表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
149/387

147:団長の務め

 女子部屋の中で、団員たちに視線を回すシァン。

「シァ――」

 ネモの怯えた呼びかけに、グイッと顔を向け威嚇する。

「ひっ……」

 ダジャールがネモを強引に背に回し、戦闘態勢に入る。ケルバも、ソクァムも、身構えている。ズィードは立ち上がり、部屋に向かって叫ぶ。

「みんな、手を出すな。俺がなんとかする」

「っは、ふざけんなよズィード」ダジャールが引きつった笑みで言う。「お前一人でどうにかなるのか、これが」

 深刻な顔なのはソクァムだ。「そうだ、こんな時こそみんなで解決しなきゃだろ」

「駄目だ! 下がってろ!」

「死んで団長交代なんてやだかんね、俺は」ケルバは冗談っぽく言う。「だから一緒に戦う」

「俺を勝手に殺すなよ。いいから、下がってろって」

 ズィードはスヴァニを抜いた。

 淡い輝きと紅き気迫が彼を纏う。

「団長命令だ」

 静かに言い放った言葉が、団員たちを黙らせ、その団員たちを見ていたシァンの注意をズィード自身に向けさせた。それでいい。確かに仲間と手を合わせれば解決が早くなるかもしれない。でも船で戦えば、大きな破壊が致命的な結果になってしまうかもしれない。

 頼るだけじゃない。護るのも団長としての務めだ。

「ソクァム、光だ」

「グルゥゥ……」

 竜が一歩ずしりと踏み出した。

「シァン、来い」

「ちょっと待てズィード!」

「なんだよ、ソクァム。今はじまる感じだっただろ。てか、早く光!」

「いや、お前に任せるけど、一つ頭に留めといてほしい」

「なに?」

「鱗が剥がれはじめるまでが限度だ。それまでにシァンと戻ってこい」

 言ったソクァムは角笛を取り出し、ひと吹きした。すると、甲板の上に光の粒が集まりはじめた。それは次第にまとまっていくと、楕円の光の集合体となった。

「わかった」

 ズィードが頷くと、シァンはポンッと軽やかな破裂音と共に、大きく床を剥がして向かってきた。気付いた時には、ズィードはシァンの鋭い爪を反射的にスヴァニで受け止めていた。

「あっぶねっ。はえーな……んですげぇ力だな」

「グガァ!」

 竜の爪が凶暴的な力で、顔に迫る。

「ったく、焦るなよっ」

 竜の膂力をものともせず押し返し、ズィードはシァンをソクァムが出した光の中に突き飛ばした。

「じゃあみんな、行ってくる」

 光の中に消えたシァンを追って、ズィードは光の中へと飛び込んだ。



 光を抜けると、ズィードはシァンに注意を向けながら辺りを見回した。曇った空。岩床地帯。だだっ広い真っ平な岩の上。岩床は鏡のように分厚い雲たちと、ズィードとシァンの姿を映している。

 そこは彼の知らない場所だった。そして辺りには人の気配は全くない。ソクァムも周りに迷惑をかけないようにと選んだのだろう。

「思いっきりやろう、シァン」

「ガウッ!」

 尻尾で岩床を打って、ズィードに飛び掛かってくるシァン。対してズィードはスヴァニを、空気を伴って振り上げる。

 竜の尻尾とハヤブサがぶつかると、岩床の上で爆発的に空気が腫れあがった。

 両手で剣を握り、両足で踏ん張るズィード。尻尾を打ち付ける力で四肢を含め身体を浮かせているシァン。次手は、当然のようにシァンが出した。

 尻尾でハヤブサを押さえつけたまま、脚を振り下ろす。ズィードの肩を狙ったその一撃は、彼に触れる直前に止まった。

「ふぐっ」とズィードが踏ん張ると空気が彼の肩口を護った。

 だがまだまざ拙い外在力に、竜人の力を防ぎきることはできなかった。

「ぐんぬぁ!」

 ズィードは頭から岩盤に叩きつけられた。シァンの尻尾のときもそうだったが、鏡のような岩肌はその衝撃をものともせず、無傷のまま。べったりとズィードの血がついただけだった。

 シァンの追撃が来る。

 頭の痛みに耐えながら、ズィードは身体を転がして躱す。竜の爪が岩肌に弾かれる。そこに生まれた隙をつくために、彼は起き上がり、シァンに斬りかかった。

「悪いなシァン!」

 ネルのところに行けば治療もできるだろう。その考えの元、がら空きの腹を狙った。

 ぺっきん……。

「んにぃっくぅぅぅ~……」

 鱗に護られた竜の身体は硬かった。衝撃はズィードの腕にそのまま返ってきた。それに痺れる。

「グァウ!」

「っげ……いっ」

 首を掴まれた。爪が食い込み、皮膚を破いた感触があった。外在力があれば呼吸ができなくなって意識が飛ぶということはない。だが意識どうこうの前に、首がへし折られて命が飛ぶ。逃れないとまずいと彼は思った。ズィードは自分に纏わる空気をシァンに向けて、解き放った。

「ふはは……マジかよ、シァン」

 シァンは赤い髪をなびかせただけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ