続き 2
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とりあえず、間食をなくすことにした。
よって、スズキのいるコンビニに行く機会もないまま、一週間くらいはがんばれた。
その間も、がんばってるねー、とか、えらいね、とかいいながらも、周りの女の子たちはちょこちょこお菓子をすすめてくる。
だんだん空腹に耐えられなくなり、少しづつそれに手をつけてしまうようになっていた。
やっぱり、お菓子はやめられないかも。
ダイエットするって、言ったのになあ。
スズキの笑顔を思うと、なんとなくうしろめたい。
罪悪感・・・。
こんなの、よくないよね。
またくじけそう、と思ってから、彼の言葉を思い出した。
僕がきみを助ける、彼はそう言った。
なら、頼ってもいいハズ。
りあんは、スズキのいるコンビニへ向かった。
「スズキさーん、叱ってくださぁい・・・。」
誘惑に負けてお菓子をつまんでしまった事を白状すると、スズキは怒るでもなく言った。
「そんなにガマンしちゃダメだよー、あはは。モデルになろうってワケじゃないでしょ?極端すぎ。」
「え・・・?」
「僕、助けるって言ったでしょ?みんなからダイエットの事いろいろ聞いて、僕なりに分析したんだけどさ。がんばりすぎると、途中でザセツしちゃうんだって。だからね・・・」
間食は、全くしないのでなく、減らすこと。
油モノを控えるのはいいけど、全く抜くとかえって体によくない上に、余計コッテリしたものが欲しくなるので、それもほどほどにすること。
なるべく体をうごかす、夕飯を軽めにしてみること・・・などなど。
「すごい・・・超くわしい・・・」
「ふふーん、すごいでしょ?仕事の時間もけずってガンバっちゃった!」
胸を張るスズキだが、自分のためとはいえこれはツッコまねばなるまい。
「ダメくない?それ・・・」
「そう?」
何がダメなの、といった表情を返されると、これ以上追求もできなかった。
「それにしてもー・・・、エラいね。ちゃんと頑張ってたんだ?」
この前のように、兄の表情でスズキがりあんの頭をなでた。
「でも、結局ガマンできなかったし・・・」
落ち込むりあん。
「ガンバりすぎたから、ガマンが続かなくなっちゃっただけ。きみは、エラいよ。そんなにガンバらなくても大丈夫、だから、あきらめないで。ね?」
頑張らなくていい、と言われると少しラクになり、明日からも続けていける気がした。
不安になったら、いつでも話をきくから。
そう言って、スズキは笑った。
本当のお兄ちゃんみたいに。
時々スズキにはげましてもらいながら、りあんのささやかな努力は続いた。
一ヶ月もすると、1kgほど体重が減った。
「ねえ、もしかしてやせた?」
約束どおり、スズキは気づいた。
「え、わかる?!」
「だって、なんだか嬉しそうだから。」
それこそ嬉しそうに笑うスズキ。
気づいてもらえると思うと、少しやりがいが出てきた。
もっとヤセちゃおうかな、と思うりあん。
ジュースやコーラばかり飲んでいたのを、ハーブティーにかえてみたり、ヒマな時間で少し散歩をしたり、ヤセるための行動が、なんだか楽しい。
楽しいと思うと、続くものだ。
3kgも落ちると、なんとなく見た目が変わってきた気がした。
自分に自信がついてくる感じがする。
「あれ、お化粧してるの?」
試してみたほんの少しだけのメイクにも、スズキはすぐに気づいてくれた。
少し驚いた彼は、すぐに笑顔にかわると、似合うよ、と、ほめてくれた。
ダイエットは順調、友達に教わって、メイクも少しづつ上達していった。
そうやって、半年もすると8kgほどやせた。
「ヤセたら、目もおっきくなったんだよ?」
りあんは、いつものコンビニでフルーツミックスティーを買う。
「てゆーかさあ。」
バーコードを機械で読み取り、レジのキーを押しながらスズキが答える。
「変わりすぎ。ヘアスタイルからメイクから・・・すっかり可愛くなったから言わせてもらうけど、これ以上はヤセなくてもいんじゃない?それにメイクなんかも必要ないからやめなさい。」
優しいお兄ちゃんは、説教兄貴に変身した。
「だって、まだデブだもん!」
ふう、とスズキがタメイキをつく。
確かに彼女はまだまだ太っているが、それでもずいぶん変われたと、彼は思っていたから。
「だいじょぶだって。さっさと告白してスッキリしちゃいなよ。」
相手がどんな男か知らないが、こんなにガンバった彼女がフラれるとは思えない。
いいや、そんな事になったら自分がその相手に一言いってやる。
お兄さんはおせっかいだった。
「ダメ!10kgやせて可愛くなってからって、決めたから。」
フラれたからといって、すぐに忘れることもできず、ずっと、鴨井への想いを抱いたまま、彼女は頑張ってきた。
すこしずつ体重がおちてくると、もう一度告白してみようかという考えが出てきた。
見た目が変わってきて、希望がわいたのだ。
告白のための目標として、元の体重から10kg減らすことに決めた。
スズキはじゅうぶん可愛いというが、今はまだまだ太って見えるから、ダイエットをやめるわけにはいかない。
今の時点ではまだ、“可愛いデブ”なのである。
(続)




