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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花
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15:渡界王の役目

 セラがトラセークァスからアズへ向かった頃。作戦終了の報告をテムとキノセに任せ、イソラは一人先にヒィズルへと戻っていた。

 がらんとした道場に歩み入る。誰もいない。彼女の頭に過るのは、瞳には映らなくとも、力なく眠る師匠の姿だ。

『賢者狩り』。

『夜霧』の手の者かすらわかっていない、正体不明の敵。その被害者たちは、連盟の加盟世界である『白衣の草原』の広大な清浄草原に建てられたテントの中で、目覚めの時を待っている。

 師がそう簡単に負けるわけがない。イソラの拳は自然と強く握られる。

 普段のケン・セイがそうするように、イソラは道場の真ん中に胡坐で座し、色を失った瞳を閉じる。

 異空のどこかにいる妹弟子を探る。彼女、シァンの力で『賢者狩り』に遭い眠ったままになった人たちの体験を、共有できないかと考えてのことだった。

 自分ではなにもできないもどかしさはある。だがそれよりもケン・セイを助けたい気持ちが強い。感覚に雑念はない。

 外の世界にいようが、彼女の感覚が捉えられない知り合いはいない。

「まだ漂流地だ」

 イソラは跳ぶように立ち上がり、準備も早々に済ませヒィズルを出た。



「ユフォンく~んっ……! ああぁ、よがったぁ~……」

「……ぁ、ははっ。やっぱり」

 顔をぐじゃぐじゃにして泣いて抱き着いてきた師を、ユフォンは苦笑して見下ろす。

 ホワッグマーラ、帝都マグリア。再建された魔導書館、その司書室でのことだ。

「ヒュエリさん、ご心配をおかけしました。でも、見ての通り大丈夫ですよ、僕は」

「うぅ、ううぅ、ううううう…………!」

 ユフォンは師の姿に一遍に片付けてしまおうと考えた。二回にわけて彼女の感情の乱気流に巻き込まれるのは骨が折れると。

「ヒュエリさん、セラももう少ししたら来ますから」

「うううっ! うぇええ…………え、え? ぅああああ……え、え? セラちゃんが、来るん、ですかぁ?」

「はい」

「うえええっ!? ほんとですか!? 本当! ですか! セラちゃんが!? 来るんですか!」

「……」

 ユフォンはあんぐりとして、舌で頬を突いて回した。一人で対処するより、セラや誰かが一緒の方がよかったなという後悔を味わいながら。

 そんな彼の想いを知ってか知らずか、司書室にユフォンにとって頼れる助っ人が現れた。なかなかそういう人物ではないのでが、扉をノックもせずに開けた興奮気味のブレグ・マ・ダレだ。

「セラちゃんが来るのかい? それは、いいタイミングだ!」

赤く縁取られた瞳孔が、嬉々としていた。



「あ、そういえば」

 アズに戻り、ヨコズナの新たな試練について伯父に話し終えると、セラは右耳に触れた。

「水晶、もう出しちゃってたけど、隠さなくて大丈夫かな?」



 ~〇~〇~〇~

「セラ、あなたの右耳に光るその水晶には、ヴェィルと太古の地が封じられているの」

「え?」

「まさか、そういうことだったのか」

「え?」

 セラはフェルの言葉にも首を傾げ、その後のゼィロスの言葉にも首を傾げた。

「伯父さん、なにか知ってたの?」

 ああ、とゼィロスはフェルの様子を窺いながら口を開く。

「レオから『夜霧』が狙っているもだと聞いていた。意表を突いて幼きセラに送られるよりずっと前からな。ナパスの王となった者が代々その水晶を護る役目を担っていると聞いていたが、もしやフェル殿が?」

「ええ。その役目を古き渡界の王に与えたのはこのわたしです」

「だが、まさかヴェィル本人と世界が封じられていたとは。レオは頑なに『異空の平穏のため』としか教えてくれなかった」

「彼を含め、長い時の中、渡界の王となった者は意思を受け継いでくれたわけです。そしてセラに渡ったのも運命でしょう。当然、わたしは遥か昔から知っていたのですが、感慨深いです」

「……待って、叔母さん」

 セラは懐かしむように微笑むフェルに、申し訳なく思いながら言う。

「ヴェィルが封じられてるって、どういうこと?」

 〇~〇~〇~〇

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