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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花

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13:畏敬の者たち

 セラがアズの小屋に跳ぶと、そこには伯父ゼィロスのほかに、すでに叔母フェルの姿があった。

 ゼィロスがセラに顔を向ける。「セラ、戻ったか」

「……もう知って……」セラは一瞬訝しんだが、すぐに得心する。「そっか予見にあったんだね」

「ああ、今しがた聞き終えたところだ。だから責めも、驚きもしない」

「あなたが恋人を救うためにナパードを使ってしまう」フェルはにこやかに言う。「セラ、あなたの最初のヨコズナの試練は失敗に終わることはわかっていました」

「最初……か。じゃあまだチャンスはあるんですね?」

「ええ、例のごとく先を詳しく話すことはできませんが」

 予見は確実に訪れ、不変のものである。ただし当事者が詳細を知りえなかった場合に限る。これはフェルがセラたちに昔語りとヴェィルとの戦いについて語る際に、前置きしたことだった。



 ~〇~〇~〇~

「最初に断っておきます。予見は確実に訪れ、不変のものです。しかし、予見としてわたしが見た未来、その場にいる者がその詳細を知ってしまったときは例外です」

 セラが仇敵ガフドロ・バギィズドを討って数日後。アズの地でフェルは語る。

「なので、過去のことは詳しく語れますが、未来については曖昧な啓示のようなものになってしまうことを許してください」

 ~〇~〇~〇~



「フェルと共にフェリ・グラデムへ」ゼィロスは真剣な眼差しでセラを見つめる。「次の試練が言い渡されるそうだ」

「うん。わかった」

 セラが頷くと、ゼィロスが彼女に歩み寄って来た。そして、軽く抱擁し背を優しく叩いた。

「おかえり、セラ」

「うん、ただいま」

「あ、ずるいです、ゼィロスさん。わたしも」

 そう言ってフェルは半ば強引にゼィロスとセラの間に割り込んだ。そして、盛大に姪を抱きしめた。

「ん~っ、セラ!」

「……ぁ、うん、ぉぉ……ただいま、フェル叔母さん……ははっ」

 圧倒されながらも彼女の背に手を回して応えるセラ。

「このまま行きましょ! ヨコズナのところまで!」

「え、は――」



「――い」

 花の散らないナパード。フェルとヴェィルの使う移動法。

 セラはその成すがまま、黄金色の俵に囲まれた空間に姿を現した。

 ここは俵の(フェリ・)段々畑(グラデム)の積まれた俵の内部。人々が日夜戦いに暮らす段々畑の内側、ヨコズナ神の住処だ。

 セラがここに来るのは二度目。一度目はセブルスとして過ごすきっかけとなった試練を与えられた時だ。

「フェル、そして人の子か……」

 屈強な半裸の男。その姿でヨコズナ神は二人の美女の前に現れた。

「予見通り、禁を破ったのだな? 人の子よ」

 ぐぐぐっとセラに顔を近づけ、真っ白な瞳で嘗め回す。

「およそ二年前、試練を与えたそばからフェルに、お主は失敗すると聞かされ、手間のかかることだと思ったのを覚えておるぞ」

「……ごめんなさい、ヨコズナ」

「構わん、その見目の美しさに免じよう」

「……ぁぁ」

「ヨコズナ! わたしの姪をそんな目で見ないようにと言ったはずですよ! ヴェィルでなくわたしがあなたを滅ぼしてもいいんですよ?」

 フェルは低くおぞましいとも思える声で、ヨコズナをセラから遠ざけた。

「ふん、フェルよ。そのような力があれば、空はこうはならなかっただろう?」

「……」

「……」

 神と想造の姫は重苦しい空気で睨み合う。

 会話をしている分には人間と変わらないというのに、その圧力にセラは呼吸を浅くし、額に汗を浮かべる。

 畏れ。

 神へ、そして純血の想像の一族へのそれも、彼女は矛先を向けられ体感したことがある。しかしそれらは人への憑依、実体を持たない靄という形で不完全なものだった。

 いま目の前にしている二人が発するものの方が、矛先が別に向いているに関わらず、怖い。

 汗が顔を伝い、セラから離れた。

 その途端、フェルがはっとして表情と気配を和らげた。

「ごめんなさい、セラ!」ぎゅっと姪を抱くフェル。優しくセラの身体をさする。「怖がらせちゃったわね」

「……ううん、大丈夫だよ、フェル叔母さん。わたしが、まだ弱いって、証拠だから」

「至極当然。試練もまともにこなせぬのだからな」

「……はい」

 セラは反省の返事を返し、フェルを優しく自分から離した。

 そして力強く、神の白目を見つめる。

「武神ヨコズナよ。わたしは、試練を望みます」

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