150:碧花爛漫
「貴様には娘が染みついているな」
ヴェィルが目を細めてユフォンを見据えた。そうしてユフォンに歩みを向けた。ゆっくりと、だが確かに、来る。
ユフォンは後退ることができなかった。恐れていた。動いたら命を奪われる。頭が勝手にそう結論付けていた。
「モァルズ! ユフォンを連れていけ!」
神容により若返ったヅォイァがヴェィルの行く手を阻むように立ちはだかる。孫娘に愛棒ヅェルフを譲った身である彼は徒手空拳で構える。祖父の指示に従い、モァルズがユフォンにこの場を離れるように促す。
「ユフォンさん!」
「あ、うん」
答えながらも動けなかった。この場を離れることが命を救うことであるはずなのに、あの男から目を離すことが命取りになるように思えた。
ヴェィルは足を止めず、進む。そして筋骨隆々のヅォイァの前でぴたりと止まった。その体躯の差でユフォンからは、ヅォイァの前に立ったヴェィルの姿をはっきりと窺うことはできない。と思ったらヅォイァの脇を抜けて出てきた。
「神に挑むにしても、幼稚な力だ」
ふらりと、ヅォイァが伏した。
「ヅォイァさんっ!」
「おじい――」
モァルズの声が途絶えたと思ったら、彼女も倒れていた。
「貴様は後々役に立つ」
目前に迫ったヴェィルの手がユフォンに伸びた。人の手が差し出されているはずなのに、まるで巨大な生物が大口を開けて彼のことを飲み込もうとしているようだった。
「は……」知らぬ間にユフォンの目には涙が浮かんでいた。「ははっ…………」
碧花爛漫。
ユフォンの視界が碧で埋め尽くされた。
「終わりじゃないよ」
シァンの下で、腕で目元を覆ったズィードに降り注ぐ声。腕をどけると、彼は碧を見た。
雲がなくなった空に照らされた、碧を見た。
黒き生物は眩い碧に身体を強張らせた。
次の瞬間にははしゃいだ声を上げた。
「欲しいぃ!」
「今度はちゃんと助けるよ、エァンダ」
振り下ろされたコクスーリャの足を受け止める、碧き光と共に現れた人影。逆光で判然としない姿だが、それが誰かなんてことはテムにとっては愚問だ。
「組手にしてはやりすぎじゃない、二人とも」
宝珠から放たれて早々、顰められたフュレイの顔。
だが一転、碧き輝きに照らされる顔は口角を上げた。
「あら、使い方を知ったようね。でも関係ないわ、神には遠く及ばない進化する前の力だもの。……うふふっ、最初にあなたを殺せるなんて、最上の喜びね」
「進化して失ったものもあるでしょ、フュレイ」
「知ったようなことを、人の子が!」
未だに収まらない碧き輝きに、生気の神の激昂が飛んだ。
「娘よ」ヴェィルが言った。
「わたしは――」
ユフォンの前に現れた碧きヴェールを纏う後ろ姿。
彼女は凛として、名乗る。
「セラフィ。レオファーブ・ヴィザ・ジルェアスの娘だ」
碧を宿わせたサファイアで青と視線を交えた。