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3,幼女、殴る

 さわさわと流れる小川のせせらぎ、小鳥はチュンチュンと囀り、野うさぎは自らの糧となる野草を一生懸命頬張る。

 森はざわめき、まるで、俺の内心まで見透かして、笑っているようにも錯覚してしまう。

 木の枝や葉の隙間から差し込む日光が、森に住む生命たちにぬくもりを与え祝福している。



 ここは、ドラハンで『初心者の森』と呼ばれる、『王都アリアローゼ』から東に進んですぐの、戦闘チュートリアルを受ける場所。

 龍の眷属はおらず、魔の者の中で最も力のない一種のみが身を潜めている。

 そこに、純白の法衣を翻し、しっぽはふりふりおみみはぴくぴく、ダイヤモンドに等しい汗を大地に滴り落としている幼女が一人。

 今、俺は……



「はっ! やあっ! たあっ!」

「グギャッ!?」



 魔法を使わずに殴打している。















ーーーーーーーーーー



「じゃあ、日が暮れる前に早速お金を稼ぎにいきましょ!」



 そんなことをほざくライアによって、やってきました初心者の森。

 初心者による、初心者のための、初心者が入る森だ。

 なお、森の名前はユーザーが勝手に呼んでいるだけなため、正式名称は『森』である。



 アリアローゼの街並みを楽しむ暇もなく、自身が本当に戦えるのか訓練する暇もなく、それでも連れてこられた俺が持つのは一本の杖。

 ふむ、よく手に馴染む。

 いや、それはいい。



 杖とはなんなのか。

 答えは足が悪い人のための歩行補助道具である。

 怪我をした若者から、年老いたおじいちゃんまで愛用される杖。

 散歩などの日常生活や、登山用のステッキなんてものもある。

 おじいちゃんの杖を孫が強奪し、杖を剣に見立てて、庭で振り回すなんてこともあるだろう。

 俺もよくじいちゃんの杖で大地とか海とか空を割る斬撃の真似をしたもんだ。



 では、魔法の杖とはなんなのか。

 魔法を放つために必要な触媒である。

 マナと呼ばれる魔法の元となる体から流れる力を、理がねじ曲がる前に仲立ちし、正しい形で放出するための道具である。

 理がどういったものなのかは知らないが、日本にニート=社会のクズという理があるように、この世界にもこの世界の理があるのだろう。



 つまり、火の魔法を出そうとしても、杖がなければ理がねじ曲がり、間違った形で魔法が完成する=手が爆発するかもしれないらしい。

 そんなこと森についてからいうなよと思うが、ライアは主人公属性ではなく、ドジっ子属性を内包しているのかもしれない。



「マスター、フレイムアローだけで倒せるのでしょうか?」

「余裕よ、あいつら魔法には弱いから!」



 そこで、武器がなかった俺は、ライアがランサーの装備を売り払い、購入してしまった残念な杖を借りることにした。

 その名も魔術師の杖。

 まんまである。

 すぐに店に売られる装備などそんなものだ。

 中には初心者のふりして女のネカマに近づく直結厨や、課金による最大強化までして使い続ける変態もいるが、そこは問題じゃない。



 問題なのは、俺が魔法を使えるかどうかわかっていないことだ。

 あれよあれよと展開が進んだので、タイミングを完全に逃してしまったのだ。

 ほら、あるだろう? いつ話そうか迷っているうちに時間が経過してしまって、結局『はぁ? なんで今更そんなこというわけ? なんなの? 死ぬの? てか死ね』とかいわれちゃうあれだ。

 ニートとは空気に弱いものだ。

 他人が醸し出す空気など、危険な外の世界の空気から身を守るために、自らの部屋で快適な空気を作るのだ。



「ゲヒッ、ゲヒヒヒヒヒッ!」

「いたわ! ゴブリンよ! リリィちゃん、頑張って!」

「…………はい」



 ひいぃぃぃぃぃぃぃい!

 こえぇぇぇぇぇぇえ!

 大丈夫だろうか? 無表情を保てているだろうか? 顔は引きつってないだろうか?



『ゴブリン』

 地球では様々な伝承があり、邪悪で悪意を持った精霊だったり、おふざけが好きで意地の悪い妖精だったり、ぞっとするような醜い幽霊だったりと、結構曖昧だ。

 魔王がいっぱいなゲームはもちろんのこと、指輪を奪い合う映画なんかにも登場するポピュラーな生物で、ゲームで登場するゴブリンはだいたいが醜く悪役である。



 この世界のゴブリンも悪役で、頭には二対の角、片手に棍棒をもち、腹はビール大好き中年男性より膨らみ、腰にはわずかな羞恥心を主張した薄布一枚が巻かれている。

 そして、緑の肌のブルドックをさらにひしゃげまくったような顔面凶器。



 リリコットたんの身長は120マイル(センチ)だ、当然視線も視点も低くなる。

 そこに、先ほど説明した風貌で佇む150マイル(センチ)ほどのゴブリン。



 むりぃぃぃぃぃぃぃ!

 おうぢがえるぅぅぅぅぅぅう!



「リリィちゃん? 早くフレイムアロー打って!」

「……はい。『フレイムアロー』」



 恐怖に内心がボッキボキにされながらもなんとか紡いだ魔法名。

 その刹那、体の中に何かが生まれた。

 冷たい、でも気にならない冷たさだ。

 その何かが、ゆっくりと動き出す。

 不思議な感覚。

 例えるなら、キンキンに冷えた水を飲んだ時に、喉から体の中に流れているような、そんな感じ。



 その何かは、胸から始まり肩、腕、手の甲、指へと移動していき、指先からキラキラと雪のような無色の粒子が現れた。

 やがて、粒子は鼓動を開始し、色を朱に変えてーー消失した。



「…………へ?」



 この声は俺ではない、ライアだ。

 内心より外見が大事な俺は動じない。

 動じないったら動じない。

 動じないんだから!



「グヒッ? グヒャヒャヒャヒャ!」



 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!

 顔面凶器が凶器もって走ってきたあぁぁあわわわわぁぁ!

 眼前に迫るゴブリン、消えた魔法。

 生命の危機にたたされた時、人はある行動を起こす。

 生存本能に身を任せた俺が取った行動は、杖を振りかぶり、



「はっ!」

「グギャッ!?」



 殴った。









ーーーーーーーーーー




「はっ! やあっ! たあっ!」

「グギャッ!?」



 そして冒頭に戻る。

 あー楽勝っすわー。

 ゴブリンとか杖で殴るだけの簡単なお仕事ですわー。

 おっと、調子に乗ってはいけない。

 ニートとはすぐに調子に乗る生物なのだ。

 些細なことですぐに天狗になる。

 なぜなら自慢できることが少ないから。

 まぁすぐに折れるが。



「り、リリィちゃん……? た、楽しそうね……?」



 いけない。

 ニートが何かをボコれる機会なんてないから、つい愉悦が表情にでてしまったのか? 気を引き締めなければ。



 それよりも、ライアに言い訳をしなければ。

 魔法に失敗(?)し、杖でゴブリンを殴り倒すウィザードの使い魔。

 かける言葉がみつからないのだろう、実際ライアは酷く困惑している。

 気のせいか顔色も青い。

 ならば、弱ってるうちに強引にいこう。



「マスター」

「…………な、なに?」



 言い訳は無理だな、状況はみられてしまっているし、うまい嘘も思いつかない。

 すなわち、



「ウィザードが魔法を使うとは限りませんよ」



 嘘をつかずにゴリ押しだ!



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