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第五話 呼ばれた理由

ピアルテを出て街道を歩いているとすぐにロシュフォーンの王宮とその街並みが見えてきた。

ロシュフォーンの遥か後方には、高い山々が連なっているのが分かる、恐らくここからロシュフォーン王都までは

徐々に標高が高くなるのだろう。


王都に近づくにつれ、その大きさにただ驚く。

小高い丘の上にそびえる巨大な王城の周りに恐らく貴族が住んでいるのであろう大型の屋敷が集まっている区画がある

さらにそこから放射状に街並みが広がり、王城から離れるほど家の高さは低くなる。

貴族街の周りには商業区のような区画が並び、その外側に恐らく一般人が生活する下町が広がっているのだろう。

都市の東西は恐らく一〇キロメートル以上に渡って伸びている。

この分だと人口は二〇万人を超える規模ではないだろうか。

その都市を、一定の区画ごとに城壁で囲んでいる。

この城壁を作るだけでも一体どれだけの歳月とどれだけの人間、そしてどれだけの金が必要だったのだろうか、想像もつかない。

そんな圧倒的で、そして美しい街並みが目の前に広がっている。


都市の周りには田園地帯が広がり、農家らしき家々が点々と立ち並んでいる。

これだけの都市が消費する食料を生産しているとなれば、その規模はどれだけになるだろうか。


「コリーン村が百個あっても全然足りないだろうな」


「当然王都周辺だけじゃ食料をまかないきれない、国内外の村や町と頻繁に物資のやり取りを行っているんだよ」


「だからこそ、交通の要である街道で、あんな大規模な襲撃がある事なんてそう無いんだけどな

常に人がいるし、付いてる護衛も素人じゃねえ事が殆どなんだからよ」


そうだ、けが人や死人が出てしまったとはいえ、ガドラス達は自分たちの四倍の数の盗賊を撃退したのだ。

戦士としてのその腕は相当なものなのだろうという事が窺える。

何せ、人はどんなに訓練していようと、いざ二対一になればほぼ数が多いほうが勝つのだ。

それを覆すには、単純な強さの他にも、囲まれない為の立ち回りや、敵を孤立させるような戦略が必要となってくる。

ガドラス達はその点も、盗賊達より遥かに優秀だったという事だろう。


そういえばあの後、ピアルテの警備隊から連絡があり、俺達が襲われた件は国に連絡され、近く、討伐隊が組織されるだろうとの事だった。

もはや俺にできることなど何もないが、できるならカッツの仇を取ってもらいたい。



――



俺達はロシュフォーン城下町に入るための門の一つに到着した。

まだ日没前だが、あと二時間もすると日が暮れてしまうだろう。

門の前には城下町に入るための人の列ができている。

もう無理だと悟った人たちは、少し離れた待機所のような場所で、野営の準備を行っていた。


「まあ俺達にはこれがあるから大丈夫よ」


そう言ってガドラスが出したのは、封蝋が施してある羊皮紙だった。

それを持って門番のところへ行き、しばらくしたあと、城門の脇にある王国関係者専用出入り口へと誘導された。


「なんだか、順番待ってる人たちに悪いですね」


「いいんだよ、お前は王家に呼び出されてるんだから」


ガドラスは、さも当然だといった風だ。

まあそうなんだろう、実感は全く無いが俺は今ロシュフォーン王家に呼ばれてここまで来ているのだから。


城門からしばらく、門番が誘導して道を進んでいく。

市民区画を抜け、商業区画を抜けた先にある大きな門の前で止まり、ここで待つように言われた。

しばらくそこで待っていると、門が開き、中から大型で豪華な馬車が現れた。

馬車のドアが開き、そこからスーツのようなものを着た執事らしき男が出てきてこちらをジっと見つめる


「私は第一王女、イザベラ様に使える執事でカーマンと申します、そちらがノア様でいらっしゃいますか?」


身なりの良い執事らしき人物が名乗ったあとに、俺の名の確認を行う。


「ああ、こちらが王家からご指名のあった方だ、丁重に頼むぜ」


ガドラスが先ほど門番に見せていた羊皮紙をカーマンという執事に渡す。

カーマンはそれをさっと確認し頷いた。


「承知致しました、それではノア様、長旅ご苦労様でございました。

本日は日も遅いため、お宿の用意ができておりますのでこちらにどうぞ」


そう言って豪華な馬車へ乗るよう促してくる。

俺はどうしたらよいか迷い、ガドラスを見る。


「これで俺たちの依頼は達成だ、ノアよ、あとはお前次第だ、頑張れよ」


ガドラスはそう言うと手を降った、隣りに立っているエバルトとグインも同じように手を振っている。


「短い間だったけど色々あって楽しかったよ、他のメンバーの事は気にしないで、頑張ってくれよ」


「……ではな」


二人共短い挨拶だけして、自分達の乗ってきた馬車に乗り込んだ。

……そうだ、ここからは俺一人でやらなきゃいけないんだった。


「ありがとうございましたガドラスさん、エバルトさん、グインさん!」


馬車の方を向いてお辞儀をする。


「ポロニアに来ることがあったらよろしくな!」


ガドラスはそう言うと、馬車を反転させて市民区へ戻っていった。



――



「ロシュフォーン王国第一王女、イザベラ・カストレア・ロシュフォーンと申します、お見知り置きを、ノア様」


貴族街にある高級宿に宿泊した次の日

朝早くに執事のカーマンが迎えに来て、そのまま王宮へと向かい

そして今、俺はこの国の第一王女であるイザベラに自己紹介を受けていた。


イザベラは燃えるような赤く長い髪をウェーブさせており、顔は非常に整った見目麗しい女性だ。

目は切れ長で少しきつい印象があるが、背が高く、スタイルも良さそうだ。

目の下に泣きぼくろがある。


「あ、シドー・ノアです、よろしくお願いします」


「あら、シドーとは?」


「え、と、せ、姓です」


何で俺はこんな場所にいるんだろうか。

イザベラの両脇には護衛の兵士が二名おり、後ろにはお付のメイドが四名いる。

そしてイザベラの斜め後方には昨日俺を案内してくれた執事のカーマンが控えていた。


「イザベラ様、ノア様はお言葉がまだうまく使えないご様子ですので……」


「分かっています、作法を求めたりはしませんよ」


そんな内容の話をしていた。

もう一度言おう、何で俺はこんなところにいるんだ……??


「立ち話も何ですので、こちらへどうぞノア様」


イザベラの誘いで、俺は王族専用の客室のような場所へ案内される。

ノトスの家が収まってしまうほどの間取りに、様々な調度品が配置されている

どのくらいの価値が有るものなのかさっぱり解らないが。


「お前たちは外でお待ちなさい」


イザベラは部屋の入口で護衛とメイドを外に待機させているようだ


「イザベラ様、それは……」


「良いのですよ、あの方は私のお客様なのですから、ああ、カーマンにはお茶の用意をしてもらおうかしら」


「承知致しました」


そしてイザベラはドアを閉め、中央のテーブルに備え付けてある椅子に座った。

この椅子も高そうだ、宝石のようなものが散りばめられている……これ、ルビーか?


「ノア様もどうぞ、おくつろぎくださいませ」


「し、失礼します」


「ノア様失礼致します、お飲み物は紅茶でよろしいでしょうか」


俺がテーブルに座ると同時に、カーマンが俺に飲み物を聞いてくる。

何があるのかさっぱり解らないので、おまかせにするしかない。


すぐに二人分の紅茶がテーブルに置かれる。

ふと気がついたが、カップを置く音が全くしない。


紅茶を配り終えるとカーマンは目立たない位置にスッと下がった。

動きを見る限りプロ中のプロと言って差し支えないであろう。


「この紅茶は、ラギウスから取り寄せたものですのよ、あの竜王セシルも愛飲しているのだとか……お口に合えばよろしいのですが」


イザベラはそう言うと優雅な動作で紅茶に口を付ける。

つられて俺も紅茶を飲んでみた……渋みの中にほのかな甘さが広がる

俺に茶の良し悪しなど解らないが、おいしいお茶だと思う。

竜王も飲んでるお茶……竜も茶なんて飲むのか。


「お、おいしいと思います」


「それは良かったですわ」


そのまま数十秒、イザベラと向かい合う。

イザベラはこちらをじっと見つめている……何を見ているのだろう。


「どこから、申し上げたら良いでしょうか……」


イザベラはそう言うと少し考え。


「ノア様は、恐らくこことは別の世界からやって来られた方ではないか……とお察し致しますが、いかがでしょう?」


この瞬間、俺は全身を殴られたようなショックを受けていた。

なぜこの眼の前にいる王女がそれを知っているのだろうか。

なぜ? という疑問が頭のなかを支配する。


「やはりそうでしたか」


イザベラは少し困ったような顔をしてこちらを見ている。


「実は……この王宮の中では少し困ったことが起きておりまして」


お恥ずかしい話ですが、とイザベラが話した内容は俺にとっては衝撃だった。

なぜなら俺が知りたかった疑問の多くが、その話の中に含まれていたからだ。


イザベラの話を要約すると次のようになる。


まずこのロシュフォーン王国の現在の王、リグレッド・グラマス・ロシュフォーンは数年前から病で倒れ伏している状態だ。

正直なところ回復の見込みはなく、崩御は時間の問題だそうだ。

ここでありがちな問題が浮かび上がる、後継者問題である。

現在のロシュフォーンの後継者一覧はこうなっている。


長男:アリオス・カストレア・ロシュフォーン(二七歳)

長女:イザベラ・カストレア・ロシュフォーン(二四歳)

次男:ノエル・カストレア・ロシュフォーン(二二歳)

次女:カサンドラ・カストレア・ロシュフォーン(一八歳)

三女:ドロテア・トロメア・ロシュフォーン(一七歳)

四女:クラリス・トロメア・ロシュフォーン(一四歳)


三女と四女は継承順も下でさらに妾腹の為、余程の事がなければ継承権が発生しない。

順当にいけば、長男のアリオスで決まりなはずだ、しかしこの長男、ものすごく出来が悪いらしい。

そして、いざ後継者を選ぶ段階になった時、現王リグレットはなんと後継者に次男のノエルを指名したのだ。

アリオスは当然怒り、現王に指名を変更するように詰め寄ったが、現王はそれを聞かなかった


そのうちに現王の体調が悪化し、今では話すこともろくにできない有様らしい

このまま現王が崩御すれば、次の国王はノエルである。


それを良しとしないアリオスはノエルの暗殺を企てた。

しかし、城内は大臣から貴族に至るまで、ほとんどノエル支持で固まってしまっている。

アリオスには、ノエルと戦えるだけの手勢を集める力はなくなっていた。

そこでアリオスは禁断の魔法である、異世界召喚術を行うことを決意する。


異世界召喚術とは召喚魔法の一種だが、普通の召喚魔法が、同一の世界またはこの世界に関わりの深い近い世界から召喚対象を選択するのに対し

異世界召喚はどこの世界からどういう対象が呼ばれるか分からない。

また、異世界は解明されていない部分が圧倒的に多く、人間の手に負えない存在を呼んでしまう事もあるそうだ。

そうなった場合、天族や魔族が出てきて後始末をすることになるのだが、そういう事態になればこの国程度は間違いなく滅ぶであろう。

そういったリスクと隣り合わせの魔法なので、世界中で使用を固く禁じられているのだという。

現在では天族や魔族の手により、異世界召喚術の実行に関する資料は手当たり次第破棄されており、ロストテクノロジーの一つとなっている。

使用した者は元より、使用を目論んだだけでも死罪となり得る程の禁忌だという事だ。


そんな失われたはずの技術をアリオスはどこからか入手し、密かに集めた術者と別荘の地下で秘密裏に異世界召喚術を行い、それは成功したのだそうだ。

企みを察知して、ノエル達の部下が踏み込んだ時には既に召喚は終わっていた状態だったという。

アリオスは異世界召喚を行った現場を押さえられ、程なくして処刑されたそうだ。

国王候補でも例外は無いというのは、この国のみならず、天族と魔族の合意で定められた世界的なルールであるかららしい。

ただしこの場合、召喚儀式が終了した直後に現場を押さえ、関係者を全員粛清することに成功したため、外には異世界召喚の事実が漏れていない。

その為、王族が禁忌を犯しましたとバカ正直に発表して他国を刺激する必要もないので、アリオスは病死という事で対外的には発表された。


後継者騒動はアリオスの半ば自爆行為で終了したのだが、問題は召喚されたと思われる者が近くにいない事だった。

恐らく召喚地点がずれたのだと思われたが、事実を公表して大々的に捜索する訳にも行かない。

ロシュフォーンで掟破りが行われたと知られれば、近隣の国からは叩かれるし、下手をすれば天族や魔族が出てくるので、内密に事を進める必要があるのだ。

そして秘密裏に、最近現れたこの世界の者ではなさそうな存在がいた場合、王宮に招待するよう各所の貴族たちに触れを出したらしい。

そこに引っかかったのが俺だったという訳だ。


まとめていてある事に気がついた。

これって俺が消される流れじゃないか?


「とんでもございません、こちらの不手際でノア様には大変なご迷惑をかけてしまいました。もちろん誠心誠意謝罪させて頂き

元の世界に帰還していただくつもりでございます。」


イザベラは大変申し訳無さそうな顔を浮かべ、俺に帰還までの道筋を説明する。


まず、帰還術式はアリオスの集めていた資料を元に作成する、難しいものではあるが、不可能ではないらしい。

ただし、禁呪に相当するものなので、術の作成と人員を集めるために時間がかかってしまうとのことだ。

また、計画が外部に漏れるとまずいので、俺にはしばらく外界との接触を絶ってもらう必要があるそうだ。


「大変申し上げにくいのですが、恐らく二、三ヶ月は準備に時間がかかってしまうのではないかと思います。

その間、ノア様には王宮で不自由のない生活をしていただくつもりではありますが……」


なにぶん、公表できる類のものではない為、身分を偽ってもらう必要があるとのことだ。


帰れる……のか?


俺は今聞いた内容を何度も何度も確認する。

まずここが異世界である事が確定した。

そしてあと数ヶ月我慢し、帰還術式の準備が完了すれば帰ることができる。

自然と嬉しさが込み上がってくる。

しかし不安もある、真っ先に考えたのがコリーン村のユミナの事であった。


「イザベラ様、帰還の目処が付いたら一旦コリーン村へ行くことは可能ですか?」


「はい、報告は受けております、その程度であれば問題ありません……ただし」


ユミナとの結婚は諦めるしか無いであろうとの事だった。

子を作ることも禁止だそうだ、異世界人とのハーフができた場合どうなるか分からないかららしい。


「天族や魔族などに発見された場合、抹殺の対象にされるでしょうから

村の人々の事を考えるのであれば、申し訳ありませんが堪えていただいたほうがよろしいかと……」


「……分かりました」


ユミナとや皆と別れるのは辛い、あんなに楽しかった時間はいままで無かったからだ。

しかし、そうしなければ帰れないというのなら、堪えるしか無いだろう。

俺は先日の戦闘を思い出していた、何の前触れもなく襲われ、ゴミを払うかのように殺される。

抹殺の対象になるという事はそういうことだ、あんな思いは二度としたくなかった。


「コリーン村の方々には、王国から報奨金という形で詫び金を支払っておきましょう。

ユミナ様にも安心して暮らしていける額をお送りいたします」


「ありがとうございます」


ちょっと早いが、遺族年金みたいなものか

これでちょっとはユミナとの約束を守れない事への詫びになるだろう。


「それともし可能ならですが」


俺はここに来る際に世話になった人たち、護衛隊の皆

特に死んでしまったカッツの遺族や、怪我をしたダグロさんに多めの見舞金を出してもらうよう頼んだところ

イザベラはそれを快く引き受けてくれた。



――



「はじめましてノア様、私はクラリス・トロメア・ロシュフォーンと申します、よろしくお願い致します」


「ノアです、よろしくお願いします」


次の日、俺は王家の四女であるクラリスの家庭教師という仕事を仰せつかり、こうして顔合わせを行っていた。

もちろんこれは術者が揃うまでのダミー役職であるのだが。


このクラリス王女は先天性の障害により、生まれつき目が見えない全盲の姫だ、今年で一四歳になるという。

しかし勘と記憶力が非常に良く、今ではお付きのメイドがいなくても、城の居住区画程度なら壁伝いに歩くことができるそうだ。

見た目はこれまた非常に美しく、透き通るような銀色の髪に、幼さは残るが整った顔立ち、非の打ち所のない美少女である。

双丘はまだ発展途上のようだが、イザベラなどを見ていると見込みはあると見た。

ああ、でもイザベラとは母親が違うのか……


「男性の家庭教師というので不安でしたが、ノア様がお優しそうな方で良かったです」


「大したことはできませんが、楽しくやっていきましょう」


学生時代、家庭教師のバイトをしていた際に、話が横にそれすぎて面白いけど全く成績は上がらなかったという評価を頂いた実力を見せる時が来たようだ



――



少し考えれば分かることだ。

この世界のことを殆ど知らない俺が、人様に何か教えることなんてできる訳がないという事に。


「さて困ったな……」


名目上、家庭教師なのだから何かしなければいけないのだが、何も思い浮かばない。

さらにイザベラ以外の人間には俺がここにいる理由を話せないので、サボって寝ているわけにも行かない。


うーんと頭をひねっていると、窓の外に飛ぶ鳥が見えた。

ここは王宮の端に位置する塔の一角である、目の見えないクラリスが、動き回らずにある程度の生活が出来るようにと

城の一角にクラリス専用の設備を整えているようだ、窓から下を見ると、眼下には城下町が広がっている


「ここはとても良い眺めですね」


「……申し訳ありません、私は目が見えないもので、眺めのことは分からないのです」


しまった、少し考えれば分かるだろうに、馬鹿か俺は、クラリスに喧嘩売ってるのか。


「も、申し訳ございません」


「気にしていませんよ、それよりも、その窓から見えるものを私に教えていただけませんか?」


「はい!」


俺は窓から見える城下の景色を出来るだけ細かく伝えた。

生まれたときから目の見えないクラリスは、モノの形をを伝えてもイメージしにくいのではと思ったが

その辺りは既にある程度教育されているようで、クラリスは興味深そうに俺の話を聞いていた。


そうして外を見ていると、窓の外に鳥が巣を作っているのを見つけた

巣の中には孵化していない卵が三つ置いてある


「クラリス様、鳥の巣がありますよ」


「本当ですか!?」


「こちらです」


俺はクラリスの手を取り窓の近くに連れて行く

クラリスは手が触れた瞬間、少しビクッと震えたが、すぐに俺の手を取りついてきた


「これです……ちょっとお待ちを」


クラリスの腕を掴み、鳥の巣を触らせる


「これが巣です、細い木の枝をたくさんつなぎあわせて、編みこんで作ってあります」


「木の枝なのですか……」


「そしてこれが」


クラリスの指を掴み、卵の位置に伸ばす


「これが鳥の卵です」


「……これが……固くてすこし温かいです」


クラリスは嬉しそうに鳥の卵を撫でている

そのまましばらく撫でていたが、俺は時間を見てクラリスの手を卵から離した


「今日はここまで、卵にちょっかい出しているところを親鳥に見られると、逃げられてしまうかもしれませんので」


「……そう、なのですか」


クラリスは少しさびしそうな顔をしたが、急に興奮したように話し始める。


「私、鳥の卵なんて初めて触りました! すごいですね……卵のままでも暖かくて……生きているのですね」


先程までまた後を触っていた手を顔の前で動かしている。

触っていた感触を思い出しているのだろうか。

よしよし、何となく先生っぽいことが出来たようなきがする、ありがとう小鳥さん。


「ノア様、もう一度だけ、巣を触りたいです」


「……ちょっとだけですよ」


俺は再度クラリスの手を取り、巣に手を伸ばそうとした。

ちょうどその時、短いノックの後に間髪入れず部屋の扉が開かれて金髪の女性が入ってくるのが見えた。


「クラリス、入るぞ」


「え?」


「お?」


部屋に入ってきた女性と俺は目と目が合い、そして


「き、き……」


「きりん?」


「貴様ああああああああああああああ! 何をやっている!」


「きゃ!」


声に驚いたクラリスは急に手を引っ込め、その表紙に俺はバランスを崩し床に倒れる

その上からクラリスが降ってきたのでそれを抱きとめた。


「貴様クラリスから離れろおおおおおおおおお!」


シャランという金属がこすれ合う音がしたので金髪女を方を見てみると、腰に差してある剣を抜いて、鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「ち、ちょっとまて! 俺はクラリス様の家庭教師で」


「問答無用死ねえええええええええ!」


「お姉さま? カサンドラお姉さまなのですか!? お待ち下さい!」


クラリスが俺の上に覆いかぶさったまま、入ってきた金髪に声をかけている


「クラリス、早くその男から離れるのだ! いや、この剣でそいつの喉を突け!」


「お姉さま、話を聞いてください、この方は私の家庭教師です」



――



それから数分後、そこには床に正座している金髪女の姿があった。


「済まぬことをした、クラリスの部屋に男がいたものでつい……まさかイザベラ姉様の推薦を受けた者だったとは」


「つい、で抜刀すんなよ!」


「すまん……」


この金髪はカサンドラ・カストレア・ロシュフォーン、正妻側の次女という事らしい

クラリスと仲がよく、今日も一緒にお茶をしようとして訪ねてきたそうだ。


「で、でも、妹の部屋に男がいて、抱き合ってたら抜刀しても仕方あるまい」


そこは驚くだけで留めておけよ、妹の彼氏全員血祭りにするつもりかよ。


「お姉さま、いつも言っておりますが、部屋に入る時はノックきちんとをしてくださいませ」


「わ、わかった、今回はあれだ……仕方なかったんだ、部屋の中から楽しそうな声が聞こえたらから」


何だろう、このダメオーラあふれるおねえちゃんは。

背が高く、顔立ちも整っているし髪は綺麗な金髪、なのになんだか……あれ、金髪?


「カサンドラ様は髪の色がイザベラ様と違うのですね」


俺がイザベラの名前を出すと、カサンドラは僅かに顔をひきつらせたが、すぐに元に戻った。

気のせいか?


「私は父上似だからな、赤い髪は母上の色だ、それとその様付けはやめろ」


「なぜですか?」


「この部屋は私にとって憩いの場であるのだ、そんな場所にまで堅苦しいものを持ち込みたくない」


「それでは私も、様付けはやめてくださいませ」


カサンドラの提案にクラリスも同調する、しかし国のお姫様にフレンドリーに対応しろとかいきなりハードル高過ぎるだろ。


「え、それはまずいのでは……」


「ノア様の方がお年も上ですし、何より先生なのですから良いのですわ」


「だがクラリスはノアの事を様付けしているな」


俺は様付けされてる方が好きなんだが……余計なこと言うなよっていうかさっそく俺の事は呼び捨てかよ。


「ノア様は先生なので敬わなくてはいけません、当然ですわ」


「そ、そうなのか……分かった」


良かった、クラリスは俺の呼称を変えないらしい。


……しばらく二人が話している様子を眺めていたが、このカサンドラという王女、見ているとわかりやすい、分かりやすいくらい妹大好きっ子だ。

その後、当り障りのない範囲で色々おしゃべりをして、本日の勉強会は終了となった。

部屋から去り際にカサンドラが。


「貴様とクラリスだけを一緒にはしておけぬ!明日からは私も参加させていただく!」


と俺に向かって宣言していた。

美少女とキャッキャウフフして時間潰せればよかっただけなのに

なんだか最高に面倒なことになりそうで、オラ、ワクワクしてきたぞ!


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