続き
「だから、ここに来たんです。このままじゃ私・・・」
「殺してやりたい」
びっくりするほど冷たい声で、スズキさんはそう言った。
「え・・・?」
スズキさんは続けた。
「私がこんなに悩んでいるのに、こんなことになったのは
あの娘のせいなのに、あの娘は幸せでいる。
殺してやりたい、いや、いっそ死んで呪ってやろうか?」
無表情のスズキさんが恐ろしい言葉を口にする。
でも、これは・・・
「・・・・そうおもったでしょう?」
冷たい声。私は目をそらして、・・・何も言えなかった。
「できるとしたら?」
私は思わずスズキさんの顔をうかがった。
今にも泣き出しそうな、悲しそうな表情をしていた。
「だって・・・だってこんなに、悲しい思いをしたんだから」
言って、閉じた目から涙をこぼした。
瞬間、周囲の景色が揺らいだ気がした。
これは幻だろうか、泣いているのはスズキさんじゃなく、私?
じゃ、見ている私は、だれ?まるで夢の中のよう。
わからない・・・わからない。
悲しくて辛くて・・・そうだ、思い出した。
あの娘を殺すか、私が死ぬか
そう思っていたんだ。
こんなに、辛いのなら。
うつろな目で、私はゆっくりと歩き出す。
もうここはゲームショップではなくなっていた。
薄暗く、何もない場所。
遠くに光が見える。
あれは、あの娘だ。
私の親友・・・だったあの娘。
今はただ、憎い。
いつのまにか私の手にはロープのようなものが握られていた。
そっと近づいて、後ろからすばやくそれを首にまわし、締め上
げた。
力いっぱい締めた。死ね・・・死ね!
「・・・!・・・!!」
息ができない中、苦しみながら彼女は私の名前をよんでいる
ようだった。
抵抗すればするほど、私は強くしめつけた。
だんだんと抵抗が弱々しくなり、やがて完全に動きが止まる頃には、私も疲れ果てていた。
手を離すと、首にロープのようなものを巻きつけたまま、死体はくずれおちた。
よほど苦しかったのか、死んだ彼女の目からは涙が流れてい
た。今はもう動かない、泣きもしない。
痛みも苦しみもない世界へ行ったのだ。
「・・・バイバイ」
なんとなく、つぶやいた。
それも聞こえてなどいないだろう。
胸がスッとした、はずだった。
なのに、何も感じない。
呆然としている自分。
実感がわかない?目の前の彼女は死んでいる。
私の好になったあの人は、もう誰のものでもない、一人だ。
だけどそれは、・・・私も同じではないのか?
この孤独感。一番大切な親友に裏切られたあのときからの。
大切なトモダチ。信じていた。だから、辛かった。
涙がこぼれた。
あんなに仲良しだったのに。
笑った彼女の顔、声。
真剣に私の話を聞く時のまなざし。
目の前には、動かなくなった彼女。
冷たい体、冷えた涙。
違う・・・こんなことがしたかったんじゃない!
私は・・・
「ごめん・・・・ごめ・・・なさい!」
思い切り泣いた。
私の死体の傍らで。
・・・・まただ・・・おかしい。では泣いているのは誰?
見ている私は誰?
春風のような声が聞こえた。
「君だよ。泣いているのは、彼女。もう、わかるだろう?」
泣いていたのは、彼女。死んでいるのは、私。
棺の中、花にかこまれた私のそばで、彼女は泣いていた。
いつまでもいつまでも、泣いていた。
全部、思い出した。
「そう、君は許したかったんだ。でも、できなかった。だから…」
私は、死んで楽になることを選んだんだ。
よかった、彼女は死んでいない。
そんなに、泣かないで・・・。
私、あんたを殺したいって思っちゃったんだよ?
ずっとあきらめずに、信じてくれてたのに。
本当に心配してくれたのに、それもイヤガラセとしか思えな
かった。
もう泣かないで。
死んじゃったのは間違ってたけど、
あんたを殺したんじゃなくてよかったって思うよ。
今度こそ、胸が、スッとした。
もう憎いなんて思っていない。
なんだかカラダが軽い。
感覚が、なくなっていくよう・・・
私は、いつのまにかもとのゲ−ムショップにいた。
スズキさんだ・・・笑ってる。
「あなたは、スズキさんは・・・」
天使なんですか?
あの黒い人は、悪魔なんですか・・?
からだ全体が心地よいだるさで包まれ、もう しゃべることも
できない。
まるで空気にとけていくような気がする。
そうしてゆっくりと、残留思念である彼女は、ゲームショップの
店員、スズキの前から消えていった。
最後の瞬間、微笑むスズキの背に輝く大きな翼を見た気が
した。
「ゆっくり、おやすみ」
その声に、彼女の最後のかけらが溶けた。