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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
118/387

116:自由なる子

 〇~〇~〇~〇

 フェースは『夜霧』と呼ばれるようになった集団の幹部だと、告げられた。

 ナパードを用いてロープスという異空移動を可能にする道具を与え、集団の兵士たちが訪れた世界に危害を加えることに加担しているという。

「……そうか」

「……とはいえ、まだ情報が足りないから断言はできない。気を落とすような言い方をしてすまない。連れ戻せるのなら、連れ戻す。フェースに関してはレオもそう言っている」

 すかさず付け加えたゼィロスだが、エァンダは言うほど気落ちしていなかった。ただ無感動にその事実を落とし込んでいた。もう、驚きすらもなかった。

「別に気にしてない。話はそれだけ?」

「ああ」

「じゃあ、また明日」

 エァンダはひらっと手を振り、ゼィロスの家をあとにした。



 翌日からゼィロスの修行ははじまった。

 静かなナパードを教わり、他の技術に関しても学べるものは学んでおこうと意気込んで取り組んだエァンダ。数日のうちはその意気込みが覆っていて気付かなかったが、次第に居心地の悪さを感じはじめていた。

 どうにも窮屈だった。

 教え方が下手なわけではない。むしろルファよりも的確な言葉をくれるのがゼィロスだ。

 下手なフリをしていたせいで、エァンダのナパードに変な癖がついてしまっていることも早々に気付き、矯正の助言もくれた。次第に癖は抜けてきて、エァンダのナパードから騒ぎはなくなった。

 そう、ゼィロスの修行には(・・・・)なんの問題もなかった。

 エァンダを窮屈に思わせたのは、修行から離れている部分だった。

 生活面、影としての心構え、世界巡り、異空の歴史……。

 ゼィロスは修行の合間、事細かに、あらゆることを説いた。

 そこにはきっと、ルファの弟子だったエァンダへの憂慮や心の手当てなどの意味合いもあったのかもしれない。少年でありながら大きなものを背負ったエァンダに寄り添い、支えているのかもしれない。

 鬱陶しかった。

 別にルファが言っていたような、消してしまいたいという悪意に満ちたものではなかった。それでも、離れたかった。

 過保護になってもらう謂れはない。

 邪魔くさく、むしろ自分の成長の妨げになっているのではないかと、ある時エァンダは思いはじめた。

 そうしてゼィロスにクァイ・バルへ連れてこられ、そこで環境に適応する術を学ぶのだと聞いた時、エァンダはついにそのことを口にした。

 白々と光り輝く樹々の森に入り、辺りが静まったところで切り出した。

「環境への適応ならもうできる。そろそろネタが尽きたなら、もう一人でいい」

「なに?」

「もう一人で異空を回りたいって言ったんだ」

「己惚れるなよ。まだ九つになったばかりで。それにいいか、エァンダ。お前の会得している浸透式呼吸では温度や乾燥、空気の薄さといった単純な自然環境にしか対応できない。その点変態は火や(いかずち)、それから毒や俺たちにはあまり関係ないが酒なんかにも耐えられる技術だ」

「そうか、じゃあこれが最後だ。俺はそれを知ったら、一人で行く。心配はいらない。あんたも自分のやりたいことができるだろ、歴史の研究とか」

「そういう問題ではない」

「じゃあなんだよ。監視か? ルファの弟子だったから、俺もグレるって?」

「違う」

「違うって、だって、それくらいしかないじゃん。もう影としての振る舞いも、異空を巡るうえでの注意も教わった。他にもいろんな知識を知れた。なにより、もうあんたより強い。充分じゃないのか」

「充分だ。だだ、駄目だ。一人にはできない。お前はルファに囚われている。身体は自由になったが、そのエメラルドにはあいつしか映っていない。修行のすべてがあいつをそこから消すためなんだろ。お前がその考えを改めなければ、一人にはしない」

「別にいいじゃん。どうせ影としてルファは殺さなきゃいけないんだから」

「そういうことでは――」

「よかぁ、よかぁ! なかなかに面白き子よのぉ!」

 突如、森の上の方から高々な笑い声がしたかと思うと、二人の前に赤い肌の三つ目が、黒い翼をはためかせ降りてきた。

「お主はズエロスの新たな弟子かぁ? 名は?」

 三つ目がエァンダを隈なく見定める。

「半分正解、あんたが『変態仙人』?」

「いかにも。で、名は?」

「エァンダ・フィリィ・イクスィア」

「エアンダ・フエリ・イクスエア……やはり難しき発音、よかぁ!」

 独り楽しそうに笑う『変態仙人』。エァンダはそれに構わず告げる。

「早く修行をはじめよう」

「おっ、ほお、自由なる子よのぉ、よかぁ! ついて来い」

 踵を返し歩き出す『変態仙人』。エァンダはすぐに続く。

「おい、エァンダ、変態を会得しても一人で行くことは許さないからな」

「俺の身体は自由だ。嫌ならルファみたいに拘束すれば?」

「……っ、はぁ」

 後ろから聞こえる溜息に、エァンダは小さく肩を竦めて見せるのだった。

 〇~〇~〇~〇

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