2,幼女、方針を決める
なに、このアクセス数(恐怖)
「質問があるのですが、なぜマスターはウィザードの装備を?」
現代日本で結婚するための容姿、収入、性格という分厚い三枚の壁を飛び越えた。
リリコットたんと結婚するための自分は三次元、相手は二次元、画面の中に入れないという時空の壁も飛び越えた。
勢い余って空を飛び、落下系ヒロインそのものとなってしまったわけだが、さて考えよう。
リリコットたんを演じるにあたって、どう演じるか。
そもそも、俺には本格的な演技の経験も知識もないため、演技力なぞ自信は微塵もない。
それに、外面は演じても内面は男のままだ。
だが、何にしたってキャラ作りは大切だろう。
なら、俺にとってのリリコットたんのキャラとは? ということになる。
一言で表すと『可愛い』とか『愛しい』で終わってしまうため、冷静に分析してみよう。
まず、使い魔に表情はない。
動物がワンワンパオパオ鳴き声をあげてるのは表情に入るのかもしれないが、少なくとも、リリコットたんにはないのである。
もっとも、現実的な話をいえば、表情を作る余裕が運営になかったための、ただの経費削減だと予測できるのだが。
よって、無表情は決定となる。
次に、リリコットたんはログを吹き出しに読み上げてくれるだけだ。
肉声がないから口調がわからない、これは痛い。
ただ、無表情というキャラから、声の抑揚を想像することはできる。
無表情なのにぶりっこだったりするか? 答えは否である。
声というものは自然と感情が乗るもので、感情とは表情に出るものだ。
であるならば、無表情=平坦な声であり、無感情=冷静沈着ということになる。
以上のことから、これから俺が演じるリリコットたんは、クールなキャラってことに議決した。
この決定は覆らない。
絶対にだ。
「えっとね……私には魔法の才能がないから、使い魔召喚は無理って言われたの。ここまではわかる?」
「はい」
ふむ、方針も落ち着いたところで、ライアのいったことについても考えよう。
そうなんじゃないかな、とは薄々感づいてはいたが、この世界はゲームの世界とは違うようだ。
まぁ、三次元だしな。
仕方ないな。
これだから三次元は。
ゲームのドラハンでは、使い魔は全キャラクターが所持している。
そこに魔法の才能は必要なく、強い使い魔をもつために必要なのは、優れた財力、時間に余裕のある生活力、単純作業を持続する忍耐力を重ね合わせた、ジェットストリームアタックを仕掛ければいいだけである。
だが、ライアがいうには、この世界では才能が必要。
ならライアは、なぜ俺を呼べたのかという話になるわけだ。
あと余談だが、ライアは俺が喋ったことには驚いていたのに、人型なことは言及していない。
つまり、人型の使い魔は、俺の他にも存在すると思われる。
それがリリコットなのか、それとも全くの別型なのかは不明だ。
しかし、リリコットがいっぱいな桃源郷もありえるのだ。
やったねかずくんきぼうがふえたよ。
「それでね、どうしても使い魔が欲しかったから……過去の伝説を信じて、装備を変えて召喚してみたら……」
「ワタシが喚ばれたというわけですね」
過去の伝説とか……。
何だそのご都合主義は。
ライアには主人公補正でもあるのだろうか?
「うん、そうなの! それにしてもリリコットちゃん……は長いから、呼び名はリリィちゃんに決定ね。その法衣すごく立派ね。それ、どうしたの?」
「わかりません。生まれた時から持っていましたから」
ライアにニッコリ笑いながら告げられた疑問に、とっさに嘘百パーセントの返答を返してしまった。
ニートとは、偽りが服を着て歩いている生物なのだ。
親を騙し、自分を騙し、家計簿を騙すニートなら、息を吐くように嘘が出てくるのはあたりまえ。
そう、あたりまえなのだ。
なんだかリリコットたんの神聖な名が、勝手に縮められた気がするが、まぁいい、マスターに文句はいうまい。
それより法衣だ。
しかもアフロディーテの法衣だ。
愛と美を司る女神アフロディーテが、はるか昔の英雄アタランテに賜ったとされる法衣、というのが説明文だ。
物防、魔防共に申し分なく優秀で、魔法職が装備すれば多大なINTプラス補正がかかる激レア防具。
アバターもユーザーの心をグッと掴んで離さない、特に大きな幼児の心は離さない。
なんというか、エロいのだ。
エロかわだ。
法衣の癖に脇チラ、ふとももチラ、視点を操作すればパンチラという、思春期の男の子対策も完璧だ。
あざとすぎて逆にすがすがしい。
なぜそれを、俺がいま装備しているのかは本当に謎だ。
というのも、誓ってもいいが、俺がボディーチェンジチケットを使用したさいに、リリコットたんが装備していたのはアフロディーテの法衣ではなかった。
インベントリには入ってたけども。
あながち生まれた時からって間違ってないかもしれない。
リリコットたん(の中身俺)が生まれた時からだもんな。
「生まれた時からだなんて、特別な何かがあるのかもしれないわね。武器はないのよね? リリィちゃんの特技とか職は?」
そういえば、アフロディーテの法衣はあるのに、同じくインベントリに入ってたはずのクロノス・スタッフがない。
すっかり思考から抜け落ちていたけども、ドラハンに類似した世界で、俺は使い魔なんだから、もちろん戦闘をするわけだ。
ゲームみたいに魔法名だけで発動するならお茶の子さいさい、詠唱しないと発動しないとかだったら、一気にお手上げ状態になる。
あと、杖がなければ魔法が発動しない可能性も加味しなければならない。
そして、ニートに命のやりとりの経験はない。
無理に経験を語るなら、カエルに爆竹突っ込んだりとか、バッタの脚を縛ってカマキリの前に置くとか、そんなものだ。
俺が戦闘をこなせるか予測不能な以上、ライアに頼るしかないだろう。
この世界にレベルなんかないのかもしれないし、お互いの戦闘能力と戦闘経験の摺り合わせは必要だ。
一応初期レベルに合わせておこう。
「武器はありません。特技はフレイムアローで、職はウィザードです」
本当はソーサラーなため、フレイムアローどころかボルテックス・テンペストとかも使える。
もっとも、中身がニートである以上、レベルが高いとは限らない。
ゆえに、初期魔法であるフレイムアローを特技とする。
「わぁ、よかった! 私はしばらく参加できないから、戦闘はよろしくね!」
「はい……………………………はい? もう一度お願いします。」
ちょっと待て、いま幻聴が聞こえた。
「ランサーの装備売って、ウィザードの装備買ったから……お金ないんだ。てへ」
ペロリと舌を出して、後頭部をポリポリするライアは非常にあざとい。
だが三次元。
いや、そうじゃない。
「…………………………わかりました」
……どうやらこの世界での狩りもソロになりそうだ。




