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少年と天使  作者: narrow
27/31

続き

    ◆

 アキヤは思った。

 これは、いつも見ているあの“オーラ”だ、と。

 だが、いつもならヒトの周りにまとわりつくソレが、ソレだけで空間をただよっているのを見るのは初めてだった。

 初めてこの目で見たぜ、重苦しい空気ってヤツを。

 なんてな。

 とか思いながら、どんどんソレが濃くなっていく中を、彼は進んだ。

 この先には、何があるんだろう。

 これって絶対“悪いモン”だよな。

 殺人犯とかいたりして。

 そうならダッシュでにげてツーホーだ。

 ケンカに自信があるわけでもない彼は、少し緊張しながら自転車のペダルをふみこむ。

 何か悪い考えを持った誰か、が、この先にいるのは、ほとんど確信していた。

 今までの経験もある。

 それでも進むのは、キケンなことなのだろう。

 でも、行って確かめたかった。

 何もなければ安心できるし、ソレがこれから起こることなら、できれば止めたいのだ。

 誰かが困るのも、悲しむのもアキヤはキライだったし、悪いことをしたその本人が傷つくことだってある。

 なら、そんなことは初めからないほうが絶対にいい。

 だから、ツーホーは、本当は彼にとって最悪パターンだった。

 何かしようとしてんなら、声かけられて、ビビって逃げて、そのまま忘れてくれりゃいいな、と思っていた。

 ヘンタイか、おっそろしいヤンキーでもいるんじゃないかと思ったのに、たどり着いた先に見たのは、あたりが薄暗くなるほどのおどろおどろしい雰囲気に包まれた、一般女性の集団だった。

 10代〜20代の、年齢も見た目もまったく統一性のない女たちが、ごちゃっと集まって、何か囲んでいた。

 中に何があるのかは、ここからではよく見えない。

 ふと、何だか生臭い風が吹き過ぎて行き、嫌な感じが強まった。

 犬、とか、ネコ?

 ・・・を、どうすんだよ。

 ギャクタイ。

 ドーブツギャクタイ友の会。ぅぇ。

 胸が悪くなる考えを、フザケた自問自答でマイルドにしてみる。

 止めよう、とにかく止めよう。

 そんで医者・・・か、お墓。

 もう声もしないんだから、きっとお墓のほうだな。

 ・・・ごめん、ワンコかニャンコ。

 勝手に想像して勝手に心でわびると、アキヤは勇気を出して声をかけた。

 女のヒト相手なら、そんなヒドイことにはならないだろう、と甘く見ていた。

 「ぁのー・・・何、してんスか?」

 甘かった。

 振り返った女のコは、完全に目がイッっちゃっていた。

 うつろに見開かれた、おイカレになられた方々特有の目つき。

 「邪魔スんジゃ、ネーよ。」

 寝言のように不明瞭な発音がまた、不気味だった。

 彼女に反応して、数人がアキヤのほうを見た。

 みんな、同じだった。

 目が・・・

 「やべぇ」

 小さくつぶやくと、アキヤはチャリごと体の向きを変えようとした。

 彼の腕を、きゃしゃな手が予想外に強い力でつかんだ。

 ダッシュでツーホー。

 ダッシュでツーホー。

 ダッシュでツーホー。

 俺はとにかく逃げなきゃいけないんだー!

 十人以上は居るその集団が、全員マトモじゃないとわかり、彼はパニックにおちいっていた。

 ぜってー 一人じゃムリ。

 相手は女のコだけど、今は俺のがヤバい。

 「放せよっ!」

 この黒いオーラを、自分が何とかできればきっと逃げなくて済むのに。

 女のコに、こんなことしなくてすむのに。

 自分の腕をつかむ手を、確実に振りほどくため、彼女にケガをさせるかも知れないと思いながらも、少し強めに振り払った。

 同時に、その場で光がはじけた。

 すぐ後ろでフラッシュをたかれたように、あたりが一瞬だけ明るくなった。

 すぐに逃げなければいけないと思っていたのに、驚いた彼は一時停止してしまっていた。

 2、3秒。

 目の前の女のコに、変化が起こった。

 何かに気づいたように、ピクリと表情を動かすと、小さくあたりをうかがい、へ?、と言った。

 「あれぇ?ぇ、あれー?」

 一人で混乱する様子は、どこにでもいる“ちょっとやらかしちゃった直後の女の子”だった。

 まるで、自分がなぜここにいるかわからない、とでもいいたげで、とても芝居には見えない。

 それは、呪縛がとけた瞬間に見えた。

 アキヤがそう考えたとき、自分が今までいた人だかりのほうを何気なく振り返った彼女が、息をのんだ。

 「っひ!ぃやーぁあああああああ!」

 突然悲鳴をあげて、アキヤの横を走り去っていく。

 何だよ、逃げてーのは俺だよ。

 我に帰り、とりあえず自分も逃げようとして、アキヤは思い直した。

 まて俺。

 ちょっとまて。

 今の・・・できたんじゃね?

 彼は思った。

 自分はさっき、おイカレになっていた人を、正気に戻してやれたのではないか、と。

 そういえば、前にも似たような、フシギなコトをやってのけた気がする。

 そのはずなのだが、何だかよく思い出せない。

 ・・・最近思い出せないこと多くないか?俺。

 いや、今はそんなことはいい。

 何とかできるならやってみよう。

 

 だよな。

 

 と、まとまった考えの最後で、それに答えるようなセリフが浮かんだとき、なんだかそれは自分じゃない誰かの後押しに感じた。

 が、そんなワケないか、とすぐに忘れた。

 とりあえず、他に何をすればいいか思いつかないので、また声をかけることにした。

 「なあ、あんたたち何してんの?」

 少し大きめの声をだして、注意している感じを出してみる。

 悲鳴を聞いても動じなかった女たちが、チラチラとアキヤのほうを向き始めた。

 「何か、マズいコトしてんじゃないの?」

 一歩、近づいてみる。

 人だかりが、うごめいた。

 「なあ、何してんのって・・・きいてんだぁっ!」

 そんなつもりはなかったのに、怒鳴った自分の声に驚いた。

 その瞬間また現れた、さっきより大きな光にも。

 二度目の今度は、それが少し青みがかっていることに気づく余裕がある。

 その色は、いつもひっかかるあの空の青とは違った。

 ほんの少しの時間、静寂がおりる。

 それから、小さくざわめき始める彼女たち。

 また、悲鳴が上がった。

 あの集まりの中心に、何があるというのだろう。

 その悲鳴は、一瞬にして全員に感染した。

 耳がちぎれとびそうなくらいの大音量をひとしきり発した後、彼女たちはいっせいに逃げ出した。

 台風の中に、いきなり放り込まれたようだった。

 悲鳴と、走る足音。

 ぶつかり合いながら走る女の群れが自分を巻き込みながら、すごい勢いで通り過ぎていく。

 身体を固くしてそれに耐えると、ようやくそこに何があったのか確認することができた。

(続)

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