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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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162:果てなき旅路を共に

「さあ、僕たちは……アレス・アージェント探し?」

 ジイヤの姿が見えなくなると、ユフォンが切り出した。

「気が進まないんじゃなかったの? コクスーリャとキノセと一緒にペレカちゃんを探してもいいんだよ?」

「確かに心配ではあるけど、コクスーリャなら安心して任せられる。……もしかして怒ってるかい?」

「怒ってはないよ」セラは無理なく笑う。本心から怒りはなかった。「ユフォンにはユフォンの考えがあるんだから、なんでも同意されることなんてないのはわかってるもん」

「ははっ、それならよかった」笑い返すユフォン。と、なにかを思い出したように手を叩いた。「そうだ、ペレカちゃんで思い出した。今の今まで会議とかでばたばたしてたから渡しそびれてたよ」

 ユフォンは腰に下げたバッグから二つの指輪を取り出した。それぞれ碧い宝石と朱い宝石が輝いている。そのうち、セラに朱い方の指輪を差し出す。

「キノセには婚約に使うのかって茶化されたけど、別にそういう意味じゃなくて。でもだからと言ってただの贈り物ってわけじゃないのは確かだよ。僕とセラの間だけにある絆を感じられるように、お互いにお互いの色を身に着けていられたらなって……受け取ってもらえるかい?」

「うん、もちろん……えっと、こうした方がいいのかな?」

 セラは突然のことに戸惑いながらも、左手をユフォンに差し向けた。

「ははっ、婚約じゃないって言ってるのに」

「わたしは……」セラはユフォンをまっすぐと見て、頬を桃色に染めた。「……婚約でも、いいかなって、思ってる……けど」

「っ……」ユフォンは面食らって目を見開き、口を一度きゅっと結んだ。それから綻んだ表情で口を早く動かす。「待って、婚約なら、僕はもっと雰囲気を大事にしたいよ。確かに帝居の前っていうのは悪い場所じゃな――」

 セラはユフォンをサファイアで捉えたまま、碧き花を散らした。



 鏡のような湖面に満天の星が映る。

 その湖上に、セラとユフォンは碧き花に包まれて現れた。二人の足もとには、碧き花のステンドグラスが敷かれ、二人を支えている。

「――いけど……ここって、『盛大な(ディル・)(ミャクナ)』? どうしてミャクナス湖じゃないんだい?」

「向こうはズィーとの思い出がいっぱいだから」

「ここもズィーと再会して二人きりになった場所じゃなかったっけ?」

 悪戯っぽく笑んで言うユフォンに、セラは小さく膨れた。

「……じゃあ」

 碧で身体を包むと、自身を中心にエメラルドのそよ風を巻き起こした。すると、辺りは窓から橙色の光が差し込む、埃っぽい小さな部屋へと姿を変えた。

「懐かしいや、ライラおばさんの下宿……ははっ、僕と君が出会った場所。ある夜、君が突然現れた」

「わたしたちのはじまりの場所」ヴェールを纏ったセラはユフォンの前から歩いて、机に触れる。「ロマンチックじゃないけど……大事な場所でしょ?」

 振り返って笑むと、ユフォンの笑顔が待っていた。

「もちろんさ」

 すっとユフォンがセラの左手を取った。

愛しているよ(アリュス)、セラ」

 言葉と共に、セラの薬指に指輪が通される。指抜きグローブの上に朱い宝石が光る。

ありがとう(エレクュスィ)、ユフォン。わたしも」

 言ったセラの手元に碧き花が舞い、その指先には碧い宝石の付いた指輪がつままれていた。ユフォンからナパードで奪ったのだ。そして反対にユフォン左手を取ると、セラも彼の薬指に指輪を通した。

果てなき旅路を(エクラヴィソワーズ)

共に(フィルェン)

 セラが言うと、ユフォンが続けて言って、それから二人は指輪同士をこつんとぶつけ合った。そして甲を上にしたまま小指を絡ませ合い、身体をぴたりと引き寄せ合った。

 唇を重ね、呼吸を重ね、時を重ねる。

 と、セラは目を見開いた。感情の昂りもあってか、ヴェールが乱れ、消えるのを感じ取ったのだ。その途端、思い出の部屋はエメラルドの煙となって消えて、二人の身体は重力に従って湖に落ちた。

「うわっ」

「ふはぁっ……ごめん、時間切れ」

 想造解放の時間切れだった。

 セラは小指を繋いだままのユフォンにお願いする。

「岸まで跳んで、魔法使いさん」

「もちろんですとも、お姫様」



 湖畔に並ぶ二人に距離はない。寄り添い、セラはその白銀を筆師の肩に乗せている。

「ナパスの婚礼の儀ができるなんて、婚約どころか結婚する気満々だったんだね」

「あー……ははっ。当然さ、いつの日かのために勉強しておいたんだ。想定より早くその日が来ちゃったけど」

「困る?」

「まさか」



「指輪をしていたら戦いづらくならないかい? 僕からあげておいてなんだけど」

「問題はないと思うけど、うーん、手じゃ壊れやすいよね……」

「首から下げれば……」ユフォンが『記憶の羅針盤』と没頭の護り石を見て、唸る。「でも三つじゃそれもそれでごちゃごちゃしちゃうか」

「あ、じゃあ」

 セラは指輪を外し、またもヴェールを纏った。

「もう使い放題だね」

「ううん、慣れないといけないから使っていかないといけないだけ」

 言いながら、セラは手先に集中した。すると見る見るうちに指輪のリング部分がまっすぐと伸びていった。そうして出来上がった細い棒をセラは髪に挿した。

(かんざし)。どお?」

「ははっ! 良く似合ってる」



「セラ、一つ約束して」

「なに?」

「僕が愛した人は 異空のために戦う人。もちろんずっと傍にいてほしいけど、君が君であることの方が大事だと思うんだ。これからアレスを探しに行くのもそうだけど、なるべく僕は君がやりたいことを尊重したいと思うんだ。だから、そのための約束」

「うん」

「僕のために君が異空を諦めることはしないでほしい。ゼィグラーシスの言葉のままに、いてほしい」

「……わかった。じゃあ、わたしからも約束」

「うん」

「わたしからの約束は――」

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