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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花
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12:再会と別離

 雲塊織りの、首の高い袖なしの肌着と腕抜き。腕抜きは指先のないグローブの手首を結び、両手それぞれから二本のしっぽをひらりと出す。

 鎧衣(よろいぎぬ)のパンツとジャケットの裾と袖は巻き上げることで、紅と黄のチェックが顔を出す。

 鉤爪葛かぎづめかずらの繊維で織られた布ベルトは、腰と肩からの袈裟懸け。金具は必要なく、服をはじめ、背中にフォルセス、腰にウェィラと薬カバン、腿に行商人のバッグを保持する。

 ブーツは野生児の遊び場(ゾッドン・ポピュー)の大人にならない住人たちが、自然豊かな大地を駆け回ってもへたることのないもの。それを大人のサイズでネルが作ったものだ。

 セラが髪を後ろに結い上げ終わると、ネルが優しい笑みを向けて前に立った。

「最後に、これ」

 そう言ってネルは自らの首から『記憶の羅針盤』を外し、セラの首にかけた。真っ青な親友の証しと、ナパスの印が並ぶ。

「本物の『碧き舞い花』の復活ね」

 本物、ネルのその言葉にセラは溜息をつく。

「これで、偽物が減ればいいんだけど」

「大部分は減るでしょうね。けど――」

「まさに本物、みたいなのが何人かいる」ユフォンが部屋の扉から顔を覗かせていた。「けど、セラは君だけだよ」

「ちょっと、ユフォン?」ネルが眉を顰める。「いくらあなたでも、ノックしなさいよ。着替えの途中だったらどうするの?」

「ははっ、ごめんよ。どうしてもセラに早く会いたくって」

「まだゆっくりはできないよ、ユフォン。でも、ゼィロス伯父とフェル叔母さんに報告終わったら、ホワッグマーラに行くから、待ってて」

「わかった」

 ユフォンは両腕を広げて、セラに歩み寄る。それに合わせるようにセラも腕を広げ、二人は抱擁を交わす。

「待ってるよ」

「ヒュエリさんによろしくね。わたしが急に行ったら驚いちゃうだろうから」

「サプライズでもいいじゃないかな」

「ユフォンに任せる」

「んん゛……わたしもいますのよ! わたしだってセラが来て驚いたんだから!」

「ははっ、ごめんよネル」ユフォンはセラから離れる。「それじゃ、僕は先に行くよ。僕はここじゃなくても会えるから、今回はネルに譲るよ。協力してくれてありがとう、ネル」

「当たり前ですわ、セラの大事な人ですもの……ほらっ、さっさと行きなさい」

「ははっ、じゃあまたあとで、セラ」

「うん」

 ユフォンはブレスレットの黒水晶を光らせ、トラセークァスから姿を消した。

 これでトラセークァスにはセラとネルだけとなった。キノセ、テム、イソラの三人は今回のユフォン救出作戦の顛末を、スウィ・フォリクァに報告しに行っている頃だろう。

「さっきはできなかったから」

 ネルが両腕を広げる。

「うん」

 セラは静かに頷いて、ネルと抱擁を交わす。

 ユフォンの時とは違い、二人の間に会話はない。優しい沈黙が再会を彩る、白銀と黄金の時間。

 セブルスとしてはさすらい義団と、主にシァンと共にネルのもとを訪れることがあった。幾度となく顔を合わせてきた過去があるにも関わらず、懐かしいと感じる。

 再会だ。

 そう思うと共に、セラの頭にはもう一つ、真反対の感情が浮かぶ。

 別れだ。

 男装、変装としてのセブルスが本当にいるような、別の人格ではなく、別人としているような錯覚。当然、セラの記憶としてセブルスとして過ごしていた日々のことが残っている。また変装すればすぐにでもセブルスとなれる。

 そのはずなのに、セラには永遠別れのような気がした。これまで何度か体験した大切な者たちとの死別のように。

 心にはいる。

 想い描けば会うことができる。

 力をくれる。

 支えてくれる。

 兄や幼馴染や友のように。

 セラはネルの温もりの中、一筋の涙を流した。



 しばらくして、二人は身体を離す。

「それじゃあ、行ってくるね、ネル」

「ええ、行ってらっしゃい、セラ」

 四つのサファイアが笑む。

 碧き花が散る。

 トラセークァスにはサファイアが二つ、残った。

「……さて、研究研究! 感傷的になってったって、あなたには負けないわよ、寂しさ!」

 ネルは黄金を翻し、作業台へと向かっていった。

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