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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
114/387

112:凪の渓谷

 〇~〇~〇~〇

 背中から自分の首に剣をあてがう師匠。そして、渓谷に散る色とりどりの花々。

 エァンダは状況を瞬時に理解した。

 六人のナパスが二人を取り囲んでいる。以前ルファを追って現れた彼らの顔はエァンダも知るものだった。そしてその中にはビズラスとゼィロスの姿もあった。

 ルファが低くエァンダの耳元で囁く。「エァンダ」

「……俺はなにも」と刃に気を付けながら首を振るエァンダ。

「ああ、そうだろうよ。お前はなにもしてない。そこに嘘はない。だが、だからこそ俺はお前の無意識を疑う」

「そんな……こと……」

 正面に現れた六十がらみの男が口を開いた。「ルファ、その子を放せっ」

「黙ってろ、ブァルシュ!」ルファが怒鳴り返す。「弟子との会話中だ! 最後になるかもしれねえんだ、邪魔すんな」

 ルファは再び声を落としてエァンダに続ける。

「暴論だと思うか? ありえねえ話じゃねえんだぜ、チビ公。俺は詳しくねえが、世界に愛されし者ってのがいるんだ。お前はきっとそれだ。世界に護られてる。お前がすぐにものを覚えるバケモノっぷりもそれだ。そして、その恩恵の一つで、お前はナパスを呼ぶような(すべ)を持ってるんだと俺は考えた。無意識にそれを使ってて、それが作用して、ナパードの高度技術に弊害があるのかもしれねえ」

 全く実感のない話に、エァンダはなにも返せなかった。

「ま、一つの考察だ。違うかもしれねえ。お前が弟子を続けてくれるなら、その謎を究明したい。そうすりゃ、ナパードの精度を上げる道も見えてくるかもしれねえぞ」

 弟子を続けるなら。エァンダはその言葉に不穏を感じ取った。

「だから、決めろ。チビ公。俺と一緒に戦うか、俺に今ここで殺されるか」

「……ルファさん」エァンダは絞り出すように告げる。「フェースとお父さんとお母さん……殺したの?」

「フェース知らねえ、前言った通りだ。んで親父さんとお袋さんは殺したよ、刃を向けられたんでな。で……俺の質問に答えろよ」

 エァンダの問いにそっけなく答えると、ルファの唸るような低い声が背中を震わせる。弟子をやめればすぐに首を落とされる。

 確実な方法は一つある。だが成功するかはわからない。

 エァンダは一度エメラルドを閉じて、息を長く吐いた。そうして再びエメラルドを露わにすると口を開く。


「戦うよ……」群青が散る。「ルファ、あんたと」


 ルファの正面に一人抜け出したエァンダ。群青の花びらが舞う中、首筋から落ちていく剣を肘で弾いて、華麗に回して手に取ると、その切っ先を師匠だった男に向けた。

「くはっ、がははは!」ルファは嬉しそうに笑った。それから鋭くエァンダを見て、口角を鋭利に上げた。「できたじゃねぇか、チビ公ぉ!」

 その直後、ルファはエァンダの懐に入った。彼の膝蹴りをエァンダは腕で受け止める。

「いい度胸だ。が、度胸じゃ勝てねえ!」

「ふぁ、がっ……」

 マラカイトに包まれたかと思うと、エァンダは僅かに浮遊感を感じたのち、ルファに押し込まれる形で背中を大地に叩きつけられた。

 ナパードは跳ぶ前の体勢と動きを保つ。しかし跳ぶ際に角度を変えることができる。正面を向き合っていた相手の背後に、同じ方向を向いて立って現れることができるのものこの原理のおかげだ。

 その場でのナパードであったが、地面に対して九十度角度を変えることで、ルファはエァンダを地面に倒したのだ。

「ぐ、ぅ……」

 苦痛に表情を歪めるエァンダから、ルファは剣を奪った。そして逆手にしてエァンダに向けて振り下ろす。

 だがそれを六人のナパスが黙って見ているはずがない。



 振り下ろすのを途中でやめ、エァンダからナパードで離れるルファ。元いた場所にはビズラスとブァルシュがいてエァンダを起こしている。

 そして、残りの四人は――。

 ――いや、三人だ。

 前方。ゼィロスと影の紅一点ヨフィニァが離れたところから、隙を狙っている。

 左。キィリは同期のアゥルガの首が今しがた飛んだことに、ルファの近くできょとんとアホ面をさらしている。次に自分の首が飛ぶことなど、全く考えていないだろう。

「ゼィロス! ヨフィニァ! そんなとこいていいのか?」

 ルファは不敵に笑んでキィリの首を撥ねた。

「若者の首が飛んだぜ?」

「アゥルガ! キィリ!」と桃色の花を咲かせるヨフィニァ。

 ゼィロスが叫ぶ。「よせっ、ヨフィニァ!」

 年次で言えばビズラスの上、ゼィロスとルファの下。この世代の影、もとい戦士は不作だ。ルファは呆れるばかりだ。警戒するに値しない。

 こうもあっさりと三つの花が落ちた。

 足元に転がる三つの死体を跨ぎ、ルファはゼィロスの前に立つ。

「よくもまあ影になれたもんだな、こいつら」

「ルファ……メィズァ先生に申し訳ないと思わないのか」

「メィズァ、メィズァ、メィズァ……もう死んだ人間だぞ。いつまで縛られてんだよ、ゼィロス」

「敬意も、恩もないのか」

「あるさ。ブァルシュに教えを受けてれば、俺がああなってたかもしんねえ」

 背後をしゃくるルファ。そこへブァルシュがゼィロスに並んだ。

「おお、ブァルシュ。あんたが俺の師匠じゃなくてよかったって話、してたんだ」

「俺も、お前が弟子でなくてよかったと思ってるところだ。メィズァには悪いがな」

「またメィズァか……まあ、当然と言えば当然か、ずっとあいつと比べられてたもんな、あんたも。でもよかったよな、あいつが死んでくれて。影を仕切る気分はどうだよ? 俺も、あんたを殺せば、その場所に立てるかねえ?」

 見透かすように笑うルファ。ただ黙ってルファを睨むブァルシュ。そんな二人を交互に見やりながら戸惑いを顔に浮かべるゼィロス。

 渓谷に風はなく、血生臭さが立ち込めはじめていた。

 〇~〇~〇~〇

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