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17,幼女、デレる

ランキング94位に入ってました。

ありがとうございます。


 絶体絶命のピンチが訪れている時に、抱えた卵からパキッと何かが割れる音が聞こえた気がした。



「あ……割れてる」

「ゲヒ?」



 音に釣られて卵を確認してみると殻がひび割れていて、中から脚がはみ出している。

 なんでこのタイミングで孵化?

 ご都合主義ですかそうですか。

 俺を襲いにきたゴブリンは何かを感じ取ったのか、卵を首を傾げながらじっと見据えて動かない。



 いや、お前が首傾げても全然あざとくないから。

 むしろキモイから。



 それにしても、熱を感じたのは孵化直前だったからなのか。

 この足はなんだろう、鰐みたいな蜥蜴みたいな……爬虫類の足だ。

 黄金色の豪華な殻だというのに、その皮の色は赤。



 ライアも赤だし、俺には何か赤色に縁でもあるのだろうか。

 そう思ったところで、はみ出す脚がなにやらバタバタともがきだした。



「ピィ! ピィピィ!」

「わっ、可愛い声」



 殻の中から少し籠もってはいるが、まるで雛鳥のような可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。

 思わず心の中の思いが言葉となって外に飛び出す。



「ピピピピィ! ピピィ!」



 やがて何かの雛は挙動を激しくしていき、殻の罅が広がりだす。

 全貌を徐々に表していくその姿を見て、俺の呼吸は数瞬停止する。

 すぐにひゅっと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 一旦目を瞑り精神を落ち着かせ、再び目を開いてもう一度雛の姿を見下ろした。



 赤い脚に爬虫類のような皮、背には二対の翼がある。

 長いしっぽに熱い体温。

 こいつはーー



「……龍だ」



 あまりの衝撃に天国へと逝きそうになったが、なんとか現世に魂を縛り付けることに成功した。

 こっちに召喚されてから魔物ばかり狩っているけど、ドラハンでメインとなるのは龍だ。

 その龍の雛が今俺の腕の中にいる。

 なんてこったい。



 そして、腕に収まるサイズの卵から孵ろうとしているコイツはまだ小さくて愛らしい。

 生命の赤ちゃんは誰かの保護を受けるために愛らしい姿をしていると聞いたことがあるが、この姿ならば成る程その例説も頷ける。

 さらに、暖かい。

 凍えていた体が嘘のように熱を取り戻していく。

 恐らくコイツが火属性なのだろう、殻が割れる前と今では温度がかなり違う。



「あ、頭が出た」

「ピィ?」



 頭を出したこいつは、なぜか愛らしく見える猛禽類の金瞳で俺をじっと見て首を傾げた。

 うむ、ゴブリンとは大違いの可愛さだな。

 やっぱこうじゃないとね。



 しばらく俺と視線を交際させたまま黙っていたコイツは、何か結論が出たのか残り少ない殻を弾き飛ばしてすり寄ってきた。



「ピピィ! ピピピピィ!」

「わっ! ちょっ、くすぐったい」



 すり寄った体をそのままに、頬を舐めてきたり頭をぐりぐり押しつけてきたりとやりたい放題だ。



 懐かれた……?

 おいおい、龍にインプリティングってありなのかよ……。

 そもそも、龍って飼えるのか?

 討伐されそうな気がするんだが。

 そこでふと…………というかやっと、ゴブリンの存在を思い出した。



「ゲヒ…………」



 ゴブリンはコイツに雛とはいえ圧倒的な格の違いでも感じたのか、萎縮したまま微動だにしない。

 よし、もう体は動くな。



「よいしょっと」

「ピ?」



 好き放題してた雛を地面に置いて、俺はすっと立ち上がった。

 雛はどうしたの? といった具合の反応を返してくる。

 あぁもう、可愛いなコイツ!

 俺は雛の頭をもう一撫でしてあげてから、もはやただの的になったゴブリンへと視線を移す。

 ランスを背から外し、しっかりと両手で握ってから構える。

 うし、さくっと倒そう。



「『ブリッ」

「ピィィィィィ!」

「…………………えっ」



 いざブリッツ! といったところで、ゴブリンが黒こげになった。

 火を吐いた。

 いや、俺がじゃないよ。

 この雛がね、ゴブリンに火を吐いたんだ。



 そのゴブリンを包み込むほどのブレスは、ゴブリンどころか氷の壁まで溶かして新たな道ができあがった。

 うん、小さいのにすげぇ火力。

 さすが龍だね。ははっ。



「ピピ?」

「……あぁ、うん。はいはい。助けてくれたんだよね? ありがとうね。よしよし」

「ピピィ!」



 俺が唖然としていると「頑張ったよ! ほめて? ほめて?」みたいな顔で催促してくる雛龍。

 もう完全に俺のことを親だと認識してしまっているようだ。



 親といえばコイツの親はどうしたのだろうか?

 あんな日本人しかわからないようなクイズで入れる隠し扉の中に、わざわざ卵を産み落とす親龍がいるとは思えないんだが。



 とりあえず助けてもらったのは事実だし、お礼を伝えておく。

 言葉を理解しているかはわからはいが、まぁ一応ね。

 そして、撫でてやると嬉しそうに目を細める。

 あれ、何このときめき……俺って爬虫類属性あったのか……。

 可愛い。



「ピィ! ピィ!」

「ん。そろそろいくよ。迷子さんたちを探さないとね」



 どうせならブレスで貫通した道をいってみよう。

 俺は雛を抱きあげて歩き出す。

 体の大きさはちょうどいいのだが、身長の問題でしっぽをズルズルと引きずってしまっている。

 ごめんね、我慢してくれ雛よ。



「君を飼えるようなら、名前も考えないとね」

「ピピィ?」



 名前……名前かぁ……。

 やっぱかっこいいのがいいよなぁ。

 そういえばこいつは男の子? 女の子?



「あ、ついてる」

「ピ!」



 ちょっと誇らしげな表情だ。

 なんというか、キリッとしてる感じ。

 可愛い。



 男の子ならやっぱかっこいい名前だな!

 わぁー悩むなー。

 夢が広がるなぁ。



「リリィちゃん!」

「あ、マスター」

「ピピィ?」



 雛にでれでれしていると、ライアが半泣きで突進してきた。

いつの間にかリリィの認識ではライア達が迷子という扱いに。

そしてどんどん体を返す前に外堀が埋まって行く。

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