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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花

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154:瞼を閉じて、また開く

 セラが戻ってから二日が経った。

 森閑としたアズのナパス墓地に、指を鳴らす音が響いた。

 するとなにも感じる間もなく、セラはエァンダの前に立っていた。戻っていた。

 一度指を鳴らしたエァンダが彼女に歩くように指示をした。そうして彼女が少々の怪訝さと共に兄ビズラスの墓標に近づき、触れようとしたところで、もう一度エァンダが指を鳴らした。

 そしてこうなった。

「なに……これ?」セラは戸惑いをそのまま兄弟子にぶつけた。「どういうこと?」

ヴィクード(記録術)。正確にはヴィク()ードってのが正しいんだろうけど、偉大なナパスがつけたから異論はなしで」

 エァンダはビズやズィーのものの横に新たに建てられた立体十字の墓標をちらりと見ながら言った。

「はぁ……名前はわかったけど、結局どういうこと? 記録って?」

「俺が教えるの向いてないのはもう知ってるだろ。だからどういうことを起こしてるかだけの説明になる」

「大丈夫、もうそれには慣れてる」

 エァンダは頷いた。「いいか、まず反始点を作る。今俺がやった指を鳴らすみたいにだ。そしたら適当に、その反始点を起こす。すると作った時点の状況にひと戻りだ」

「随分ざっくりだね。ねえ、もう一回見せて。今度は反始点作るところからちゃんと見るから」

 エァンダは新たに腰の鍵束を叩いた。それを反始点にしたらしい。なにかが起こった様子はない。ただ鍵たちがじゃらんと鳴っただけ。きっかけ作りとはいえ、それは傍から見ればなんの変哲もない動作に過ぎなかった。

「意識して見てもなにかしたようには見えないんだね」

「そうだな。けど実力者なら時が戻ったきっかけがあることに気づく、そうなればそのきっかけを潰される」

 言いながらエァンダは再び鍵束を叩いた。

 移動していたわけではなかったが、セラは自分の微かな動きの変化を感じた。ヴィクードが行われた。

「ねえ、エァンダその状態でまた指を鳴らしたら、どうなるの?」

「どうもならない」と指を鳴らすエァンダ。

 セラに戻った感覚はまったくなかった。

「反始点は上書きされる。もしセラがここで反始点を作れば、鍵束を鳴らしてもヴィクードは発動しない。反始点はその場に一つしか存在できない」

「そっか。でもこんな技術を持った人たちがいるなんて。いったいなんの目的でポチューティクの人を殺したの? 研究所まで燃やして」

「それはこれから俺が調べて回るさ。俺も意識はずっと向けておくけど、セラもゼィロスの身の回りに警戒しておいてくれ。まあそうなるだろうと思ってたけど、警告して研究をやめるどころか、歴史を辿ればそいつらに行き着けるかもしれないとか、逆に燃えてるからなゼィロスの奴」

「ポチューティクの人たちの弔い合戦でもあるんだもんね。わたしでも調査を続けるよ」

「ま、そういことだ……」

 エァンダは一度口を閉じてから、セラに真剣な眼差しを向けた。

「セラ。ゼィロスには伏せておいたが、お前には言っておく。ブァルシュ・ゼィフ・ガェルテォ。赤橙(カーネリアン)の花を散らすナパスに会ったら警戒しろ。正軸(せいじく)年齢は八十くらいだ。ルファの口ぶりからそいつもその集団の一員らしい。そして恐らくゼィロスの師メィズァを殺した男だ」

「え? それなのにゼィロス伯父さんに話してないの?」

「知らないで済むならその方がいいだろう。信頼も厚かっただろうし、心にのしかかるものが多すぎる」

「そっか……エァンダがそう言うなら」

「そういうことだ。さ、小屋に戻るぞ。『名無しの鍵』をサパルに返して、ウェィラを取りにユフォンとホワッグマーラだろ?」

「うん。その前にネルのところにも寄るけど。迷惑かけたこと謝って……それからノアにも確認しなきゃいけないことがあるから」



 二人が森を出ると、サパルとユフォンが小屋の外で待っていた。気配を探れば、ゼィロスは小屋の中で作業をしているようだ。今まさに研究への炎は燃え盛っている。

 ユフォンが優しく尋ねる。「英雄たちへの挨拶は済んだかい?」

 二人のナパスはそれぞれに頷きを見せる。

「サパルさん」セラは腿のバッグから質の悪い紙を一枚取り出した。「本当にこれが、ユフォンの手紙が『名無しの鍵』なんですか?」

 彼女が手にしているのは、ホワッグマーラが液状人間ヌーミャル・コーズに侵略されてた折にユフォンが、彼の部屋に残していた置手紙だった。

「うん、そう。いいかい?」

 サパルはセラに向かって手を差し出して、手紙を求めてきた。セラが拒むことなく彼に手紙を渡すと、彼はすぐに鍵を回すような素振りを見せた。重々しく、力を込めて。

「……ふぅ」回し切ると言吐息ついてから三人に問いかける。「みんな、ちょっと俺の目を見てて」

 三人の視線がサパルの目に集まる。そして、彼は驚くことに(・・・・・)瞼を閉じて、また開いた。

「え?」

「なにを?」

「ん?」

 セラとユフォンだけでなく、エァンダもサパル行動に訝しむ。

「まばたきっていうんだけど、みんなできる?」

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