟の仕事を抜きに一緒のことをすることってあんまりなかったから、なんか新鮮だった。それに君がズィーと落ちた場所も見れたし」

 採集の途中でユフォンが見てみたいと言った、ズィーの額に傷をつけた、今となってはいい思い出の場所に二人は立ち寄った。セラにしてみても、懐かしくズィーに想いを馳せることができた。

「そのうちユフォンの思い出の場所にも行ってみたいな。テイヤスさんとの思い出の場所とか」

「あー、ははっ、まあ君が行きたいって言うなら…‥」

「あんまり行きたくないの?」

「そうじゃないよ。ただマグリアも度重なる復興で姿を変えたから、残ってるところは少ないかなって」

「……ごめん、わたし。無神経だった」

「気にしないくていいよ。なんなら明日、またマグリアに戻って僕の思い出巡りするかい?」

「うん、そしたらペレカちゃん探そう」

「うん、まあでもコクスーリャとキノセがもう見つけちゃってるかもしれないけど」

「あり得る」



「あり得なーいっ! 本当に捕まえてきたんかよ……!?」

 ズィードがシシシジシを地面を揺らすように下すと、異空船大工のハビノ・ケーケンは平たい尻尾をばたばたさせて驚いた。それを見て、気を失った少女を抱くソクァムはやっぱりかと思う。

「だってそういう約束だろ」とズィード。

「ハビノさん」ソクァム、呆れながら。「無理難題で俺たちを追い返そうとしたんですね?」

「……っは、おれっちがそんなことすると思ってんのか? おれっちはただお前たちがおれっちの客に値するかどうかを見たかっただけだい。変な言いがかりつけんじゃねぃよぉ!」

 まだ尻尾をばたばたとせわしなく動かしながら、ハビノは言った。動揺が隠しきれていない。視線はどこか遠く一点を見つめたまま微動だにしていないし、前歯が不自然にむき出されている。

「はぁ……それで、ズィードが言ったように約束通りシシシジシを捕まえてきましたよ。ちゃんと船の修理はしてくれるんですよね?」

 シァンの暴走で破損した異空船を修繕するために、さすらい義団は腕の立つ異空船大工がいるという『怠惰な大河』を訪れた。そこでハビノの噂を聞きつけ、修理を依頼しようとしたところ、巨木の森に棲むシシシジシを捕まえることを対価として提示されたのだった。

「……あー、ふーん……よし! 男に二言はねえよ! 船のとこまで連れてきな。おれっちが新品同様に直してやらぁよ!」

 ハビノはどんと胸を叩いて、大見得を切った。その声の大きさのせいか、偶然か、ソクァムの腕の中で少女が瞳を開いた。

「ぅ……」

「あ、気付いたかな?」

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