赤い絵具
赤い絵具
少し長い話ですが聞いてください。
A子は同じ中学から同じ高校に進んだ唯一の友達で、自然と仲良くなりました。A子がどうしてもと言うので、一緒に美術部にも入りました。親友だったんだと思います。
A子は控えめな性格でしたが、絵のことになると周りが見えなくなってしまうタイプの子でした。そんな性格のせいか、彼女は次第にクラスの子達にいじめられるようになってしまいました。
当時のA子は私というたった一人の親友と、狂ったように絵を描くことだけを支えに生きているように見えました。
そんな生活が一年ほど続いたでしょうか、私は急きょ、父の出張で転校することになってしまいました。A子のことが心配でしたが、当時の私にはどうすることもできませんでした。
その後のクラスの事は全く知る機会がなく、私はA子のことは忘れてしまっていました。
それがこのあいだ、10年ぶりに同窓会を開くというので、久しぶりにA子に会えるかもと思いながら参加しました。しかし、会場にA子の姿は見られません。友人と他愛のない話をしながら(私は知らなかったのですが、当時の私は随分モテていたらしいです笑)機会を見てA子のことを尋ねてみると、A子は私が転校して数か月後に自殺していたのだと聞かされました。衝撃でした。遺言には「赤い絵具が欲しい。」とだけ書かれていたそうです。確かに、A子は高校に入ってから、正確にいえばいじめが始まるようになってから、暖色を全く使わない不気味な絵を何枚も何枚も必死に描き続けていたのです。
あまりにショックだったので、私は同窓会を抜け出して家に帰ることにしました。すると今度は、妻が嬉しいショックと一緒に家で待っていました。私と妻との間に子供が出来たのです。A子のことなど一瞬忘れてしまうほどに、嬉しかった。しかし、次の妻の言葉に私はゾッとしてしまいました。
「この子の名前はA子にしようと思うの。」
妻とは大学時代に知り合ったので、もちろんA子のことなど全く知らないはずなのです。