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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
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125:得体のしれない来訪者

 アスロンのノックのち返事があり、四人で小屋の中に入ると、そこには右脚に義足をはめた六十がらみの男が安楽椅子に収まっていた。

 男は外にいた人たち同様に色が白い。だが細くはなく、農作業を超えて身に着けたと思われる筋肉を有していた。戦士だ。テムは直感的にそう感じた。

「君の仲間にしてはカラフルだな、アスロン。彼らは?」

 細めた目で連盟の三人を見る男は安楽椅子が似合わない。敵だと語ればすぐにでもこの場で戦闘行為に出る、そんな雰囲気を醸し出していた。

「安心していい。彼らは異空連盟だ。『碧き舞い花』の偽物を懲らしめに来た。それに彼らもまた仲間をあの教祖に洗脳されてる」

「あああっ……そうか、異空連盟が動いてくれるのか……」唐突に男は涙を流しはじめた。嗚咽を零しながら、歓喜と感謝の言葉を紡ぐ。「そうか、俺たちはやっと、地上を、家族をっ…………ありがとう…………ありがとぉ……」

 テムとルピは揃ってアスロンに問いかけるような視線の向けた。するとアスロンは黙って肩を竦め、顔の前で手を合わせた。

 それをテムは謝罪と受け取った。そして平気だという意思を込めて手を小さく上げた。

 彼はなにも悪くない。連盟が動くとは一言もアスロンは口にしていないのだから。

 確かにテムたちは『碧き舞い花』の偽物に対応するためにこの世界に来た。それは連盟の動きであることに間違いはない。ただ、それは決してこの世界のためにと動き出したものではない。割かれている人員もテムたちだけだ。実情を知り、ホルコースに提言すれば対応してくれるかもしれないが、今のところは『土竜の田園』のために異空連盟は動いていない。

 男性の早とちりだ。詳しい説明をしたわけではないのだから仕方がないが、少し事実とずれたものが伝わってしまった。与えられた情報を自分にとって都合のいいように解釈したのだ。

 しかし、とテムは独り微笑む。これもまた、男性が悪いとは言い切れない。それに自分たちが動けば、結局はこの世界のためになるのだろうと思った。

『碧き舞い花』を騙った教祖を懲らしめる。それを聞いて男性が反応を示したのが決定的だが、この世界の抱えている問題は、あの宗教団体だということは地上での出来事も含めて明白なのだから。

 テムは安楽椅子の脇に膝を折り、男性にそっと話しかける。

「落ち着いたらで大丈夫ですから、戦争を終えたこの世界になにが起きたのか教えてください」



「失礼、取り乱した……。俺はこの『反旗の町』を立ち上げた男の一人で、名をゴンヮドという」

 男性ゴンヮドは落ち着きはらい、四人に椅子を勧めてから話しはじめた。

「戦火から逃れるため民は地下洞窟へと潜み、ひっそりと戦争が終わるのを待ち望んでいた。その中でも俺を含めた数少ない戦士と有志の男どもで終戦の機はないかと、ここに町を作り目を光らせていたのだが、結果俺たちの出番は来ることなく戦争は終わった。それも争っていた両者ともがこの世界から去ったのだ。厄災は去り、晴れて平和な日々が戻ると誰もが思っていた。戦争で大地が焼き荒らされ、酸に侵されたことなど争いそのものに比べればどうってことはなかった。集落間で協力し合いまたあの田園風景を取り戻していこうとみんなが笑顔に満ちていたさ。だがそれも束の間のこと。あの教祖と三人の幹部が現れたことで、全てが一変した」

 ゴンヮドはぐっと身体に力を入れた。

「あの女が微笑むと、大地が活気を取り戻したんだ。一瞬で! 俺もなにもかも嘘だったんじゃないかと思ったさ。だが俺はその得体のしれなさに恐怖も覚えてた。危険な奴だとな。そしてその勘は当たり、民は二つに分かれた。信者となった者とそうでない者。言葉で表せばそれだけだが、その中身は酷いもんだ。一方は正気を失い地上で暮らし、一方は故郷や家族を失い地下暮らし……。多くの民が疑うことなくあの女を狂ったように信じて祭り上げた。そんなことはやめろと訴えても無駄だった。摩訶不思議としか言いようがない。確かに超自然的な現象を目の当たりにした。それでも得体のしれないやつをすぐに信じるか? その場ですぐに膝をついて頭を垂れるか? ありえない! なによりそうやって狂ったやつらは異を唱える者は家族でも構わず襲いかかるようになったんだ。こんなことがあってたまるものかっ。表向きには平和な世界に見えるだろうが、それは本来の姿じゃない! 結局奪われたんだ、俺たちの世界はっ……!!」

 俯き、目元を押さえるゴンヮド。その手の陰から涙が流れ落ちるのをテムは見た。

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