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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花

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10:不完全

 台無しになってしまった以上、とことんやろう。

 ヴェールもナパードもおよそ二年ぶりだった。それに留まらず、生命(いのち)の波を用いる技術の使用を禁止していた。

 真の古の力を得るための、時間だけが必要な期間。またはじめからやり直すのか、それとももう駄目なのか。過ぎった疑問は恋人の危機に比べれば、彼女にとって小さなものだった。だから、跳んだのだ。

 セラに向かってヌロゥの空気が放たれた。

 その空気の塊に向かって、セラはフォルセスを握らない左手を差し向ける。その手はヴェールとは別に淡く輝く。

 優しく空気の塊を受け入れ、流れるように腕を回すと、空気に勢いを増してヌロゥへと返す。

 セブルスとして使えたのは感覚に根差す技術と、その身に染みついた剣術と闘技。それからあと一つ、外に在る力だった。

空纏(くうてん)の司祭』ンベリカの亡き後、彼の故郷チルチェは『夜霧』の攻撃を受け、評議会の応援も虚しく滅びた。生き残った数少ないチルチェの人々は新たに連盟に加わり、門外不出であった外在力の技術の提供を惜しまなかった。

 セラが学ばないわけがない。

「外在力! そうかお前も!」

 返って来た空気弾を歪んだ剣で切り捨て、ヌロゥはセラとの距離を詰める。

 セラは左手をクイッと引いた。ヌロゥの背後に二つの火の球が飛ぶ。

 マカとの混合。

 セラは空気を返す際に自身の魔素を混ぜ込んでいた。それにより発火させたのだ。

「っ!?」

 ヌロゥは即座に振り返り、先ほど真っ二つにして切り捨てた炎を発する空気を、今度は腕を振ってかき消した。

 敵の背後をとったセラは、フォルセスを振るう。

 空気の壁が現れるのをセラは感じ取る。だが関係ない。

 セラが振り抜いた愛剣はヌロゥを真っ二つに斬り裂いた。

 彼女には思惟放斬(しいほうざん)がある。

「……」

 手応えがない。

 こうも簡単にヌロゥ・ォキャを倒せるわけがない。

 久しぶりのセラとしての戦闘。今まで使わないでいた技術がぎこちないことは、自身でも気が付いていた。空気も片手にしか纏えず、魔素もちょっとした発火しかできなかった。想像では爆発するはずだった。

 目の前の真っ二つとなったヌロゥの姿が薄らいでいく。そしてその先、洞窟の奥にヌロゥの姿があった。

「面白くないな……台無しと言っていたが、なにか大きなことを企んでいた最中か。そうすれば、楽しめるか?」

「そうかもね」

「くくくっ……いだろう、待ってやるよ、待ちわびてやるよ、舞い花」ヌロゥは剣を指輪の中に消した。「性急だったことは詫びておく。だからこそ、次こそは俺を楽しませて死ね」

 セラは黙ってヌロゥのくすんだ左目を睨む。その表情とは裏腹に、彼女はヴェールを消し、フォルセスを納めた。

 しばし視線を交え合うと、二人は示し合わせたかのように、同時にその場から姿を消した。



「みんな、帰ろう」

 セラは仲間たちのもとへ跳んだ。

「セラお姉ちゃん」イソラが括り上げた前髪をひょこひょこ弾ませて、すぐさまセラにくっつく。「ほんとにセラお姉ちゃんだ」

 イソラがセラを確認するように抱きついている中、テムは問う。

「セラ姉ちゃん、ヌロゥは?」

「向こうも帰った、のかな? もうこの世界にはいないよ」

「そっか、気配が消えたからセラお姉ちゃんがやっつけたのかと思った」

「できればそうしたかったけど、なんか思うようにマカとか使えなくて」

 マカという単語に、セラはユフォンに目を向ける。それに気づいて、イソラが彼女から離れた。

「よかった、ユフォン」

「うん、ありがとう、セラ。そして、ごめんよ」

「なんで謝るの?」

「さっきは、どうして来たって怒鳴っちゃったけど、よくよく考えると僕のせいだから。僕のせいで君にナパードを使わせちゃった」

「言いつけを破ったのはわたし。ユフォンはなにも悪くないよ。これからのことはフェル叔母さんとヨコズナに確認するよ。それでもし、駄目だったとしても、全部わたしが自分で決めたことだからユフォンに責任はないって」

「そうは言われても」

「そだよ、それならあたしたちだって! シァンにばれちゃったし」

「おい、お前ら」キノセが顔を顰める。「まだ敵地だぞ。そういう話は帰ってからにしろよ」

「大丈夫だよ、キノセ」テムがまったくといった顔で言う。「敵が来る気配ないし」

「そんなことは俺だってわかってるんだよ。ああ、もういい、とにかくネルフォーネのとこに戻るぞ」

 諦め、呆れたキノセにセラは微笑んで頷いた。

「うん」

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