14:ヨコズナの試練
~〇~〇~〇~
「武神ヨコズナよ。わたしは、試練を望みます」
「では、手始めに、いま持つ数多の力をお主自身のものにするのだ」
「いまある力を、わたし自身のものに?」セラは理解が及ばず眉を顰める。「それって一体……使いこなすってこと?」
「意識の底にすべてを落とし込み、馴染ませるのだ」
「……つまり?」
「……」
「はぁ、ヨコズナ、あなたは本当に腕っぷしだけね」
セラの横でフェルが呆れる。
「故の武神だぞ、フェルよ」
「そうね。じゃあ、わたしが。いいセラ。生命の波、知ってるわね?」
「うん」
セラは身体ごとフェルに向き直る。ヨコズナから得られるものは少ないだろう。
「あなたがこれまで身に着けてきた、生命の波を基盤とする技術を内なるものにする。それが最初にやること。内なるものというのは、つまりセラ自身から出る力にするということ。例えばナパードをどこか別の世界の力だと思って使うことはないでしょう?」
「うん」セラは頷いてから自分の考えを口にする。「マカとか、術式とか、それこそ気魂法とかをナパードみたいに使えるようにする?」
「簡単に言うとそうだけど、たぶんセラが想像しているものと、わたしやヨコズナが考えているものは違うわ。ヨコズナを責めたけど、言葉での説明は難しい状態なのよ」
ヨコズナが鼻で笑う。「我のことは言えぬな」
「うーん……ねぇ、叔母さん」セラは思い付きだが口にする。「わたし、一番深く力が発揮できた時に、見たことだけある技術を知ってるって思って、使えたの。それとは違うかな?」
「それよ! さすがわたしの姪だわっ」
フェルはセラに抱きついた。
「あ、ありがとう」セラはフェルを剥がす。「それでその状態にするってことは、やっぱり古の遺伝子をうまく目覚めさせるようにするってこと?」
「いいえ、違うわセラ。あなたがその状態になれたのはもちろん想造の血のおかげ。でもね、ヴェールを出さずに、普段の状態でその感覚なのがわたしたち想造の一族なの。知ってる、できるはもう自分のものなの」
「マカとかは知ってるしできる、だと思うんだけど、違うの?」
フェルは頷く。
「ホワッグマーラの魔素を操る技術。あなたはそのすべてをできないでしょう?」
「異世界人には限りがあるから……そっか、それすらも」
「そう。どこの世界の力でものなく、あなたの力にするの」
セラはしばし俯いてから頷く。「自分のものにするってことはわかったよ、フェル叔母さん。それで、どうやってやるの? ヴェールの先にいかないでやるんだよね」
「ひたすら、待つのだ」
ヨコズナがそれなら答えられると言わんばかりに堂々と言ってのけた。答えようとしていたフェルはぷうっと頬を膨らませて黙った。セラがヨコズナに顔を向けたからだ。
「待つ?」
「言ったであろう、意識の底に落とし込み、馴染ませるのだと」
「瞑想?」
「それでも構わんが、純血ならともかく半血では長大な時が必要。人の子が瞑想をそれほどできるとは思えんな」
「どれくらい?」
「我の見立てでは三年」
「三年……。瞑想以外にはどんな方法が?」
「待つのだと言っただろう」
セラはフェルに視線を向けた。フェルは嬉しそうに口を開く。
「生命の波を発せずに過ごせばいいのよ。それで意識の表層にある外から得た力は、ゆっくりと底まで沈んでいくわ」
「力を使わずに三年」
「そうよ、もちろんナパードも」
「え、ナパードも?」
「うん。生命の波は全部があなたの意識と繋がっているのよ。確かにナパードは底にすでに馴染んでいるものでしょうけど、一度でも使えば他の沈みかけていたものを上まで押し戻してしまうわ」
「そっか……どれが駄目なのか確認してもらっていい?」
それからセラは自身が体得した技術を神と叔母に披露した。そしてそのほとんどが禁止されるものだと知る。
「さすがにこれだと、太刀打ちできないな……」セラは耳飾りに触れる。「どこかに隠れるしかないかな」
「そうね、ヴェィルたちに水晶を奪われることはなによりも避けないといけないわ」
~〇~〇~〇~
「此度は力を取り戻せ。だいぶ鈍っておろう。鋭さを取り戻し、再び我の前に舞い戻れ」
「…‥確かに、久しぶりに使った力はいまいちだったけど、いいの? それで馴染ませられるの?」
「否。お主の我慢が持たぬことは知れたこと。やり方を変えるのだ」
ヨコズナは姿を消す。その声だけが俵達に反響する。
「現在の力を取り戻し、過去を巡り力を高め、失い、未来を手にしろ。これが我の新たな試練。まずは初めの一節だ。これで駄目ならお主は駄目だ」
「相変わらず雑な説明ね」と肩を竦めるフェル。
セラも同調して笑う。「そうだね。でも、力を取り戻せばいいんだよね。この前よりわかりやすいよ」
「頑張ってね、セラ」
「うん」
そうして二人はアズの地へ戻るのであった。