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作者: 秋葉秋馬

 これは単なる青春小説でありますが、深読みすれば出来る作品でもあります。

 高校生になる人も、高校生の人も、かつて高校生だった人も、読んだ後にきっとなにかを感じてくれると思います。

 俺は死んでいたと思う。生きているフリをしているだけの、ヒトの形をした抜け殻――。


 都立弥上高等学校。都内の普通科の高校としては中堅クラス。現代の殆どの高校がそうであるように、進学希望の生徒を量産するタイプの高校。

 緑に囲まれた小高い丘の頂上と言う、無意味に恵まれた環境。その他にとりたてて誉めることも無い、入学理由『家に近いから』が十年連続一位。そんな学校に、この物語の主人公、近藤弘信は通っている。



 放課後の教室は、一種幻想的な雰囲気が満ちていた。

 遠くから吹奏楽部の演奏と、運動部の無闇に元気の良い掛け声が聞こえてくる。黄昏のオレンジ色に染まった教室は静かで、昼間とは別の場所のようだった。

 そんな、外の世界とは隔絶された教室に、少女はいた。

 空っぽの机や椅子を少しずつ退かし、差し込む夕日が一番当たる所にスペースを作る。その円形のスペースに立った時、薄暗くておぼろげだった彼女の姿が照らし出された。


 それは異質だった。

 黄昏に浮かぶ、赤と白。


 まず、髪が白い。レイヤーボブにカットされ、丁寧に手入れされた白髪。余分な脂肪も肉もつけずにすっきりと整った顔立ち。その瞳は痛々しいほど紅いスカーレッド(傷口色)。

 薄い唇にも肌にも血の気が無く青白い。無性に長い袖から少しだけ覗く手の平には、細い静脈が幾つか浮かび上がっていた。

 床に延びるシルエット――影は総じて細く映るものだが、それを差し引いても彼女は細い。それなりに整った顔立ちをしているにもかかわらず、不気味さが先に立ってしまう。それが岡田敬子と言う少女だった。

 教室の中で机や椅子を動かしている敬子を、弘信はどこか遠くの出来事のようにぼんやりと見つめていた。

 弘信自身は、やや赤みがかった瞳以外は、ごくごく平凡な見た目だった。中肉中背で、黒の詰襟が無闇に似合っていた。教室の中の敬子が異質なせいか、彼の平凡さの方が異常に見えた。

 敬子は机から手を離すと、軽く息を吐いた。周りには円形に机が並べられ、夕日に照らされたその場所はステージにも見える。

 敬子はそのステージの中心に立つと、両手をそっと広げた。

「Ich weis nicht, was soll's bedeuten, Das ich so traurig bin.(なじかは知らねど心わびて)」

 どこか異国の言葉で紡がれる歌。そう、それは歌だった。

 ややかすれたメゾソプラノ。どこかの劇場の歌姫のように、浪々とそれを歌い続けた。

「Ein Marchen aus alten Zeiten, Das kommt mir nicht aus dem Sinn.(昔の伝えは そぞろ身にしむ)」

 メロディー自体は明るい。ただ、アカペラであることと彼女自身が持つ雰囲気、そして歌い方のせいで、妙に寂しくその歌は聞こえた。

 幻想的なその世界は、外から聞こえる雑音だけが、そこが現実であると言う証だった。

 と、突然敬子が歌を止めて弘信の方を向く。薄暗い中で見えるスカーレットの瞳は、やはり不気味だった。

「何か用?」

 メゾソプラノの、良く通る声だった。高いわけでも低いわけでもないのに、とても耳に心地良い。

 弘信は硬直し、一瞬思考が止まった。

 敬子は人差し指で自分の髪を弄りながら、傍らに置いてあった鞄を掴む。

「はっきりして」

 教室の入り口に立っていた弘信に、すれ違い様に敬子は言った。弘信はその一言で一気に現実に引き戻され、至近距離で敬子を見た。

 不思議な匂いがした。香水なのか、鼻をくすぐる淡い匂いだった。

 敬子の瞳は深く、黒い瞳よりもよほど奥がありそうだった。

 敬子はそのまま何も言わず、足早に歩いて行った。取り残された弘信はまだ呆然としながら、彼女がクラスメイトであったことを思い出し、彼女が動かした机を自分が戻さなければならないことに気付いた。


 夏休みが終わりしばらくして、肌寒くなってきた頃。そんな放課後の出来事だった。



 深夜の駅前、そこは昼間や夕方とは全く違う表情を見せる。通勤、通学ラッシュも終わり、人の数はぐっと減る。だが、そこは不思議な賑わいを見せていた。

 街灯が照らす広場のあちこちに、各々楽器を持ったミュージシャン達が歌を歌っている。中には、喋りだけで客を集めている者もいた。

 愛だの希望だのと陳腐な言葉をちりばめた、若者達の必死な主張。安っぽい街灯で照らされたその広場は、彼らだけの劇場だった。

「愛がたりねーんだな」

 傷だらけのアコースティックギターのチューニングをしながらそう呟いた達平を、階段に腰を降ろしていた弘信はぼんやりと眺めた。

 短い髪と、童顔だが意思の強そうな瞳。ギターのチューニングをしている左手の指には、殆ど指紋が無い。右手に持っているギターピックは、擦り切れていて元の形がわからない。それが山口達平だった。

 弘信の数少ない友人でもあり、変人でもある。

「そうだな、最近ベストセラーになる本も、大抵愛がテーマだよ」

 弘信は気の無い口調で返した。

「だろ?」

 達平はべろん、とギターを鳴らす。古いためか、お世辞にも良い音色とは言えなかった。

 普段はとぼけた表情をしていることが多い達平だが、楽器を持っている時だけは真剣な顔をする。その表情が、弘信はたまらなく好きだった。

「根本的に、愛が足りねーのよ。最近の世の中はさ」

「そうか?」

「そうとも」

 達平は妙に自信満々な様子で言うと、立ち上がった。その表情は晴々としていて、人の感情の明るさだけを切り取ったような雰囲気だった。

「で、その足りない愛を届に行ってくるわ」

 達平は軽く手を上げると、劇場に向かって悠々とした足取りで歩き出した。

 弘信はそんな達平の後姿を眺めながら、突然夕方の敬子のことを思い出した。劇場という名の戦場に向かう彼の後姿が、どうしても敬子の横顔と重なってしまう。

「真似できないな」

 そっと呟いた。

 達平は、高校三年生になってからミュージシャンになると言い出した。それまでも音楽活動をしていたが、あくまで趣味の範囲内、家族も弘信もそう思っていた。

 弘信も達平を止めた。友人としてだ。だが、達平は笑いながら「決めたことなんだ」とだけ言った。しっかりとした口調で。

 それ以来、弘信はこうして達平と深夜の駅前に来ている。

 ボロボロのみすぼらしいアコースティックギター一本で戦う達平の姿は、頼り無いと同時にとても誇らしげだった。誰よりも音楽が好きなのだと言うことが、歌声を通じて伝わってくる。だから、達平の周りにはいつも十数人の見物客が集まってきた。

 弘信はそれを遠くから見ているだけだった。学校に言われるがまま、親に言われるがままに名門大学への進学を決めた自分に、あそこに立ち入る権利は無い。

 そこは、自分の意志で自分の道を決めた者だけが脚光を浴びれる場所。日の当たる場所を選んだ弘信には、遠い場所。

 今日も、どこかから達平の静かな歌声が聞こえてきた。



 コツ、コツと、時折小さな音が教室に響く。

 黒板をチョークが叩く音だ。教師はまるで機械のように教科書を読み、黒板に文字を書き込んでいく。生徒はそれと関係無しに、自分の勉強をする。

 受験が近くなると、まともに授業なんて受けなくなる。受験科目に無い教科などは更に悲惨だった。

 教師も生徒も、揃って機械に見える。鉄の秩序が生み出した理想的な姿を眺めていると、弘信はいつも軽い眩暈に似たものを感じた。

 弘信は表向き真面目に授業を受けている。教師の話に耳を傾け、質問されれば答え、ノートも一字一句漏らさず書き取る。

 窓の外はどんよりと曇っていて、心なしか教室の空気も重い。普段ならもう少し私語が聞こえてくるのだが、今日に限ってはそれも殆ど聞こえてこない。

 だからだろうか。普段は聞こえない雑音が妙に耳につく。

 無意識の内に耳を澄ますと、それはページをめくる音だと気付く。弘信は思わず後ろの方をちらりと見た。

 廊下側の席の一番後ろ。敬子はそこで頬杖をつきながら本を読んでいた。ハードカバーの分厚い本。誰もそれを咎めず、それどころか気にする者もいない。

 昨日の放課後、あれだけ異質に見えた彼女も、こうして集団の中にいると恐ろしく存在感が無かった。白髪やスカーレッドの瞳でさえ、殆ど気にならない。

 完全に溶け込んでいた。個を押し潰す秩序の中に、彼女はしっかりと自分の居場所を確保していた。

 弘信は前を向くと、やや遅れてしまった黒板の文字を書き写す作業に戻った。構っていられない。それが正直な気持ちだった。


 そして授業が終わる頃、彼女の姿はいつのまにか消えていた。


 次の授業が始まると、いつのまにか自分の席に戻っている。そして授業の間は空気のように気配を消し、いつのまにか姿を消す。まるで夢か幻のようだった。



 昼休みになると、途端に弘信は居場所が無くなる。

 教室のあちらこちらで、仲の良いグループ同士が固まって弁当を食べているのだが、弘信はそういった場所に加わる気になれなかった。どうしても、気を使うのが苦手なのだ。

 達平は達平で、勝手にどこかに行ってしまう。糸の切れた凧の様とは、彼のためにある言葉だった。

 大抵、弘信は休み時間が終わるまで散歩をしている。場所は中庭だったり、校庭だったり、その日の気分によって違う。その日は裏庭だった。

 裏庭は校舎のせいで日当たりが悪く、心なしか地面も湿っていた。コケやシダの類が伸び放題になっており、あちらこちらに教室の窓から捨てられたであろうゴミが散乱していた。

「汚いな」

 思わず口に出して呟く。こんな場所だから、滅多に人が近付かない。そのせいでどんどん汚くなっていく。悪循環だった。

 弘信自身も、ここに足を踏み入れたのは初めてだった。どうして今日に限ってここに立ち入ったのかと言えば、どこも人が沢山いたからだ。ここは、人の気配が無くひっそりとしていた。

 と、弘信は雑草を踏む足を止めた。足音を殺すためだ。

 伸び放題の雑草の一画が、綺麗に切り取られている。いや、草が抜かれ、手入れされているのだ。そこだけ地面が剥き出しになっていて、様々な植物が色とりどりの実を付けていた。どれも、小さい植物だ。

 くすんだ緑色と、黒っぽい茶色しか視界に無いので、それは嫌でも目立つ。そして、一人の少女がその慎ましい花壇の前にしゃがみ込んでいた。

 目が覚めるほどの白髪。敬子だ。

 弘信が歩いて近付くと、足音で気付いたのか、敬子は立ち上がって弘信の方を見た。

「ああ、昨日の」

 最初の挨拶にしては随分だった。相変わらず、耳に心地良いメゾソプラノの声だった。

「ああ」

 弘信は生返事すると、敬子の姿をじっと見た。

 革のベルトが大量に巻いてあるブーツ。ブレザーの上着の袖から白のレースで縁取りされた黒い袖がはみ出ており、肌を限界まで隠していた。スカートは膝より少し上の長さに調節されていたが、黒いニーソックスを履いている。

 一言で言うと、変だった。全然高校生らしくない。詰襟のホックまで留め、完璧に制服を着こなしている弘信とは対照的だった。

「何か用?」

 敬子の口調はそっけない。

「いや、別に」

 つられて弘信の口調もそっけなくなる。元々、彼女に用など無いのだから当然だ。

 敬子は細い人差し指で髪を弄る。どうも癖らしい。

「そう」

 それだけ言って、敬子は弘信に背を向けて花壇の鑑賞に戻った。

 弘信も両手をポケットに突っ込んだまま、しばらくそれを眺めていた。

「名前」

 弘信は口を開く。敬子は無反応だった。

「名前、教えてくれよ」

 出席簿などで知っているだけで、直接は聞いていない。他人に興味を示すのは、弘信にしては、珍しい行動だった。

「岡田敬子」

 敬子はそっけなく答えた。首だけで振り返ると、口の端だけを持ち上げる。妙に挑戦的に見える微笑だった。

 それが、実質的に弘信と敬子のファーストコンタクトだった。



 弘信の部屋には物が無い。白い壁紙に、白いシーツのベッド。ガラスのテーブルに白い本棚。フローリングの床には塵一つ落ちていない。清潔であることを義務付けられた部屋だった。

 唯一、本棚の中だけには色とりどりの本が並んでいるが、参考書や難しい洋書などで、弘信の意思は一つも尊重されていない。部屋のドアは、外側からしか鍵がかけられなかった。

 この部屋で勉強をしていると、いつも弘信は息が詰まりそうになった。だから、真冬でも窓を全開にしている。二階から見える外の景色は、曇り空で星が見えず、いつもよりもひっそりとしていた。

 HBの堅い鉛筆で、ノートに字を刻む音だけが、部屋の中に寂しく響く。ここでも、弘信は孤独だった。

 ちらりと時計を見ると、そろそろ達平との待ち合わせ時間だった。

 夏休みの少し前だった。達平に誘われたのは。勉強から逃げる理由を探していた弘信は達平に付き合ったが、しばらくして、その時間を心待ちにしている自分がいることに気付いた。

 ノートを閉じると、壁に掛けていた上着を羽織る。と、窓から小さな石が投げ込まれた。弘信が窓から外に顔を出すと、ギターケースを担いだ達平が、ニッと笑って親指を立てていた。

「今行く」

 弘信は部屋を出ると、足早に階段を降りる。だが、寝ている家族を起こさないように静かにだ。

 ドアを開けると、ジーパンにジャンパーと言うラフな格好の達平が、ぼんやりと空を眺めていた。つられて弘信も空を見る。何もすることが無い時に空を見上げるのは、達平の癖だった。

 どんよりとした厚い雲が空の殆どを覆っているが、それでも雲の切れ目から月や星を見ることが出来た。

「行くか」

「おう」

 肩を並べて歩き出し、二人は拳をコツン、とぶつけた。



「岡田? ああ、敬子か」

 駅からの帰り道、肉まんを頬張りながら達平は軽く言った。弘信もフランクフルトをくわえながら頷く。駅の近くのコンビニの前で、二人は何とも無しに座り込んでいた。

「知り合いか?」

 弘信の質問に、達平は頷く。

「中学の頃から一緒だ。一応な」

 達平にしては珍しく、歯切れが悪かった。

「あいつ、髪の毛白いだろ? 髪の毛だけじゃなくて、全身の色素が極端に薄いんだ。目なんかも血管の色が剥き出しだから、あんな傷口みたいな色なんだと」

 淡々とした口調で達平は喋る。今まで何度も質問され、何度も答えてきた、そんな当たり障りの無い言葉だった。

「敬子がどうしたんだ?」

 達平に言われて、弘信はフランクフルトを齧る。

「別に、どうしたって程のことでもないんだけどな」

「珍しいな、お前が他人の話題を持ち出すなんて」

「そうか?」

「おう」

 肉まんを口の中に放り込む。熱そうに悶絶する達平を見て、弘信は軽く笑った。妙に乾いた笑い声だな、と、自分で思った。

 達平はなんとか肉まんを飲み込むと、傍らのギターをケースの上から撫でた。彼が中学生の頃、初めて買ったギターらしい。

「な、弘信」

「ん?」

 フランクフルトの棒を捨てた弘信は、達平の方を見る。

「いや、なんでもねー」

 達平は軽く頭を振ると、いつものように陽気な笑みを浮かべた。眩しい、弘信には真似の出来ない屈託の無い笑顔だった。



 弘信にとって知識を詰め込むということは、強迫観念のようなものだった。とにかく、努力すれば良い。物心ついた時から、呪文のように聞かせられた。

 無限にある数式、英語、そして古文から漢文に至るまで、それは弘信を縛り付ける呪いだった。弘信は自分に対する呪いを、それこそ機械のように毎日毎日、唱え続けていた。

 緑に包まれた歩道を、弘信は参考書を読みながら登って行く。自分自身に呪いをかけながら。

 そんな弘信の視界の隅に、不思議なものが飛び込んで来た。白いレースで縁取りされた、大きな黒い日傘。弘信が空を見上げると、秋晴れの空が広がっていた。

 黒いニーソックスと、ベルトだらけのブーツ。ブレザーのあちらこちらから覗く黒いシャツの裾。敬子だった。

 青白い死にそうな顔で、鬱陶しそうに太陽を睨んでいた。曇りの日には気にならなかったが、肌の色が不自然に白い。恐らく、日焼け止めでも塗り込んでいるのだろう。

 弘信は本で顔を隠すようにして、敬子を追い抜いた。

「おはよう」

 暖かな陽気に、涼しげなメゾソプラノが聞こえる。弘信は顔を上げざるを得なくなった。

「ああ、おはよう。良い天気だな」

 そっけなく返事をしたつもりだったのに、敬子は妙に人懐っこく歩調を合わせてきた。

「そうね。忌々しいくらい」

 爽やかな口調で呪いの言葉を吐く。弘信は溜息を吐くと、読んでいた参考書を閉じた。

 二人はしばらく肩を並べて歩いていたが、唐突に敬子が口を開いた。

「髪のこと、何も言わないんだ」

「わざわざ指摘するほどのことでもないだろ」

 弘信が当たり前のように言うと、敬子は軽く口元に笑みを浮かべた。

「良いね、そう言うの。割と好き」

「別に嬉しくもない」

 本当に、どうでも良いことだった。ただ、弘信は一つだけ学んだ。人は見かけによらない。第一印象も、あまり当てにならない。

 昨日に比べて、敬子は幾らか友好的な姿勢を見せていた。何かしらの形で、彼女が弘信を認めたのかもしれない。

「聞いたよ、達平の友達なんだって?」

「一応、な」

 改めて言われると、照れるものだ。そのせいでぶっきらぼうな口調になった弘信を見て、敬子は軽く笑った。

「照れちゃって」

「大きなお世話だ」

 軽口を叩きながら、弘信は不思議とあまり不愉快ではないことに気付いた。達平と話している時のように、ごく自然に言葉が出てくる。

 嘘と上辺だけで塗り固められたクラスメイトとの会話なんて、弘信にとっては苦痛でしかない。何が悲しくて、自分の言葉を選びながら笑わないといけないのか。

「じゃあ、先に行くね」

 そろそろ校門が見えてくる頃に、敬子が言う。

「何か用事か?」

「変人の仲間だって思われるの、嫌でしょ?」

 笑ってそう言った。まるで冗談のような口調だったが、弘信はどうしても嫌な気分になった。

 弘信は髪を掻くと、歩調を速める敬子に足を合わせた。

「どうしたの?」

「クラスメイトが一緒に教室に行くのは、当たり前のことだ。文句を言われるようなことじゃない」

 幾分早口気味に言う弘信を見て、敬子は吹き出した。

「なんだよ」

 笑われるとは思っていなかったので、弘信は戸惑う。

「そうだね、普通のことだね」

 敬子は笑いを堪えた様子で、のんびりと弘信の横に並んだ。釈然としないまま、弘信は敬子の横顔を見る。

「それに、変人の知り合いに見られることには慣れてる」

 笑われたままでは悔しいので、弘信は軽くそう付け加えた。



 弥上高校は、屋上が解放されている珍しい高校だった。その代わり、見上げるほど高いフェンスに囲まれ、フェンスの上には有刺鉄線が張り巡らされている。

 事故防止のため、フェンスの外に出る場所はどこにも無い。巨大な鳥かごのような場所だった。

 朝は晴れていたが午前中の内に曇り始め、昼休みになる頃にはまたどんよりとした曇り空が広がっていた。湿度が低いのが、せめてもの救いだろう。

 紙パック入りの牛乳をストローで飲みながら、弘信は何をするでもなく、退屈な昼休みを過ごしていた。こんな曇りの日に、屋上に上がってくる物好きは、そういない。

 学校にいる時は、こうして一人でいる時間は、弘信が好きな時間だった。

 何の前触れもなく、弘信の目の前にサンドイッチが差し出された。

「?」

 顔を上げると、敬子が自分でも卵サンドを齧りながら、弘信にサンドイッチを差し出していた。

「あげる」

「そりゃ、どーも」

 弘信は受け取ったサンドイッチを齧った。マヨネーズの酸味と辛子がきつめの、ハムサンドだった。

「隣、良い?」

「別に」

 敬子は神経質そうにスカートを手で折りながら、弘信の横に腰を降ろした。

 特に会話も無く、黙々と昼食を摂る。普通なら気まずい沈黙だが、不思議とそれが当然であるかのように、自然に時間だけが流れて行った。

「ねぇ」

 弘信が頭上を飛び過ぎて行く鳥の数を、ちょうど五羽数えたところで敬子が口を開いた。

「ん?」

 敬子の白い髪が風に流され、あの不思議な香りが弘信の鼻をくすぐった。

「……なんでもない」

「なんだよ。言い掛けて」

 敬子は立ち上がると、軽く笑いながら首を振った。

「ホントに、なんでもないの。お昼、付き合ってくれてありがと」

 昼食に付き合ったのかと、弘信が頭に疑問を浮かべている間に、敬子は風のように屋上から立ち去っていた。

「よくわかんねーな、ホント」

 弘信はストローをくわえながら、そっと呟いた。耳障りな音がして、それが空になったことを知らせる。

「ダメだ。気になる」

 弘信は頭を掻き毟った。



 昼頃には曇っていた空も、夕方にはまた雲一つ無い空に戻っていた。秋の天気は変わりやすいと言うが、確かにその通りだと思わせる天気だった。

 居眠りをしていた弘信は、机や椅子を動かす音で目を覚ました。

 あの日と同じ、黄昏色の教室。

 やはり遠くから聞こえてくる吹奏楽部の音と、運動部の掛け声。そして、ステージを作っている敬子。

 見慣れたせいか、最初に見た時のような不気味さは無い。初めて見た時は物の怪か何かのように感じたが、改めて見てみると、儚げな光に照らされた敬子の横顔は神秘的な雰囲気を持っていた。

 スカーレッドの瞳はルビーの輝きを放ち、物憂げなその表情は絵画の美女を思わせる。白く、細い手足は服装のせいもあって、西洋のアンティークドールのような清楚さを持っていた。心の持ちようでこうも人の外見は変わるものかと、弘信は驚いた。

「起こしちゃった?」

 敬子が顔を上げる。弘信は目を擦りながら、軽く欠伸をした。

「いや」

 一瞬見惚れていたなど、とても言えない。

 弘信は立ち上がると、机を退かす作業を手伝った。それを見て、敬子が意外そうな顔をする。

「どうしたの?」

「最後まで聴かせてくれよ」

 弘信は気恥ずかしさから、ややぶっきらぼうになった口調で言った。

「あの歌。最後まで聴かせてくれよ」

 きょとんとしている敬子に、弘信は再度言った。敬子は人差し指で髪を弄ると、軽く笑みを浮かべる。

「仕方ないな」

 すっかり机を退けてステージを作ると、敬子はその特設ステージの真中に立った。ステージライト代わりの夕日を照り返す白い髪が、ガラスのように光を乱反射する。

 そっと両手を広げる。

 敬子の口から、あの歌が流れ始めた。明るく、そして少しだけ物悲しいメロディーが。

 外から騒がしい笑い声や、大声が聞こえてくる。それでも、敬子の歌声にはまるで適わなかった。敬子は右手を胸に当てると、一層感情を込めて歌い上げる。

 綺麗だ。と、素直に思った。

 夕日も、この教室も、外から聞こえてくる雑音も、全て敬子のために用意されたものだった。バラバラだった欠片が、歌声を通して不思議な調和を見せていく。

 現実なのか、幻想なのか。

 敬子がそっと息を吐き、歌い終わったことを告げた。その途端、現実が戻ってくる。危うい均衡を保っていたバラバラの欠片が、元の欠片に戻っていく。

「おしまい」

 敬子が、照れたような、笑っているような、形容し難い表情で言った。

 その顔を見た時、弘信は心の中で引っかかっていたものの正体にやっと気が付いた。

「俺――たぶんお前のこと好きだ」

 驚くほど真顔で、淡々と台詞が出てきた。いつもだったら笑う敬子も、真剣な顔でその言葉を聞いていた。

「そう」

 静かな返事だった。意外なことに、敬子の反応は驚くほど真摯だった。

 勢いに任せて何も考えずに言った言葉に、それほど真面目な反応を返されると思っていなかった弘信は、軽く焦るのを感じたが、なんとか抑えていた。

「いや、悪い……忘れてくれ」

「そう」

 弘信の言葉に、敬子は変わらない調子で呟いた。

 幻想的だった教室が、急に冷えていく感じがした。逃げ場所を求めるように窓の外に目をやると、もう暗くなり始めていた。敬子は鞄を掴む。

「じゃあ、帰るね」

「ああ、また明日」

 敬子の顔を見ることもできず、弘信は俯き加減に返事をした。

 教室のドアのところで振り返り、敬子が弘信を見る。

「今日は楽しかった」

 弘信の返事も待たず、敬子は駆け出して行った。

 そう言えば、初めて逢った時も、こんな唐突な会話だったな。と、弘信は冷え込んできた教室で軽く、そして乾いた笑いを漏らした。



「俺、明日オーディション受けに行く」

 唐突に達平が言ったのは、その日の演奏が終わった帰り道だった。

 白い息を吐きかけて手を温めていた弘信は、突然の出来事に一瞬返事に困ってしまった。

「明日って……急だな」

「日取り自体は、随分前からきまってたんだ。だけど、言うとお前絶対あれこれ言うだろ。だから黙ってた」

「人をお節介みたいに」

 心外だった。別に弘信だって好きで人の心配をしているわけではない。達平が心配ばかりかけるから、あれこれ言うのだ。

 表情に表れてしまったのか、達平が笑いながら手を振る。

「邪険にしたわけじゃなくてさ。ほら、お前にとっても大切な時期だし、俺のことで余計な考え事増やしたくなかったんだよ」

「それこそ余計なお世話だ」

 弘信は笑いながら達平を肘で小突いた。

 受験が近いと言うのも、どうにも実感の湧かないことだった。毎日、毎日、繰り返し勉強をする生活が、当たり前になっているからかもしれない。

 達平は軽く笑うと、ギターを掛け直して真顔になる。

「割と平気そうだな。受験って言うと、他の連中は結構参ってるみたいだけど」

 真顔になった達平に疑問を感じながらも、弘信も達平の調子に合わせた。

「慣れってやつだな」

「敬子の方はどうだよ、あれから」

 本題を切り出されたと、直感で感じた。

 弘信は自分が告白めいたことをした部分は伏せて、これまでの大体の経緯を話した。

 話を聞いていた達平は黙っていたが、話を聞き終えたところで溜息を吐いた。

「あいつ、中学の頃――」

 何かを言いかけ、軽く首を振る。弘信はなにも言わずに続きを待つ。

「無口だったし、他人とあんまり関わらないやつでさ。何を言われても言い返さないし、無視してるんだ。それが気に食わなかったんだろうな、当時の連中は」

 気を取り直したように喋る達平の口調は、懺悔にも聞こえた。

「担任が、髪の色を直してこないのに怒って、墨汁をぶっ掛けた。当然問題になったんだが……あいつは何も言わなかった。何も言わないで、俺達の方を、ただジッと、見てたんだ」

 吐き出すように喋り続ける。

「あいつは避難することもしなかった。あいつの親でさえも、何も言わなかった。ただ事件があった事実だけであいつは被害者になって、加害者ができたんだ」

 そこまで喋って息を吐くと、達平は軽く身震いした。

「千の非難の言葉より、あの目が痛かった。今でも、憶えてる」

「そうか」

 何も言えなかった。過去のことは、どうにもならない。当事者ではない弘信には、聞いてやることしかできない。

「聞かせてどうこうって話でもないんだが……俺には何もできなかった」

「そうか」

 達平の懺悔を、弘信は複雑な気持ちで聞いていた。表面的にしか、敬子のことは見えていない。分かり合えるかどうかもわからない。そもそも、自分のしたことが正しいのかさえも、闇の中だ。

 秋の冷たい風と、澄み切った夜空の星が、二人をそっと抱いていた。



 次の日。歌声に導かれるように、弘信は放課後の教室を訪れた。

 ドアを開けると、やはりそこで敬子は歌っていた。放課後の教室、そしてそこには敬子。不思議な安定が、そこにはあった。

 弘信の入室に気付いた敬子が、歌を止める。

「どうしたの?」

 弘信は後ろ手にドアを閉めると、机に腰掛けた。

「ちょっと話したくてな」

 飛び出しそうになる心臓を必死に抑え、やたらと乾く唇を舌で湿した。敬子の方は至って冷静な顔で、椅子に腰を降ろす。

「勝手に喋るけど、黙って聞いて欲しい。最後まで」

 弘信の言葉に、敬子が頷く。

 弘信は、軽く深呼吸をして喋り始めた。

「昨日、達平から昔のお前の話を聞いた。何でだか知らないけど、すごい嫌な気持ちになった」

 夜からずっと考えていた内容を、慎重に言葉を選びながら口にした。

「他人の俺が、どうこう言うことじゃないと思う。だけど、すごく嫌なんだ。お前が、髪とか、目とか、そんな下らないことでひどい扱いを受けるのは。不公平だろう。そんな馬鹿なことがあってたまるか。生まれつきで、人にあれこれ言われるなんて……そんな馬鹿なことがあってたまるか」

 吐き出すように、弘信は言った。本当に、心の中身を全部吐き出した。

 敬子は無表情なまま、指で髪を弄っていた。弘信が何も言わないので、敬子は口を開く。

「思った通り、君も馬鹿だね」

 内容とは裏腹に、優しい口調だった。

「はじめて、君を見た時から、達平と同じ馬鹿だな、って思った。変に子供っぽくて、そのくせ大人みたいで。でも、ありがとう。私なんかのために、一生懸命になってくれて」

 敬子は口元に微笑を浮かべていた。

「でもね、わかってると思う。別に私は自分のこと嫌いじゃないし、周りのことなんてどうでも良い。高校に入って、周りが無関心でいてくれて、正直、安心した」

 他人との関係に疲れた。境遇は違っても、思っていることは弘信と大体同じだった。似た考えを持っているから、弘信は敬子のことが気になったのかもしれない。

「でもね、ほら。見てごらん」

 敬子は窓の前で両手を広げた。誇らしげに。

 弘信が窓の外を見ると、目の前には黄昏の町並みがずっと続いていた。オレンジ色の光と、それが作り出す影。灰色の建物や、ちらほらと混ざる緑。

 燃えるような空に、雲が頼り無く浮かんでいる。それはまるで、窓枠に切り取られた巨匠か何かの名画のようだった。

 景色を真面目に見たことなんて無かった弘信は、その景色に驚いた。下らないと思っていた自分の住んでいる町は、こんなにも綺麗だった。

「視野が狭いよ。顔を上げてごらん。ほら、世界はこんなに綺麗だから」

 言い聞かせるような口調だった。

 弘信はこみ上げてくるものを、必死に押し留めた。生まれてこの方、何かを見て感動してことなんて無かったからだ。

 しばらくの間、二人は無言だった。

 時間だけがゆっくりと過ぎていき、黄昏の教室が薄闇に染まっていく。神秘的ですらあったあの町並みも、薄闇に包まれてどこか物悲しい、喪失感を漂わせていた。

「なぁ」

 弘信がやっと口を開いた。所在無さげに視線をさ迷わせていた敬子が、弘信をの方を見る。

「どうやったら、そんなに前向きになれるんだ」

 羨ましかった。後ろ向きの考えしかできない弘信は、前をしっかりと見て歩ける敬子が、とても羨ましかった。

「敷かれたレールの上でも、良いと思う」

 敬子はぽつりと言う。

「電車は、敷かれたレールの上しか走れないけど、すごく頑張ってる。自分にしかできない、自分のやれることを、精一杯やってる。だから、みんな必要としてる」

 敬子は弘信の方を真っ直ぐに見た。真紅の、真摯な瞳が弘信を見据える。弘信は目を逸らすことができなかった。

「大切なのは意思。敷かれたレールの上だろうと、何も無い道だろうと、踏み出すのは自分の足。他人の足じゃないから」

 そこまで言われて、弘信はやっと気が付いた。

 勘違いをしていた。押し付けられたものに何の意味も無いと口では言っておきながら、自分で何かをすることもできない。かと言って、押し付けられたものをこなすこともできない。

 たとえレールの上であろうと、真っ直ぐ前を見ることができる。前に進むことも、自分の意思で。

 そこまで考えたところで、弘信は思わず笑ってしまった。そんな自分の情けなさを敬子に看破されたことや、はっきりと言ってくれた敬子、そして自分自身が可笑しくて、笑ってしまった。

「どうしたの、突然笑い出して」

「いや、悪い。やっぱり、お前と話せて良かった」

 素直になるのが一番だと思った。

 外はすっかり暗くなっていて、電気をつけていない教室の中はかなり暗い。校庭の灯りに半分だけ照らされた敬子の顔は、やはりどこか神秘的だった。

 外から聞こえていた運動部の掛け声も、今では殆ど聞こえない。吹奏楽部の演奏も、いつのまにか終わっていた。

「帰ろうか、そろそろ」

 敬子が鞄を持ち上げながら言った。

「ああ」

 弘信も腰を上げる。

 窓の外をもう一度だけ見た。校庭を囲むように並んだ街灯が、ぼんやりと学校を照らしている。ぼんやりとした灯りは、すべてのものを幻想的に見せる力があるな、と思った。

「お前、この世界が好きなのか?」

 机を直している敬子の後姿に、弘信はそう尋ねた。

 敬子は振り返ると、両手を後ろで組んでにっこりと笑う。普段の表情からは想像もつかない、達平と同じタイプの、屈託の無い笑顔。

「大好き」

 はっきりと、誇らしそうに、敬子はそう断言した。



 昼休みになると、やはり弘信はやることが無い。鳥かごのような屋上で、パック入りの牛乳を、一人で啜っていた。

 そんな弘信の目の前に、ヤキソバパンが突き出される。顔を上げると、達平が両手一杯に調理パンを抱えながら立っていた。

「一個やるよ」

「サンキュ」

 弘信がパンを受け取ると、達平は弘信の隣に座って黙々とパンを頬張り始めた。夜は仲の良い二人だが、学校でこうして一緒に昼食と言うのは、珍しい。

「オーディション、落ちた」

 何気ない口調で、達平が切り出す。

「そうか」

「高校卒業したら、俺、家を出ようと思う。金も溜めてたし、部屋も見付けてあるんだ」

「そうか」

「家族には反対されてるけどさ。やるだけのことはやってから……いや、やりたいんだ」

「そうか」

 弘信は達平の肩に手を乗せた。震えるその肩は、思ったよりもずっと細く、頼り無かった。誰も応援してやることはできない。

 自分で、厳しい道を選んだ。そんな達平を励ますことは、弘信にはできない。

「敬子とは、どうなった」

 達平は無理矢理パンを口に詰め込んで、明るい声で言った。

「別に、どうもなってない」

 弘信が無機質な声で言うと、達平は軽く笑った。

「そっか。でも、突然だったな。こんな中途半端な時期に転校なんて」

 そう。敬子はもういない。

 まるで敬子の存在自体が夢か幻であったように、唐突に、完全に、彼女は弘信の目の前から消え失せた。さよならも何も言わずに、『また明日』と言って。

 学校に来て、彼女が転校してことを知らされても、弘信には実感の無い出来事だった。唐突に現れ、唐突にいなくなる。それが敬子だったからだ。

 敬子がいなくなっても、教室はいつもと全く変わらない。敬子が転校したと知らせた分だけ、少し遅れて授業が始まっただけだった。鉄の秩序は、一人がいなくなったくらいでは崩れない。

「何が正しいのかなんて、誰にもわかんねーんだ。前に進むしかねーよ。俺達みたいなガキは」

 達平は苦笑しながら呟く。弘信は軽く頷き、空を仰いだ。

「人って、少しずつ誤解しながら、少しずつお互いを理解していくんだよな。それは昔から当たり前のことだったのに、大きくなるにつれて、『当たり前』は少しずつ変わっていく。岡田のこともそうだ。どうして人は簡単に誤解するのに、干渉しようとしないんだろう」

 ささやくように吐露する弘信に、達平はパンを少しだけ齧って、同じように空を仰いで見せた。

「不器用なんだよ。皆も、お前も、俺も、岡田も」

 弘信は苦笑する。

「そうだな」

 誰とも無しに呟き、弘信は飲み終えた牛乳パックを握り潰した。

「俺、大学行ってやれること見付けるよ」

 弘信が言うと、達平が意外そうに目を丸くする。

「どうしたんだよ。突然」

「なんでだろうな。不思議なことでもないのに、理由がわからない」

 それでも、弘信の中の答えは一つだった。

「世界がこんなに綺麗だから」

 鳥かごの中で、弘信は空に向かって手を伸ばした。雲一つ無い、彼女の大嫌いな晴天が、どこまでも続いていた。

 弘信が前向きに生きる事は、彼女が確かに存在していたことの証明になるだろうか。その答えは、まだしばらく出ない。

 それでも岡田敬子という放課後のローレライは確かに居て、歌に引き寄せられた一人の男の人生を変えた。

 最後まで読んでいただき、有難う御座いました。

 ホワイト、如何でしたか?

 岡田敬子の病気は実際にあり、『アルビノ』と呼ばれています。ただ、彼女がアルビノであると特に意識して書いたわけではありません。

 『当たり前』とはどういうことなのか、少しでも感じて頂けたら幸いです。

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[一言] 初めまして☆最後まで読ませて頂きました★キャラクターの個性が豊かで良かったと思います★敬子サンによって変わっていく主人公の感じがよく出ていたと思います★個人的には達平サンが好きです(笑)
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