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少年と天使  作者: narrow
21/31

続き 2

    ◆

 スズキが、懐かしんでいるような、そして少しだけ悲しそうな眼で語り終えた。

 「その天使、覚えてるな。」

 黒い男が、悪びれた風もなくつぶやく。

 ほとんど色のないその瞳が青い空をみつめている。

 この高い青い空に、記憶の中の何かがあるとでもいうように。

 「うん、きみが痛めつけてくれたんだったよね。」

 スズキは、困ったような微笑をうかべた。

 「で?その子供が、あのガキなんだろう?」

 スズキが“守っている”という“ガキ”が、アキヤだった。

 「そう、アキヤのココロで眠りについたのが、僕の友達だった“天使”さ。ぼくら“天使”は、君たちみたいに片っ端から共食いはしない。自我を持った、気の合う同種は友達になることだってあるんだよ。」

 寂しそうだが、恨んでいる口調でないのは、この悲劇が、本人が死を選ぼうとした結果であることを、よく承知していたからだ。

 黒い男が彼を叩きのめしたことがきっかけだったとはいえ、彼の友達は助かる道を自ら捨てたのだ。

 スズキは、友達がぼろぼろになって自分達の町へ帰ってきたとき、人を守れなかったこと、”悪魔”との戦いに負けたことを聞いた。

 ただならぬ様子に、彼の心の状態を知った。

 「…ごめんな」

 話の最後にそう言って、彼はいつもと違う顔で笑った。

 その表情は、彼の心の傷がとても深いこと、友達である自分にも、容易に解決できるような状態でないことを物語っていた。

 スズキは何も言えず、ただ心で祈りながら友達が立ち直るのを待った。

 そして、友達は消えてしまった。

 スズキは、友達が消えてしまった町にひとり残った。

 せめて、彼の守りたかった町を自分が守ろう、そう思った。

 10年後、その町で彼はアキヤと偶然出会い、その心に間違えようのない、いなくなった友達を感じた。

 理性も何もかも吹き飛んで、彼は少年の心を勝手に探り、遠い昔の記憶を見つけだす。

 全てを知り、彼は少年を守護しようと決めた。

 友達の安らかなる眠りと、最期に友達が信じたこの少年を、命に代えても守り抜くと。

 なぜなら、祈りは、通じない。

 神様なんていないのだ。

 当然本物の天使も、悪魔も。

 正しいものが、悪から守られるとは限らない。

 信じても、救われるとは限らない。

 確かなのは、今ここにあるこの気持ち。

 「これが、アキヤが“何”なのか、っていうきみの質問への答え。ほら、長くなっちゃったでしょ?」

 本当は、まだ話したいことがある。

 あのころから、いいや、もっとずっと前からきみにききたいことが。

 口には出さず、スズキは一人心の中でつぶやく。

 だけど、今は言うわけにはいかない。

 それこそが、僕がこの町にきた理由、とどまる理由。

 僕はきみを、見定めたいんだ。

 消すべきただの悪魔なのか、信じる価値ある存在なのか。

 「長いわりに、つまらない話だな」

 スズキの葛藤を知らない黒い男は、相手を思いやることもなくストレートに感想を吐き出す。

 「何とでも言えよ。聞きたがったのはきみだ。

 あ、それから、今回は何もなかったから許すけど、次アキヤに何かしたら、ただじゃおかないからな!」

 今となっては、アキヤも大切な友達だ。

 彼と、彼の中に眠るかつての友。

 もしそれを同時に失ってしまったら、奪われてしまったなら、そのときこそきっと自分は黙ってはいられないだろう。

 本気でそう思う彼は、真顔で黒い男に言う。

 おそらく自分より、ずっと大きな力を持つ魔物に。

 「ただじゃおかないだと?俺とお前じゃ勝負にならんぞ。

 ま、あのガキよりお前のほうが観察対象としちゃ面白い。

 何せ、天敵のハズの“悪魔”とこうして平気でダベってられるんだからな。

 ・・・ふん、あんな面倒くさいニンゲン、お前にくれてやる。」

 あまり人の多くない、小さな通りの隅。

 背を向けた、黒い男の影が遠くなる。

 それを見送りながら、一人になったスズキは、決意を新たにするようにつぶやいた。

 「そう…守らなきゃ。神様なんていないから、僕は…僕が。」

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