9,幼女、抱かれる
「オーガの角4本と……肉と皮もだね、全部で10000Gだよ」
厨二爆発で尋問を逃れた金髪野郎と共に、冒険者ギルドに戻ってきた。
有耶無耶にされたせいで、色々と検証が必要なことが増えた。
「あの……私たちが倒したわけじゃないのに、本当にいいんですか?」
「む? 何をいっている? このオレの儕輩ならば、褒美は分かち合うのが当然というものだぞ。火焔姫よ」
まず、あのオーガの攻撃はたしかに威力が籠もっていた。
それこそ俺の腕なんてへし折って、そのまま顔面をぐしゃぐしゃにするくらいに。
なのに、腕が折れるどころか全く痛みを感じなかった。
可能性としては、アフロディーテの法衣が、ゲームの能力のままこの世界に存在しているということ。
もしそうなら、雷槍エレクトロンは?
雷槍エレクトロンは、高レベル帯のマップでドロップするノーマルユニーク装備だ。
ゲームの能力が適用されているなら、オーガにブリッツを防がれたり突き刺しても倒せなかったりなんてことはありえない。
仮に、アフロディーテの法衣だけがゲームの能力を引き継いでたとしても、それはそれで困る。
なぜなら、たしかに防御能力は優秀だけど、無敵ってわけじゃないからだ。
それに、防御だけ高くても、攻撃手段がなければ意味はない。
「でも、全部なんて貰えません! これじゃあ分け合うじゃなくて、与えてるじゃないですか!」
「フン…………まぁ、落ち着け火焔姫よ」
「落ち着けません! 大金ですよ!?」
「ふむ、ならばこうしようではないか。今宵は宴だ、晩餐の費用は貴様が払え」
そして、魔法だ。
金髪厨二は杖を持たずに魔法を発動していた。
だけど俺はどうだ?
初日のフレイムアロー以降にも、魔法が使えないかは試してた。
だけど、フレイムアローは勿論、上級魔法も補助魔法も粒子は消えた。
粒子は多分マナだろう。
であるならば、マナはこの体には存在する。
なのに、魔法が使えない。
杖を持っているのに、だ。
このままじゃ、リリコットたんを探すどころか、まともに外にさえ出られない。
俺には力が必要なんだ。
「もちろん払いますけど……それだけじゃ足りません」
「まずは宴を開こうではないか。ギルドの酒場でいい、いくぞ」
「むぅ……リリィちゃん、ごはん食べるよ」
「…………はい」
あとは、金髪厨二の存在。
初対面からイライラしっぱなしだ。
なぜかあいつには既視感がある。
言動、行動、仕草。
初対面なはずなのにどこかで見たことがあって、それがわからなくてさらにイライラする。
なんなんだよ…………もう。
「さっさとしないか………む? おい、火焔姫。黒薔薇猫はいったいどうしたというのだ?」
「あぁ……たまにこうなるんです。気にしないでください、抱えていきますから。ほらいくよ、リリィちゃん」
「……………はい」
あぁ、そういえばお金の話になるんだけど。
この世界はお金の単位がGだ。
日本でいうところの一円が十Gになるわけだ。
「ずいぶんご機嫌だな、火焔姫よ」
「えへへ。リリィちゃんはすごく抱き心地がいいんですよ」
「ふむ、ならば金の礼はそれでいい。贄が捧げられるまで黒薔薇猫を寄越せ」
「むぅ……たしかに大金の価値があるわよね…………わかりました。はい、どうぞ」
「フッ…………!? こっ、これは……!!」
あ、まだあったわ。
ライアはあれだけの戦闘能力があるのに、なぜ俺にゴブリンなぞ狩らせたのか。
俺みたいに杖で殴って倒せるはずだろうし。
だぁー! 次から次に炙り出さないといけない問題が湧いてきやがるぅぅぅ!
「リリィちゃん、ごはんきたよ。リリィちゃーん!」
「終焉の時が訪れてしまったか……」
「はい………………はい?」
意味がわからない。
ギルドの受付前にいたと思ったら、いつの間にか酒場で厨二の腕の中にいた。
「はははははなしてください」
「当然だ。このオレは儕輩との約束は違えない」
「ふふ。リリィちゃん、無表情だけど頬が赤いわよ」
おおおおおちつけ!
ニートは動じない、動かない、働かない!
心頭滅却! 悪霊退散!
聞かなきゃならないことがたくさんあるんだ!
ふぅ………よし!
「金髪さん、あなたに質問がいくつかあります」
「ふむ、寛大なこのオレが答えてやろう。いくらでも教えを請うがいい」
「まず、あなたの名前はなんですか?」
普通これ最初にいうよな。
依頼終わってしばらくしても名前いわないとか絶対におかしい。
「ふむ、特別に教えてやろう! このオレの名は血濡れの堕天使! 残念ながら真名は……」
「あ、そういうのいいです。はやく教えてください」
「…………………………クルスだ」
クルスか。
ちゃんとクルスって呼ぼう。
じゃないとゴキブリって呼びそうになる。
「ではクルスさん。あなたは杖なしで魔法を使っていましたが、どうやったのですか?」
「何のことだ? あれは剣技だぞ?」
「教える気はないんですね?」
「…………あれは剣技なのだ」
教える気はなし、と。
なら残りは……。
「ワタシはウィザードなのに、杖があっても魔法が発動しません。原因を何かご存知ありませんか?」
「ふむ? そんなバカなことは無いはずだが……もしかすると……いやしかし」
「…………?」
なんだ…………?
顎に手を当てて何か悩み出したが……。
解決策か原因究明ができるなら、わずかな可能性でも教えて欲しい。
リリコットたんを探すには力が必要、どんな強敵が立ちはだかろうとも、討ち倒さなければならない。
体を返す方法もだ。
調べるには何にしたってお金は必要だ。
お金が必要なら冒険者として上に行くしかない。
ライアには悪いけど付き合って貰うしか他はない。
「リリィちゃん……やっぱり魔法使えなかったのね……」
「はい、マスター。……すいません」
「物理で攻撃するのが快感になってるのかと思ってたわ…………」
すっかりいけない方向に勘違いしてたライアの言葉に、俺は首を横に振る。
そして、俺はライアにも聞かなきゃいけないことがある。
「マスター、なぜゴブリンをワタシに狩らせたのですか? マスターが狩ればよかったのでは?」
「うん……? 杖じゃスキルが発動しないじゃない。槍がないと私はただの女の子よ?」
スキル……?
スキルが関係してるのか……?
杖だとただの女の子?
そんなバカな、ブリッツ使ってなくても素早く動いてたじゃないか。
なら俺は……?
魔法職としてのスキルが発動しないのはなんでだ?
「ふむ……黒薔薇猫よ」
「はい、なんですか?」
「明日、このオレの儕輩となって試練についてこい。心当たりがある。火焔姫も一緒にくるといい」
心当たり……なんだろうか。
いずれにしても、こっちは藁にもすがりつきたいくらいだ。
飛びつくしかない。
「明日ですか。マスターがよければいきます」
「いいわよ。私が一緒ならね」
「では決定だ。明日、2回目の朝の鐘にギルドだ」
「わかりました。あとクルスさん」
「む、なんだ黒薔薇猫よ」
明日か……何をするんだろうか。
「いい加減解放してください。殴りますよ」




