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12,幼女、観戦する

 湿地に聳え立つ岩を背に、肉が躍る。

 片や青空に血を滲ませたような、まだら模様の青と赤の皮膚を持つ一つ目の巨人。

 その名もサイクロプス。



 片や雲を抜けて差し込むわずかな日の光さえ反射する頭と、その逞しい筋肉を主張する半裸。

 その名もおっさん。



「ぬんっ!」



 おっさんがサイクロプスの顎に向かって掌底を叩き込む。

 防御することも避けることも叶わなかったサイクロプスは、おっさんの掌底を甘んじて受ける。

 顎に綺麗に命中したおっさんの掌底は、その衝撃が内部に浸透し、サイクロプスの脳髄をしたたかに揺らした。



「イデェナ! オラッ!」



 たが、サイクロプスは脳髄を揺らされても倒れずに耐え抜いた。

 さらに、ぬかるみに沈ませ踏み縛っていた足をそのままに、巨体を生かした剛腕から織り成すエルボーを放つ。

 掌底を叩き出すために、エルボー射程内である眼前へと潜り込んでいたおっさんは、エルボーを顔面に振り抜かれ、吹き飛んだ。



「ガハッ! うむ、いい打撃だ! だが我が輩は負けぬのだ! ウォォォォォォォオ!」

「オデ、タタカウ」



 強烈な威力により血を吐き出したおっさんは、手の甲で口元を拭いながら強く宣言する。

 サイクロプスもまた、己が持つ不屈の意思をかすかに、されどしっかりと吐露する。



「ふん!」

「ガウッ!」



 そして、二つの肉の塊は、計ったかのように同時に地を駆け出した。

 おっさんはそのスタイルを脚撃に移し、宙を駆け跳び蹴りを放つ。

 サイクロプスはおっさんに向けて、握った拳を右から振り下ろす。

 衝突するおっさんの足裏とサイクロプスの拳。

 おっさんとサイクロプスの打撃は混じり合い、爆音を轟かせる。

 そしてその爆音は、凄まじい破壊力故か衝撃波へと形を変え、周囲を縦横無尽に襲う。



「グガアァァァァァァ!」

「ぬぅぅぅぅぅぅん! ぬぅ!?」



 やがて二つは拮抗を崩し、地力で勝るサイクロプスに軍配があがる。

 誤作動で発射されたロケットのようにおっさんは吹き飛ぶ。

 そしてその勢いをそのままに、隕石のごとく大地にめり込んだ。



「ぐはっ! ……『ヒール』! ワーハッハッハ! やるな! さぁ、第二ラウンドなのだ!」

「ヒキョウモノメ!」



 傷ついた肉体を癒やし、仕切り直しとばかりにおっさんは立ち上がった。

 勝利を確信していたサイクロプスは、理不尽な現状に不満を漏らす。

 そして、再び二つの肉は踊り狂い、















「……なんなのですかね、これは」

「わー! あのおじさんスゴいねー!」

「あの程度ならこのオレにだって……」



 なんか、動けるおっさんと働かないおっさんの違いを見せつけられてるみたいだ……。

 デブ(筋肉)とデブ(脂肪)で文字は同じだけど、そこには確固とした格差があるといいますか……。



 あれから、サイクロプスへと忍び寄ってた俺たち三人は、おっさんとサイクロプスが繰り広げるそのあまりにも壮絶な殴り合いを、岩陰で愉快に観戦していた。

 特に、ライアがノリノリで、



「わっ! おじさん危ない!」



 とか、



「おじさん頑張って! そこだー!」



 とか叫びながら応援している。

 万歳しながらピョンピョン飛び跳ねて超ご機嫌である。


 また、嫉妬の炎に次々とライアの応援という燃料が投下されたクルスはというと、大炎上しすぎたのか今は鎮火している。

 肩を落としてなぜか小さく見えるし。


 てか、あのおっさんヒール使ったよね。

 え?

 ビショップなの?

 モンクじゃないの? マジで?



「わ! おじさん危ない! 気づいて!」



 しかし、打撃と打撃で語り合うという、前衛的な友好の深め方をしていた肉たちを邪魔する奴らが現れた。

 イボイボの皮に泥を塗り、三角形の頭から出っ張る目玉。

 前肢は短く、後肢が発達して大きい。

 そう、アクアフロッグ。

 が、二十匹。

 おっさんとサイクロプスを囲むように遠くから這ってきている。

 ライアがおっさんに叫んでいるが、その想いは肉に阻まれ届かない。



「マスター、増援に入りましょう」

「うん! リリィちゃん!」



 横殴りになってしまうため観戦していたのだが、互角の状況からさらに雑魚が増えたならば、あのおっさんでもきついだろう。

 クルスのせいで経験積めなかったし、雑魚相手ならちょうどいい。

 しっぽはピンピンお耳もピンピン、気合いは充分、自信は満々。

 ライアに一言申告し、俺たちは岩陰から飛び出した。



 なお、クルスがくれた槍は普通のノーマルランスだ。

 だけど、スキルが使えるというだけで、こんなにも自分に自信がつくなんて。

 体が軽い! こんな気持ちで戦うのなんて生まれてから初めて!

 パーティーの中では俺が一番速い。

 クルスはちょっと未知数たが、二人と距離を離してることから俺が一番なのだろう。

 うむ、一番なのだ。

 ニートは一番という言葉が大好きなのだ。

 すぐにおっさんへ接近した俺は、二人の到着をまたずに助勢に入ることにした。



「助太刀します、アクアフロッグはお任せください」

「ぬ!? こりゃいかん! 気づかなかったのだ! 感謝するぞ、ウィザード……ランサー……? の娘よ!」

「……いえ。『ブリッツ』!」



 おっさんに背後から声をかけて、俺はすぐさまスキルを発動させる。

 範囲内にいるアクアフロッグは……一、二、三。

 三匹だ。

 そのうちの一匹、俺から見ておっさんの右横から数メルト程の距離にいるアクアフロッグに狙いを定めた。

 体に頂上から落ちるジェットコースターに乗ってるみたいな重圧がかかる。

 そのまま止まることを知らないマグロのように突進した俺は、あっという間にアクアフロッグとの距離を詰めて槍の穂先を突き刺した。



「ゲロッ!」

「……浅い。『ブリッツ』!」

「グゲコォォォオ!!」



 アクアフロッグの腹に穂先が刺さったが、倒すまでには至らなかった。

 俺は直感で穂先を刺したままブリッツを追加発動し、穂をアクアフロッグの腹の中へと完全に埋める。

 すると、アクアフロッグは小気味の悪い断末魔をあげながら、生命の活動を停止した。

 よし、次だ!



「私も助太刀します! 『ブリッツ』!」

「フンッ! 自らの矮小さを思い知るがいい、駄肉よ」



 ライアとクルスも追いついて助勢に入った…………ってオイ! なんでサイクロプスに斬りかかってんだよクルス!

 アホなクルスは視界に入れないことにして、そうしてる間にライアがアクアフロッグを一匹仕留める。

 俺もブリッツを発動し、範囲内の一匹に命中させる。

 要領を得て次々に俺とライアはアクアフロッグを討伐していく。

 俺は数を減らすアクアフロッグに高揚していると、脳内に聞き慣れない声が喋りかけてきた。



『〖ステップ〗を習得しました』

「っ!!」



 び、びっくりした。

 不意打ちすぎる、思わず体ごとビクッてした。

 神の声か……やっぱり経験値あるっぽいな……。

 もはや脅威ではなくなったアクアフロッグを後目に思案していると、ライアが最後のアクアフロッグを仕留める。

 さらに、ズシン! と何かが倒れる音と、視界から外していたナマゴミの声が聞こえてきた。



「フハハハハハ! 見たか! これが! このオレの! 真の力!」

「ワーハッハッハ! スキルなしとは気に入った! 我が輩とも手合わせして欲しいのだ!」



 なんか肉と虫が意気投合してた。

リリィ:ランサー(中距離)

ライア:ランサー(中距離)

クルス:剣士?(近距離)

おっさん:僧侶(物理)




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