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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
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148:紅蓮騎士と竜

『ズバッて斬る技があるだろ。シズナさんに教わった』

 ズィードの頭の中で『紅蓮騎士』が言った。

「いや、その前にこの状況……」

 首が潰れないように、筋肉を強張らせるのでやっとだった。

『ああ、そうだったな。じゃあ、次はナパードだろ。スヴァニ投げてさ』

「酔ったら、やられる……」

 スヴァニの元へ移動する力。紅いヴェールを纏えるようになったときに、貸された力。

『そろそろ慣れろよな』

「そんなこと……言ったって…………」

『これは成長の時ってことだ。ほら、早くしないと死ぬぞ。俺も逆鱗花で狂ったセラと戦ったけど、そん時は止めたんだ。それってつまり、お前もできるってことだ、ズィード』

「英雄と一緒にされてもっ……」

『英雄になるんだろ?』

「なるっ!」

 挑発したような言葉に即答したズィードは、スヴァニを天高く放った。そしてハヤブサが下降に転じる僅か前、彼は紅い花を散らして剣を掴んだ。酔いはなかった。

「英雄には絶対なる! 俺は『紅蓮騎士』になる!」

『……ん? ちょ、今なんて?』

「うおおおおっ!」

 急降下し、ハヤブサが竜を狩る。

 肩から脇腹へ。鱗を無視して真っすぐと斬りつけた。

「ガァ!……ゥガ」

「え、ちょ」斬られたことをものともしないシァンに肩を掴まれた。そしてズィードはそのまま思いっきり投げ飛ばされた。「どわっ!?」

 ポンッ、ポンッという音と共に、投げ飛ばしたズィードを追ってくるシァン。ズィードは空気を操って、体勢を整えて止まるとシァンに向かってスヴァニを投げた。腕の鱗に阻まれて弾かれてしまい、突っ込んできたシァンと組み合いになる。

「ガウッ、ウウ゛っ!」

 ズィードの頭に食らいつこうと、シァンの牙が寄せては返しを繰り返す。

「俺ってぇ! そんなにぃっ! 美味そうなの! か!?」

「ウァウ!」

「それは! イエスなのかっ? ノーなのかっ?」

「ガウァ!」

「……もう、いいや!」

 ズィードは落ちたスヴァニのもとに跳んだ。そしてシァンの背に向かって再びスヴァニを投擲(とうてき)する。シァンの尻尾が反応してスヴァニを捕えようとしたその瞬間。剣を逆手に持つようにナパードして、奪われる前に身体を回転させた。

 シァンの背中から脇腹に向け、斬り抜いた。

 もう鱗はなんの障害にもなっていない。斬り口からは血も噴き出している。シァンを弱らせて落ち着いたら、ネルやシァンの姉であるウィスカのところへ連れていけば治療できるはずだ。

「グルル……」

 ざらついた唸り声が、背後で聞こえる。二度の斬撃は仲間に対してということを差し引いても、深いものだとズィードは思っていた。戦いは終盤に差し掛かっても不思議ではない傷を負わせた。振り返って実際に見ても、痛々しい。

「人間って考えるべきじゃないのか、シァン?」

 竜の生命力。

 そもそも逆鱗花の葉には疲労を吹き飛ばす効果があった。姿を変えるほど効いていると考えれば、この程度の傷でも深手ではないのだろうか。

 こうなると問題になってくるのは、ソクァムの言っていた時間制限。鱗が剥がれ落ちるまで。それを過ぎれば、確かなにもかもを壊したくなる。ズィードの知識はそれくらいだが、危険だという認識は充分にあった。破界者という名前も頭にある。

 シァンを異空の敵にするわけにはいかない。異空のためにも、なによりシァン本人のためにも。

 さすらい義団の団長として、仲間も異空も護る。

「!」

 決意の瞳が捉えたのは、竜の眼から流れる涙。そして垂れたフサフサの耳に届いたのは、鋭い牙の間を縫って這い出てきたか細い声だった。

「タスケ、テ……ズィードぉ……」

「なんだ、話せるじゃん。もしかして痛みで意識が戻ってきたか?」

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