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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
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122:教祖セラ

『碧き舞い花』を教祖とする宗教の情報を手に、コクスーリャがナギュラを伴って『土竜の田園』へ向かったのは半月ほど前のことだった。

 エァンダとサパルの依頼が一段落したコクスーリャにはその後、新たに夢見の民ユールの捜索が異空連盟から依頼された。監視という意味合いでナギュラと行動を共にしながら捜索をした結果、彼はユールとプルサージの遺体を『月輪雨林』で発見した。

 その報告をテムが聞いたのは、ヌロゥ・ォキャとの戦いを終えてスウィ・フォリクァに寄ったとき。ルルフォーラが夢見の民の力を手に入れてしまったのかもしれないという事実に、彼は舌打ちを抑えられなかった。そして、そのあとに知らされたのが、『土竜の田園』に入ったコクスーリャからの定期報告が途絶えたということだった。

 そうしてテムとイソラは、他の『賢者狩り』の被害者より長めの休養から明けたルピと共に、コクスーリャたちの様子を見に行くことになったのだ。

 そして宗教組織の聞き込みを町でしている最中、のどかな田園風景の中を移動する碧いフードの集団に、コクスーリャとナギュラの顔を見つけたのがついさっきのこと。テムは二人が宗教組織への潜入をしているのではないかと考え、二人に声をかけることなく集団をつけることにしたのだ。

 集団は田園を抜け、一つの洞窟に入った。入り口から地下に向かって伸びる、岩盤を削って作られた階段を下り、広がった空間を行く一団を梁を伝って追った結果、精工な彫刻に囲まれた礼拝堂に行きついて今に至る。

「長いなぁ……」ルピが零した。「さすがにこの体勢きついんだけど」

 テムは声を潜めて諫める。「静かに、コクスーリャに聞こえる」

「聞こえてるなら、もうバレてるって。テムは神経質すぎ。てか、コクスに聞こえても別に問題ないでしょ?」

 イソラが笑った。「テムは悪く考えすぎだからね、いつも」

「慎重なのはいいことだと思うよ、でもねテム、たまには大胆にならないと」

「今からあそこに降り立てとでも?」

「そういうことを言ってるんじゃないよ、なぁ、イソラ」

「えっ?……あー、うん。でもね、ルピ、その辺は大丈夫、かな……」

「……ん? なになに? もしかしてわたしが休んでる間に二人とも進展したの?」

「……」

「……いいだろ、俺たちのことは」

「へぇ、やっぱなんかあったね、これは」

「だからっ」

「はいはい」ルピは肩を竦め、それからイソラににやりと視線を向ける。「あとで酒でも飲みながら聞かせろよぉ、イソラ」

「……は、話すようなことなんて……ない、よぉ」

 消え入っていく声。イソラは暗がりでもわかるくらいに紅潮して、挙動がぎこちなくなっていた。その動揺に体勢を崩した彼女は梁から大きく身体をせり出してしまう。

「! イソラっ」

 咄嗟に伸ばした手でイソラの腕を掴むテム。イソラの落下を止めることはできたが、会話の比にならない音が礼拝堂に響いたのは言うまでもなかった。

 セラをはじめ、フードたちが一斉に天井に顔を向けた。その中にはコクスーリャとナギュラの姿もしっかりとあった。

「ちょっと二人とも」ルピが引きつった笑顔で言った。「静かにしなきゃ」

「新たな入信者かしら」慈しみに満ちたセラの声が耳に入った。「そんなところにいないで、降りてきて」

 テムは二人に告げる。「仕方ない、降りよう。大胆に、正面からいく」

 梁の上から揃って飛び降りると、腰を伸ばすルピを横目にテムは切り出す。

「悪いけど、入信希望じゃない。異空連盟だ。教祖、どうして『碧き舞い花』を騙る」

「騙る? ひどいわ」教祖はフードたちを割って三人の方へ歩み出た。「わたしは正真正銘『碧き舞い花』だというのに」

「連盟を名乗った俺たちを前にそれを言うか? 容姿も声もそっくりだけど、偽物なのは明白だ。どうだ、俺たちの名前でも言ってみるか?」

「それくらいで信じてもらえるならもちろんよ、テム。そしてイソラにルピ」

「うそっ」

「どうすんだよ、テム」

 名前を言い当てられたイソラとルピが小さくたじろぐが、テムはこれくらいは想定済みだった。

「上で話してたの、聞こえてたんだろ。俺たちそれぞれ名前を呼び合ってたし」

「あら、じゃあどうしてそんなことを聞いたの? どうせならもっと私的なことで確認すればいいじゃないの。例えば……」

「っ!?」

 教祖セラは花を散らして、一気にテムに身を寄せて来て、その胸元を指でなぞった。

「テム、あなたの胸にある傷。酷いお父さんよねぇ。慰めが欲しくないかしら?」

「大きなお世話だっ!」テムはセラの手を払いのけた。「これではっきりしたな。お前はやっぱ偽物だ!」

「あら? 深入りしすぎちゃったかしら」

 妖艶な笑みが、テムを見据えていた。

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