表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
144/387

142:知らない

 アズの光注ぐ森の中。

 隔離部屋を出たエァンダはタェシェを抜いた。黒き剣はルファの剣を覚えている。たとえ持ち主が気配を隠せようとも、剣同士ではその限りではない。剣には剣の繋がりがある。

 エァンダはその場でタェシェを一振りする。すると空間に亀裂が入り、ぱっかりと割れた。『空裂(からさ)き』。剣を用いた『剣響けんきょう』の異空移動法。とはいえ剣ならばなんでもいいというわけではない。強さに関わらず、剣が意思を持っていることが第一条件として挙げられる。

『記憶の羅針盤』が光を反射する兄弟子(ビズラス)の墓標に目をやる。

「影の最後の仕事……と言いたいとこだけど、フェースもいるからな。……まあ、行ってくるよ。ビズラス」

 空間の穴に向かい歩みを進めるエァンダ。なびく流水色の髪。と、穴に踏み入る前に、彼は足を止めた。そして髪を身体の前に垂らすと、タェシェを軽く振るった。

 森の光に煌びやかな糸たちが舞った。

 軽くなった。

 頭も、右腕も。

 あとは心か。

 自嘲気味に鼻を鳴らして、エァンダは踏み込む。



 景色は唐突に豊かさを失う。

 荒んだ大地に白雲に霞む空。そもそも空気がかさつき、霞んでいる。遠くの緩い稜線は薄っすらとして、焦点を合わせることを許さない。そんな中、エァンダのエメラルドがはっきりと捉えるのは、かつての師であり、影が追うべきナパス。

「こんななにもないところでなにしてるんだ、ルファ」

「お前を待ってたのさ。それより、そりゃ俺の知らねえ技術だな」

 エァンダの背で穴が塞がる中、彼の正面でルファ・ウル・ファナ・ロウフォウが虎の目を細める。

「生意気だなチビ公」

「もうチビじゃないって、前にも言ったばかりだろ? それともやっぱ歳か?」

「おめおめと逃げたくせに」

「状況が違う。今は守るものもないし、ペットもいない」

「ペット?」

「万全ってことだ」

「万全なら勝てると思ってんのか?」

「思ってる」

「俺の動きも読めなかっただろ」

「それはもう大丈夫だし。きっとだけどさ、俺の知らないあんたより、あんたが知らない俺の方がいっぱいいると思うぜ」

「はっ、そんなことがあるわけねえだろうが」ルファが爪のような剣を構えた。「俺の教えを受けなかった時点で、お前は俺に勝てる実力を手にする機会を失ってんだよ、エァンダ!」

「空は広いんだぜ? ルファ」

 二人の渡界人がそれぞれに、一歩を踏み出した。

「ガキが空の広さを語れるかっ」

「これでも『異空の賢者』の弟子なんでねっ」

 無音の衝突。そして鍔迫り合い。

「『虎の目(タイガーアイズ)』の弟子の方が響きがいいだろーがよ!」

 強くエァンダを押すルファ。剣の弧をタェシェが滑って両者が逸れると、そこから剣舞がはじまった。白刃と黒刃の残像が無数に飛び交う。エァンダから出る衣擦れと風切りの音。

「っへ~」ルファが感心したとばかりに声を発する。「本当に騙されてないな」

「なんだ使ってたのか、認知誘導」

「白々しいな。破り方を知っただけだろ」

「まあな」エァンダは余裕に笑む。「けどたったそれだけのことが、大きい」

「っち、いっちょ前に。生意気だ!」

「生意気ついでに、破り方も説明した方がいいか?」

「ふんっ」

 二本の剣が触れた一瞬。群青(ラピスラズリ)孔雀石(マラカイト)が舞って、二人のナパスは離れたところに姿を移した。虎の目はエァンダの手にするカラスに向いていた。奪ったはずだと、その目が主に尋ねてくる。

「奪われるより早く跳べばいいだけ」

「そんなこたぁ、教えてねえぞ」

「これもあんたが知らない俺ってことだ」

 ルファの剣を握る手に青筋が浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ