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16,幼女、凍える

 モンスターハウスを難なく切り抜けて、俺は探索を再開した。

 なお、他にも扉を何個か発見したけれど、全部に施錠がなされていた。

 まぁ開錠スキルなんて持ってないので、普通にスルーしたが。

 そもそも、開錠スキルって何?

 スキルを使ったら扉が勝手に開くのか、それともマナ的な何かが鍵の形を作るのか。

 アルバートさんなら「開錠スキル発動なのだ! ヌンッ!」とかいいながら扉ぶち壊しそうだけど……。

 不思議だね。



「みんなはどこにいるんだろう」



 それで、ライアやアルバートさん、ついでにクルスとはまだ合流できてない。

 俺でも独りで問題ないくらいなのだから、みんなもピンチになることはないだろうけど。

 それでも、寂しそうに眉根を下げているライアの顔が簡単に想像できる。

 はやく探してあげないと。



 召喚された時は三次元なんてクソ食らえと思ってたのに……だいぶ絆されてるな。

 まだ一週間も経過してないというのにこれだと、先行きが不安になる。

 なぜなら、リリコットたんに体を返せばこの関係は壊れるのだから。



「『ピアジング』『ブリッツ』」



 雑魚をひたすら狩ることにより習得したピアジングは便利だ。

 せっかくの新スキルだし、積極的に使っていこうと思う。

 いやぶっちゃけるとブリッツの方が強いんだけども。

 たった今蹴散らした雑魚共は、何かに『斬られた』傷跡を残して通路に散らばっている。

 纏ってるオーラみたいなのを見て、あれ、これいけるんじゃね? と思って試してみたら大成功。



 そう、斬れるのだ。

 ドラハンではピアジングはただの突きだ。

 攻撃力をアップして歩いて突くだけの捨てスキル。

 ブリッツみたいに一瞬で弾け飛ぶわけでもなく、ステップみたいに跳ね回るわけでもない。

 この世界のピアジングはオーラに攻撃力が乗っていて、オーラ自体に斬撃属性がついていたのだ。

 よって、槍で斬れる。

 正直、実現したロマン技に感動が止まらない。



「か、かっこいい……!!」



 今俺は少し涙ぐんでいることだろう。

 クルスに散々心の中で悪態や暴言を吐き出しまくっていたわけだが、もう彼のことを悪くいう権利はなくなるかもしれない。

 はるか昔に鎖を雁字搦めに巻いて、箱に詰めてさらに金庫に封印した厨二心が疼き出す。

 マズい!

 壕魔天殺拳が封印を解けと猛り狂っている!



 ……ふぅ。

 危ないところだった。

 つまり、それくらいかっこいいのだ。

 厨二心を擽られるという諸刃の剣だが、使わないという選択肢はない。



 あぁそうそう、あの宝箱は破壊した。

 人を小馬鹿にした内容の紙が入った宝箱を思わずピアジングしちゃうのは悪くないと思うの。

 つーかさ、迷宮ってのは建造物じゃない?

 よって、作った人が誰かいるわけですよ。

 俺を転移させたあの最強の罠はどう考えても日本式。

 なら、俺以外にもボディーチェンジチケットを使った人がいて、過去に使い魔として召喚された人がいたとか……?

 この世界の言語が日本語なのもその人の仕業か?

 ふむ、調べなければならないことがまた一つ増えたな。



『カチッ』



 えっ。



「わぁっ!?」



 ちょっ、まっ、落ち着け!

 現状確認!

 呼吸、よし!

 手足、よし!

 猫耳、よし!

 尻尾、よし!

 息子、なし!

 よし、何も問題ない!



 楽勝ムードに気を抜きながら探索していたのがいけなかったのか、何かの罠を踏んだ。

 一瞬焦ったけど、一杯のバケツほどの量の水が頭上から降ってきただけだった。

 致死性の罠じゃなくてよかった。

 毒とか酸とかだったらやられてた……。

 おかげで法衣と旅袋はびしょびしょになり、猫耳と尻尾は毛が水を吸ってしなびてしまったが。

 しかし、なんなんだこの罠は。

 嫌がらせか。



「油断せずにいこう」



 甘いな、この程度の嫌がらせなら学生時代にとっくに味わったわ!

 水が綺麗なだけまだ救いがある。

 いってしまうと、真の嫌がらせは雑巾の絞り汁とか入ってるから。

 だからしょぼくれてなんかいない。

 猫耳もへたれてない。

 ないったらない。



「…………おや?」



 なんとか気を持ち直して通路を進んでいくと、道が左右に枝分かれしていた。

 そして、突き当たりの中央には……看板が。

 見ない振りを決め込んで突破しようとしたのだが、絶妙な位置に突き刺さっていたため、否が応でも読めてしまった。



『TKGとはなんぞや?』



 は?



「…………たまごかけごはん」



 じと目をしながら質問にそう答えると、看板の後ろの壁がガコンッと動いた。

 どうみても隠し扉……もう迷宮作成者は日本人に確定だ。

 暫定ではなく確定なのだ。

 なんなの……TKGとか……。



「卵……?」



 隠し扉から中に入ると、敷き詰められた藁の上に黄金の卵が。

 ダチョウの卵くらいのサイズだ。



 えっ、何。



 この卵を食えと?



「非常食ゲット!」



 ……食うよ?




          ☆☆☆




「うぅ……」



 非常食を確保してから、進路を右にするか左にするか散々迷った挙げ句に俺は左を選択した。

 ランスを背負い、卵を無理やり詰めてパンパンになった旅袋を片手に引きずりながら進んだわけだ。

 だが、左を選んだのは失敗だったかもしれない。

 もしかしたら右を選んでいても同じになった可能性もあるにはあるが。

 というのも、氷みたいな壁や床が、氷みたいではなく本物の氷になったのだ。

 つまり寒い。

 では、俺は?



「ひひひひひ非常食とか思っててててごめんよたたた、たた卵ちゃん。今はきき君だけが頼りだ!」



 罠により水浸しになった俺と旅袋は当たり前のように凍った。

 そりゃあもうパキパキと。

 気づいたら凍ってた体に顔面蒼白だ。

 で、ガタガタと震えていた俺は卵が熱を持ってることに気づいたのだ。

 控えめに考えても長年放置されていた卵が熱を持っていることに不気味さが半端ないが、頼れるのが卵だけなのも事実である。

 だから仕方なく。

 寒いから仕方なくなんだからね!



「ももももう、ぜぜ絶対に離さない!」



 あまりの寒さにまともに動くこともままならなくなった俺は、卵を抱き締めながらぺたんと座り込んでいる。

 意図せずに女の子座りなる伝説の技巧を自然にしてしまったことに遺憾の異を唱えたいところだが、今はそんな余裕はない。

 凍え死ぬ。

 割とガチで。

 今魔物に襲われたらゴブリンにも負ける自信がある。

 だって動けないし。



「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」



 ですよね。

 自分でも思ったもん。

 あ、これフラグだ……って。



「詰んだ……」



 自らの未来を嘆いていたら、卵に罅が入った気がした。

使い勝手がよすぎるゴブリンさん。

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