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14,幼女、孤立する

雨振ってきた。

さむっ


「迷宮……ですか」



 アルバートさんと再会した俺たちは、特に断る理由もなかったので三人一緒に食事を終えた。

 アルバートさんはこう……なんというか、やっぱり見た目通り豪快な人だった。

 食べ物を次々と喉に放り込み、瞬く間にテーブルから料理が消えた。

 『食べる』というより『飲む』といった感じの食べ方に、開いた口が塞がらなかったよ。

 思わず、握っていたスプーンを落とすという古典的な反応をしてしまった。

 この人は絶対噛んでないと断言する。

 食材が泣いているぞ。食材魔物だけど。



「うむ、そうだ。これも何かの縁、了承して欲しいのだ」



 で、今なんだけど。

 アルバートさんは迷宮に潜りたいらしい。

 潜りたいけど、一人では厳しいからと俺たちに交渉を持ちかけてきた。

 もちろん、Eランクであるライアと俺をパーティーに招いてるってわけじゃない。

 先日のサイクロプス討伐でクルスに惚れ込んだアルバートさんは、迷宮攻略に差し当たってクルスを貸して欲しいと頼み込んできたのである。



 そもそも、迷宮とはなんなのか。

 ドラハンに『迷宮』と名のつくマップは存在しない。

 『遺跡』とか『地下』ならあるのだが……。

 他のゲームとかの要素で考えると、迷宮というものは道が入り組んでたり、部屋がいっぱいあったりする建物ないし地下建造物のことだ。

 そこで、ドラハンと照らし合わせて見ると、迷宮のようなダンジョンで名前がないマップが一つ存在した。



『ギルドダンジョン』だ。

 通称GDと呼ばれるマップで、ゲームの世界でならばギルドダンジョンが名称なのだが、この世界では迷宮なのではないだろうか。

 各街にあるギルドから入ることができるダンジョンで、終わりのない迷宮をひたすら降り続けるだけのものだ。

 階層ごとに敵の強さが増し、稼げる経験値も通常より多い。

 ただ、一日に入れる回数が決まっていて、ようはユーザー獲得用に運営が用意した策の一つだ。

 俺は溜め息を一つ吐いて口を開く。



「前提が間違っていますよ、アルバートさん。そもそも、クルスさんはパーティーじゃないです」



 そうなのだ。

 クルスはパーティーじゃない。

 迷宮がなんなのか気になるところではあるが、クルスを誘うなら本人に言ってくれ。

 パーティー登録したわけでもなし、俺たちでは要求に返事はできない。

 俺がそう返すと、アルバートさんは顔をやや歪ませた。



「むぅ……そうだったのか! では本人のみに頼むとするのだ!」

「えぇ、そうしてください」

「えと…………ごめんなさい」



 ライアが困り顔で謝っているが、俺たちに非は全くない。

 なぜ謝ったのか。

 というかここ数日を振り返ると、ライアは気が強そうな顔をしているのにわりと小心者な感じだな。



「フッ…………その必要はない」



 狙ったかのようなタイミングでクルスがその姿を表した。

 いったいどこから湧いたのか、相も変わらず黒一色の服で顎をしゃくりあげたドヤ顔である。

 あまりにも露骨な登場に、ゴキブリホイホイでも仕掛けた方がいいんじゃないだろうかと真剣に思案してしまう。

 アルバートさんはそんなこと露ほども気にしないのか、その見る人によってはある意味ホラーな顔面に喜色を滲ませた。

 そしてバンッ! と、テーブルに両手をつき席から立ち上がる。



「おぉ、クルスよ! 我が輩と一緒に迷宮に潜って欲しいのだ!」



 と、アルバートさんがクルスに頭を下げる。

 クルスはそれにドヤ顔のまま答えた。



「フンッ……このオレが提示する要求を受け入れるなら守護してやってもいい」

「よし! 受け入れるのだ!」



 即答かよ!

 てか、クルスの要求って……。



「クルスさん、ちなみに要求ってなんですか?」

「フッ……火焔姫と黒薔薇猫の同行だ」



 ですよねー。




          ☆☆☆




 俺とライアの意思を思考から外した提案に、もちろん俺たちは最初同行を拒否していた。

 でも、決して折れず説得を粘り強く試みてきたクルスに白旗を振り、結局ついていくことになった。

 迷宮に入る前にライアの防具を一新し、一日では帰れない可能性も考えて準備もした。

 なんでもアルバートさんは『アリアローゼの迷宮』というどこに何があるか丸分かりの迷宮に、潜れる限界までいきたいそうだ。

 お泊まりになるかもよ、やったねクルス。ペッ。



 で、アリアローゼの迷宮は、想定していたギルドダンジョンとは全く異なった。

 王宮といった感じのピッカピカの床や壁が複雑に入り組んでいて、所狭しと罠が張ってある。

 生息する魔物の量、種類などもギルドダンジョンより遥かに多く、難易度は計り知れない。

 こんなマップ俺は知らない。

 未知数ということがこんなに怖いなんて……。



 特に罠だ。

 そう、罠が怖い。

 ドラハンの罠はどこに何があるかも決まっていて、毒状態になってもダメージをくらっても暗記すればいいだけだった。

 でもこの世界では恐ろしい罠があったのだ。

 本当に恐ろしい罠だ。



 迷宮に入ってすぐに、俺はその罠を見事に踏み抜いた。

 その時の状況を語るとしよう。

 まず、入ってすぐに何かを踏んで「カチッ」という音がしたんだ。

 いやな予感がしてそのまま動けなかったんだけど、何も起こらないことに俺は首を傾げた。

 そうしていると、正面に看板があることに気づいた。



『右を見ろ』



 右を見てみると、そこにも看板があって、



『左を見ろ』



 左を見てみるとそこにも看板が。



『上を見ろ』



 上を見ると貼り紙が。



『下を見ろ』



 下を見てみる。



『大マヌケ』



 瞬間、発動する転移罠。

 なんて恐ろしい罠だ!



 つまり、何がいいたいかというと。



「ひとりぼっちになっちゃった……どうしよう………」



 迷宮入りして速攻で孤立した。

しばらくリリィ独りです。

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