7,幼女、嫌悪する
「どうした……? オレが儕輩になってやるといっているのだ……喜べ」
儕輩……あぁ、仲間のことね……。
「えっと……その……」
「マスター、ハッキリと伝えなければこの病気の人は理解しませんよ」
「この世界は狭すぎる……如何なオレでも一期一会を蔑ろにすると……フッ」
蔑ろにするとどうなるんだよ!
「あの……すいません。私たちは二人で依頼をやるので……」
「恥じているのか……? フンッ……安心するといい、ギルドに蔓延る有象無象ではなく……このオレの守護なのだからな」
うがぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
こいつめんどくせぇぇぇぇぇぇえ!
『厨二病』
現代社会における中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動を、オタク共が自虐で名付けたネットスラング。
これが小学生が背伸びするだけならば、背伸びした可愛い子供で終わる美談だろう。
だが、中学生から上の人間がこれを患ってしまうと、背伸びしすぎて化学反応を起こすのだ。
洋楽などを聴く=大人みたいでかっこいいからやろう。
英語で歌う=知的でかっこいいからやろう。
喰らえ! 壕魔天殺拳!=かっこいいからやろう。
喰らえ! 壕魔天殺拳!=不良に使ってボコられる。
背中に四対の黒い羽を伸ばし、武器はおそらくツヴァイハンダー。
金髪青目の顔だけは爽やかなイケメンで、装備というか服装は全て黒一色。
黒のコートに黒のシャツ、黒のズボンに黒のバングル。
なぜバングルだけまともな防具なのか……。
そんな厨二病が仲間になりたそうにこちらを見ている。
仲間にしますか?
「マスター、無視しましょう」
「えっ……でも……」
ライアは優しいなぁ。
「いいんです。いきましょう」
「えぇ……えっと、ごめんなさい。さようなら剣士さん」
「フム……成る程……つまり……」
なんか厨二が不穏なことを囁いていたが俺は何も聞いてない。
聞いてないったら聞いてない。
『オガハン洞窟』
アリアローゼの北にある『ネぺル平原』の南側。
オーガが生息する洞窟にユーザーが便宜上名前をつけた。
リスポンが早く、経験値効率もよく、さらに弱いために序盤でなかなか人気の狩場。
なお、オガハン洞窟の正式な名前は初心者の森と同様に『洞窟』である。
アリアローゼから徒歩で一時間ほどの距離だ。
本当なら初めての馬車に乗ってみたかったのだが、ライア家の財政状況は火の車。
それなのに家があるとか謎すぎるが、所持金に余裕ができるまでは無理だろう。
厨二病を見なかったことにして、槍を背負った見た目ウィザードと物理で殴るウィザードの使い魔、やってきましたオガハン洞窟。
暗い、狭い、肌寒いの三拍子。
生息するのはスライムと、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、渡る世間は鬼ばかり。
「薄暗いわね……リリィちゃん、大丈夫? 怖くない?」
「問題ありません、慎重に進みましょう」
支給品のランプを灯して、俺たちはゆっくりと歩を進める。
スライムとオーガだけとはいえ、ゲームと同列に考えてはいけない。
というのも、ゲームではポップする位置、行動範囲、リスポン時間がキチンと一律決まっているが、この世界は現実なのだ。
ポップする位置も行動範囲も自由だし、リスポンするには繁殖しなければならない。
もっとも、ゲーム同様初心者の森にゴブリンがいたり、オガハン洞窟にスライムとオーガがいるあたりに何者かの意思を感じるが。
しかし、こう薄暗くては不意打ちされる可能性があるな。
狭く薄暗い場所はニートのホームなので、怖いどころか居心地の良ささえ感じてしまうけど、不意打ちだけは怖い。
以上の理由で警戒していると、洞窟上部から何かがベチャッと落ちてきた。
白くてべたつく不思議な液体、ねちゃねちゃと気持ち悪い音を洞窟内に響かせ、ぬるぬると動いている。
というかスライムだ。
「マスター! 敵です、殲滅し……」
「『ブリッツ』!」
えっ。
「うっそー! 何この槍! すごい威力じゃない!」
「…………そうですね」
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!
俺が奴の前で戦闘体制を取ったと思ったら、いつのまにか奴が飛散していた。
な……何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……幻だとか音速だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
いや、これ以上はいけない。
落ち着け、ステイ、ストップ、シットダウン、三回回ってワン。
本当に何が起こったのかわからなかった。
感電したみたいなバチバチィッ! って音がしたと思ったら、ライアがスライムを死骸に変えた。
えっ? 強くない?
ライアってそんなに速く動けたの?
なんで俺にゴブリン狩らせたの?
てか、ライアってまさか……。
才能がないと不可能な使い魔召喚を成功させて、人知れず取り残された強い武器を入手、そして高い戦闘能力。
美少女で、気が強そうな顔だけどドジっこで、印象的な泣きボクロが今日も可憐ですね。
槍をその小さな胸に抱き締めて、はちきれんばかりの笑顔でぴょんぴょん跳ねてて楽しそうですね。
こ、こ、こいつぁ!
主人公属性じゃない!
ヒロイン属性だ!
「この調子でどんどんいきましょ!」
「…………はい」
「オイ火焔姫! 貴様! 今のはなんだ! それが貴様の真の力なのか!?」
何か虫の羽音がうるさいな。
ハエでも飛んでるのかな。
「いや、普通に武器がすごいのとスキルを使っただけで…………って、なんであなたがここに……?」
「む…………? 危険な時に颯爽と助けに躍り出て欲しいと……貴様等が懇願したのではないか」
野生の金髪王子様(邪悪)が飛び出してきた!
いってねーよ!
「ならなんで今出てきたんだ……」
おっといけない、あまりのウザさに口調が崩れてしまった。
ニートとは同種との馴れ合いはせず、自分を棚に上げて相手を嫌悪する生物なのだ。
「ふむ、それについては謝罪しよう。火焔姫の神技解放に思わず出てしまったのだ」
「そうですか、なら今すぐひっこんでください」
「り、リリィちゃん……? なんでそんなに強気なの……?」
なんかイライラするからです。
「それは無理な相談だな…………フッ、現れたぞ」
「はぁ…………?」
いったいこいつはなにをいってるんだ。
「グォォォォォォォォォォォォオ!」
側面から腹まで鳴り響く咆哮、途端に脱力して下がっていた背筋が、ピンと折り曲げたプラスチック定規のように反発し、杖を力一杯握りしめた。
いつの間にかそこにいたのは。
「オーガだ」