続き 3
2ヶ月後・・・
「おめでとう!とうとう10kg達成かぁ!やっと告白できるね!」
うれしそうにスズキが笑う。
しかしりあんは言い放った。
「スズキさん、あたし、まだイケそうな気がする!」
「・・・え?」
結局、もうちょっともうちょっと、とガンバって、彼女のダイエットは約一年続いた。
そして、なんと15kgもの減量に成功した彼女は、少しぽっちゃり目の、けれどかわいらしい女の子に変身していた。
ヤセただけではなく、自然に見えて可愛いメイクや、自分に似合うヘアスタイル、カラーもあれこれと試行錯誤し、周りの意見をきき、時にスズキにも相談しながら、文字通りの変身を果たしたのだ。
「明日、ちょうど一年だから、もう一回チャレンジしてみようと思う。」
いつものコンビニで清算を済ませながら、りあんは、少し緊張した表情で言った。
「絶対、大丈夫。」
スズキは微笑んだが、彼でなくとも、きっと誰もがそう保証しただろう。
◆
「で、アマちゃんは鴨井なんかと付き合ってるワケよ。」
長かった話を、八敷阿輝矢がしめくくった。
駅近くの、ほどよく人が少ない広場で男女4人の学生が集まっている。
それぞれ手にジュースのパックやら、お菓子やらを持って、話し込んでいるところだった。
内容は、といえば。
今ではすっかり男子からの人気が高くなった、癒されポッチャリ系美少女、天王りあんと、背だけは高いが他のあらゆるパラメータ全てが平均より若干低めのアキヤの親友、鴨井亘がなぜ付き合ってるのか、という話だ。
「鴨井なんか、じゃないよー。あたしは、あーくんがいいんだもん。」
天王りあんは、大好きな彼の腕に、ぷにぷにした腕をからませて言った。
「へへ、照れるし。でも俺は、もうちょっと太ってもいいかなって思うな。あんまカワイイとこっちがフラれそうでさ。」
そーんなことないよーう、なんて言いながら鴨井をこれもまたやわらかそうな肩で押すりあん。
笑う鴨井。
「うーん、素直に悔しい。ここは俺たちもこう、イチャつきませんか庭月さん。」
言葉どおりくやしそうに二人を見ながら、アキヤは隣の庭月小楯に話しかける。
「それって、私が恥かく以外になんの効果があるの?」
迷惑そうに、庭月。
「俺が嬉しい、とか?ははっ」
「ストレートなバカだよね、八敷くんて。」
笑うアキヤに、表情を変えずにそう答えた庭月だが、若干・・・でもなく、その笑顔が実物よりカッコ良く見えていたりした。
「でも、それからすぐ、会えなくなっちゃったと思ってたら、ゲーム屋さんにいたんだねえ、スズキさん。」
話の途中、コンビニがでてきた所で、そのスズキが共通の知人だとわかった。
「つーか、ここはちっとお礼参りってヤツに行った方がいんじゃね?鴨井。」
「八敷くん、お礼参りだと意味が違ってくると思う。」
庭月ツッコむが意味のわかってないアキヤ、笑顔で少し首をかしげスルー。
「あー、そうだねぇ。告白、成功したって報告もできなかったんだぁ。」
りあんが賛同すると、鴨井は特に意見もないようで、それに従った。
◆
「ぁ・・・アキヤ・・・あれ?りあんちゃん!」
商品を棚にならべていたスズキは、数歩離れたところからアキヤたちを見つけると、声をかけた。
「スズキさぁーん!久しぶりぃ!」
りあんのはしゃいだ声。
「どしたの、ゲームとかそんなにしない人でしょ?」
スズキは再会の喜びよりも、なじみの面々のなかに彼女を見つけた驚きのほうが勝っているようだった。
「お礼いいにきたぁ。ダイエット応援してくれて、ありがとー!あのね、スズキさんのおかげであたし、今あーくんと付き合ってるんだぁ。」
ニコニコしながら、りあんが言う。
「あーくん、っていうの?彼氏。そっかー、よかったねぇ。」
あやすように、スズキ。
「ね、あーくんもアリガトって、来てきて。」
手首から先だけをちょこちょこ動かして、小さくりあんが手招きした。
ん、と返事をして近づいてきた相手を見て、スズキは驚く。
「あれ?連れてきてるの?・・・ぇ、え?え?鴨井くんなのー?!」
「あはは、あー、そのセツはぁ、うちのりあんがお世話になってぇ、でへへ。」
だらしなく笑う鴨井は、やっぱり全国男子平均レベルより若干カッコ悪かった。
「りあんちゃんがフラれたって言うから・・・僕、もっとカッコいい人かと思ってた・・・ぇー、鴨井くんかぁ、意外ぃ・・・。」
「カッコいいよぉ、あーくんは!ね、あーくん!」
「ぃゃ、どうだろ、ね?」
気弱に、あーくんこと鴨井ははぐらかした。
身の程、というものを知っている男だった。
「とにかく、スズキさんはあたしたちのキューピッドなんだよ?あたし、超シアワセだから、アリガトぉ。」
可愛らしく、りあんは笑い、だらしなく、鴨井も笑った。
「キューピッド・・・うーん、キモいっ」
しみじみ言って、アキヤもまた笑った。
「そうかもね、あはは」
言われた本人も、似合わないと思ったのか、笑っている。
「でも、それって僕の理想だなー、恋をかなえる天使。そうなりたいって、ずっと思ってた気がするよ。」
夢見がちな言葉を、どこか寂しそうに吐き出す。
その場の誰もが、不釣り合いなその表情の変化に気づかない。
あまりに、かすかで。
「だから、そうだってぇー、夢かなったじゃんスズキさん、あはは。」
軽い調子で鴨井が言葉をかける。
「天使って、だからキメぇよスズキ!」
わいわい盛り上がっていると、水を差された。
「スーズーキーさんっ!あんたまたそうやってサボって!」
年下だけど、バイトではスズキの先輩、堀がやってきていた。
「ほらっ、これ!ちゃんと陳列オネガイしますよ?ったぁくもーっ。」
もってきたカゴごと沢山のCDをスズキの足元に置くと、ダシダシと足音荒く去っていった。
「はーい・・・ごめんなさぁーい」
反省ゼロでスズキがその後姿に形式的に謝った。
「また、って、ここでもサボってるんだ・・・スズキさん」
ややあきれつつ出てきた、りあんのセリフは最後に(汗)がついているように聞こえた。
「まあね、ってかさ、あんなエラそーにしてるけど、堀くんて、彼女スッゴい怖くて、頭あがんないらしーよ。電話とかしてるとき、たまに別人だもん。超よわよわ。」
当然のお説教なのに、気に入らないのかスズキは堀の個人的な事情をみんなにバラす。
「ほー、あの堀が。」
「えマジ?彼女いたんだ、コワいのに。」
「そういうことにちゃんと興味あるんだ、堀さん。」
「え、でもけっこうカッコよくない?あの人」
「えー僕パス。キツネ目でコワいからヤ。」
「だからテメーにきいてねえよ」
「あやっぱスズキさんて・・・」
と、またしょうこりもなくしゃべっている彼らは、引き返してきた気配にきづかない。
ど す っ
「ぎゃはっ!」
悲鳴をあげるスズキの背中には、堀のスニーカーがめりこんでいた。
「人の、プライベートを、垂れ流すなっていうんだ貴様らはぁああ!」
ぐりぐり足をねじってから、チカラをこめて押し出す。
「どぅわぁっ!!」
つんのめったスズキは棚につっこみ、CDが土砂くずれのごとく彼らを襲った。
「あいたぃたいたいだだだだっ!」
「きゃああっ」
「いてててっ」
がらがらがしゃがしゃとなだれてきたCDが全て落ちきると、もう堀の姿はなかった。
蹴るだけ蹴って、さっさと持ち場へ戻ったのである。
「・・・ぁんのやろーっ、俺らは悪くねえだろがっ!」
キレるアキヤ。
「はは、みんな大丈夫?」
周りを確認する鴨井。
「うー、ごめぇん、みんな・・・」
ぺたりと座りこんだまま、スズキが謝った。
「手伝うから、さっさと片付けよ、また怒られちゃうよ。」
言って、はは・・・と笑う鴨井を、見つめるりあん。
やっぱり、あーくんは世界イチ優しい、そう思いながら。
彼女のシアワセそうな視線を、スズキは微笑ましく見守り、祈る。
きみの幸せが、どうかずっと続きますように。