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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
119/387

117:迷宮街

 〇~〇~〇~〇

 変態の体得はそう難しいものではなかった。

 そもそもエァンダは浸透式呼吸で自然の驚異には耐えらる。ゼィロスが言ったように毒や火、雷に耐性がつけばそれで充分なのだ。

 初日で火傷を軽傷に抑え、二日目には落雷の衝撃に伏しながらも痺れを押し殺した。そして三日目の今日、毒の胞子を空気にしようと挑んでいた。

 喉にこそばゆさを感じながら、キノコに囲まれるエァンダ。

 背後に『変態仙人』テングの音を感じ、振り向かずに先に声をかける。

「ゼィロスはどこに行った」

 だいぶ抑えていたようだが、ナパードでクァイ・バルから出ていった音を聞いたのはついさっきだ。

「はて?」

「しらばっくれても無駄」

「……ズエロスならば、用があるとこの場を離れた」

「その用を聞いてる」

「わ、わしは……そこまでは知らんのぉ」

「嘘だ。波を感じなくてもわかる。それで、どこの世界に『虎の目』を追いに行った」

「……なんと、そこまで知れているとは」

「今知った。やっぱルファの情報を追ったのか」立ち上がり、振り返る。「で、どこ?」

「…………」

「今さら黙ってもさ」

「ズエロスにお主には言うなと言われておる」

「じゃあ、ゼィロスが戻ったら、俺は修行を終えて出ていったって伝えといて」

「ならぬ! お主をここより出すなとも、言い預かっておるでな」

「ナパスの民に向かって、出ていくなって? 口で言っても俺たちの自由は縛れない」

「そもそも修行は終わってなかろう」

「いや、もう終わった」

 エァンダは足もとのキノコを一つ手に取った。そして頭からかぶりつく。

「……まずくはない、けど変な味…………鼻から吸い込むより、毒性は強いだろけど、平気だ」

「なんと……バケモノじみた子よぉ。この見た目のわしが言うのもなんだがのぉ、よかぁ、よかぁ!」

 ひとしきり笑うと、テングは三つ目を細め、エァンダを見た。その口元は悪戯をする子どものようににやついていた。

「わしが伝えたことは内緒にのぉ」声を潜め、テングは言う。「ズエロスは迷宮街へ向かったのだ」

「迷宮街……ガラクタ路地、『蜘蛛(ホホロ)()(フュテイ)』か?」

「さいだ。ホホロ・フユテーだ。そこにその『虎の目』なる暗殺を生業にする者がいるとか、なんとか言っておったのぉ」

「わかった。ありがとう、テング」

「わしはなにもしとらん。お主が盗み聞きしておったのだろう?」

「そういうことにしとくよ、じゃあ」

 エァンダは軽く頭を下げてから、群青を散らした。



 路地が蜘蛛の巣のように入り組んだ世界。

 貧相なつくりの家屋は建物と呼んでいいものか迷うほどお粗末で、ガラクタの寄せ集めだ。しかしそれらがうまいこと噛み合い、多少の風や揺れでは全く瓦解することはないのだから不思議なものだ。

 そしてホホロ・フュテイは悪人の隠れ蓑であり、巣窟ということで有名だった。

 近隣に住む者のことなどほとんど気にしない人々は、すぐ隣に眠る人間が元々この世界の人間かどうかさえも知らないだろう。

 ルファが潜んでいてもおかしくはない。

 エァンダはゼィロスとルファの声や心音を探した。しかしうまくいかない。組み立てられたガラクタたちが軋む音が邪魔をする。

「エァンダ!」

 ようやく聞こえたゼィロスの声は呼びかけだった。その方向を見ようと顔を動かすと、背後に白刃の煌めきを見た。

「っ!」

「っち」

 咄嗟にしゃがんだエァンダの頭上を刃が斬る。その風切り音はなく、ただわざとらしく大きく出されたルファの舌打ちだけがエァンダの耳に届いた。

 全く音がなかった。

 どれほど小さくしても、ナパードの音がないということはないのに。

 二の手を繰り出すためにルファが動くが、その音がない。

 ひとまず後方に花を散らすエァンダ。

 ルファの斜め後方の路地からゼィロスが出てくる。エァンダもルファもそれには目を向けない。

「久しいな、チビ公」

 爪のような弧を持つ剣を肩にこつんと乗せ、虎の目が笑んだ。

 〇~〇~〇~〇

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