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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
105/387

103:半分成功

 温かな空間との急激な別れ。

 セラは自分が俵の段々畑の頂上にある闘技場の中央に立っていることを理解した。そして彼女の腕を握る、紫の衣装に身を包んだ六本腕の男にサファイアを真っすぐ向ける。

 男装してフェリ・グラデムに入り込んだ四年前、三十六階層で拳を交えたキィン・ジィーン出身の僧侶だ。

「わたしはセラで、あれは男と男の約束だったでしょ、アシェーダ」

「ん?」アシェーダはわざとらしく眉を顰める。「じゃあなんで俺の名前知ってるんだよ。初対面だけどな、『碧き舞い花』とは」

「そっか、はじめまして。ヨコズナの遣いさん。そろそろ離してくれる?」

「あ、ああ、すまない」

 アシェーダが手を離すと、セラは問う。「行司になったの?」

「まあ、色々あってな」肩を竦めるアシェーダ。「そもそもは約束を反故にされたからなんだけどな、どこかの渡界野郎に」

「誰のこと? わたしの知ってる人かな?」

「よく知ってるんじゃないか?」

 セラは悪戯っぽく笑んで視線を逸らした。

「ま、冗談はこの辺にしようか」アシェーダが真剣な声色になる。「ヨコズナ様たちがお待ちだ」

 セラは申し訳なさと戸惑いを混ぜる。「でも、今のわたしじゃ……」

「…………」アシェーダは僅かに表情を険しくて沈黙し、それから一転微笑んだ。「俺は呼ぶ使命を受けただけだ。とりあえず、会えてよかったよ、セブルス。そしてセラ。健闘を祈る」

 どこか心配するような真に迫った言葉を言い終えると、身体の前で六つの合掌を見せるアシェーダ。と「違うか」首を傾げると、六つの拳をセラに突き出した。

 戸惑いは残ったままだが、セラは彼の想いに応える。

 拳を突き出す。

「約束、破ってごめん」

「いや、お相子だ。俺も謝る、悪かった」

「え?……!?」

 彼の言葉に訝しむと、ぐわんと視界が揺れた。身体が揺れた。

 大地が揺れているわけではない。アシェーダは平然と立って、セラを見つめている。

「新しい約束してくれるか?」

「どう、いう……?」

「死なないでくれ」

 ぐぅわわぁん……。

 セラの視界が暗闇に支配される。

 そして落ちていく。

 ――これは。

 セラは記憶と照らし合わせ答えを見つけると、意識を失った。



 目覚めた。

「ぅ……!?」

 記憶と違った光景だった。

 ヨコズナによって意識の底に落とされたのだと思ったセラだったが、前回とは様相が違っていた。

 荒れている。

 エメラルドに包まれた空間だが、暗く、碧花の嵐が巻き起こっている。

 ――意識の底じゃない?

 彼女の思ったことが、暴風のなかに微かに反響した。

 ――やっぱり意識の底?

「ヨコズナ! どこ?」

「ここにおる。そのまま傾聴しろ、人の子」

 セラと背中を合わせるように突然現れたヨコズナ。セラはなによりも状況を知りたかったので、神に従って頷く。

「奇しくも、いや、きっとフェルだけは知りえていたのだろうが、お主は二年前にはじめた最初の試練を半分成功させている」

「え?」

「意識の底に持ち得ている技術を落とし込んだ」

「そうなの?……でも、なにもかも思うようにできない……」

「傾聴しろと言った」

「ごめん、続けて」

「落とし込んだが、馴染んではいない。奇異な方法故、そうなったのだろう。して、見てわかるように、今、お主の意識の底は混迷を極めておる。思ったものを意識の上層に持ち上げられない状態。生命の波に関係なく、それは思惟の波にも及び、外の力を用いることも、感じることもままならなくなっていることだろう」

 まさにその通りだと、セラは黙って頷く。

「これよりお主には、馴染ませをしてもらう。お主がそれを成した時、試練は次なる段階へと進むだろう」

 それを最後にヨコズナ神はその場から跡形もなく姿を消した。

「……」

 ――どうやって?

 嵐の中、彼女の心の声が空虚に響いた。

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