4 少年と才女
才女ってのは、ああいう人をいうんだろうな、と思う。
成績優秀で、やること全てに一切のムダがないようにみえる、ちょっと無口な女子、庭月小楯。
勉強なんか留年しない程度、毎日遊ぶことしか考えてないような俺とは、あんま縁がないような彼女と、実は最近ちょっと仲がいい。
キッカケは、校舎の屋上からとびおりかけていた庭月さんを、俺が止めたこと。
別に、いい人ぶりたいワケじゃなくて、知ってるヤツが自殺なんて、後味悪いし、たまにしか話さなくても、これから友達になることもあるかも知れないしさ。
それに、家族とか友達とか、絶対に悲しい思いをするヤツが出てくる。
そんなんヤだしね。
でまあ、ちょっと話してみたら、思ったより普通のコで、だんだん話す機会も増えていった。
もともと、頭がいい人って以外になんもわかんなかった庭月さんには、興味があった。
どんな話をするんだろうとか、何考えてるのかなって。
んで、できれば仲良くなって、テスト前は勉強教えてもらえたりしたらうれしいなー、とか。
勉強教えてもらえるかは別として、前より仲良くはなれた。
俺と話すようになってから、気のせいか庭月さんは周りのヤツらとも少しうちとけてきたように見える。
見た目も、変わった。
ただひたすら地味だったのが、少し女の子らしい感じになった。
髪を下ろしてみたり、前髪を作ってみたり。
ハデになったわけじゃないけど、誰が見てもわかる変化。
その、正直まえよりカワイくなっちゃった庭月さんが、一番よく話しかけるのは何をかくそうこの俺。
ホレちゃったか?俺モテちゃってるのか?とか、ちょっと浮かれた悩みをかかえつつ、友達として付き合っている。
ちっと自意識カジョーかも?
まあ、モテちゃいないのかもしれんけど、新しく友達が増えたのは確か。
◆
「あれ?庭月さん珍しくね?」
陽が傾きかけた教室に、彼女がいるのは珍しい。
授業が終われば、部活動をしているわけでもない彼女は、いつもすぐ帰ってしまうのに。
それは、声をかけた八敷阿輝矢とて同じことだが、帰る理由はそれぞれ違った。
ただ、今日のアキヤは友人とダラダラしゃべっているうち、いつのまにか時間が経ってしまっただけ。
「八敷くん、私がなぜこんな時間まで残ってるか、本当にわからない?」
「えっ?なんで?」
「そうだよね、ホームルームの時間にあれっだけ大騒ぎしてたら、先生の話なんか聞こえてないよね。」
庭月の冷ややかな視線は、声をかけてきたアキヤを明らかに責めている。
もちろん本気ではないだろうが。
「あなた達がトイレにおちた上ばきを投げつけ合って大騒ぎしてる間に、あっまっりっにっもっ!話が進まないから!私が体育祭の実行委員にされちゃったの!ミーティングしてたの!!」
腰に手をあててお説教する彼女。
「うへ。」
ふざけた声を出しながら首をすくめるアキヤの横で、一緒に話していた友人、鴨井が笑っている。
「ははっ、ホラ八敷ー、庭月さんにメーワクかけたんだからちゃんとあやまれー」
他人事のような物言いに、庭月がキッと鴨井をにらむ。
「鴨井くんも、一緒にさわいでたでしょ。」
ちょっぴり低い声でイカクされ、鴨井のほうが先に謝った。
「スンマセン・・・庭月先生。」
先生、とはもちろん冗談で、アキヤもそれに乗っかる。
「せんせーごめんなさーい。」
「もう!またふざける!・・・いいけど、ふふ。」
あきれながらそれを許す庭月だが、それはアキヤと仲良くなる以前の彼女には見られなかった寛容さ。
冗談を言っても眉をひそめるだけで取り合わないような、年に似合わないその性質は、今ではだいぶ変化した。
おかげで、こんな言葉にも明るく応じることができる。
「じゃさ、おわびに俺たちナイスガイ二人が途中まで帰り送ってやっから。」
言いながらアキヤは、ピッと立てた親指で自分の顔をさして、”俺イケメン!”アピールをした。
「ナイスガイって・・・」
鴨井は引きぎみだ。
しかし、庭月を送っていくことに異存はないらしい。
そんな二人に、あくまでも上から、高飛車に、庭月は言った。
「じゃ、そうしてくださるかしら?」
その響きはお嬢様のように品よく、けれど女王様のように威圧的。
なんとなく、男二人は軽い敗北感を味わった。
(続)