続き 2
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「はよーッス、庭月さん!」
翌朝、アキヤは何もなかったかのように、ガンバって、庭月に声をかけてみる。
少し驚いたような顔の庭月に、やはり無かった事にはならないのか、と、あわてた。
「あ、あー、昨日、何か、ごめ」
言い終わらないうちに、意外なことに彼女のほうから言葉をかぶせてきた。
「八敷君、ちょっと聞いて欲しいんだけど。」
八敷が気にしていないのなら、彼女としても責める気はなかったから。
若干ガッカリさせられはしたが、それだけで、自分たちの関係が昨日以前と何も変わっていないなら、問題はないのだ。
だとしたら、そんなことよりも気になることがある。
自分よりもスズキを知っていそうな彼に、相談したいことが。
信じてもらえないかもしれないけど、と彼女が切り出した話は、確かにちょっと信じがたかった。
校舎の屋上からとびおりかけたとき、スズキに似た姿の幻を見たのだという。
彼女は家に着いてから、思い出したのだ。
なぜ、彼の顔に見覚えがあったのか、どこでそれを見たのか、を。
ただ、庭月自身も、気のせいだと言われると思っていたし、あのときの自分は多分どうかしていたから、錯覚でそんなものを見たのかも知れない。
それでも八敷阿輝矢には、彼にだけは話してみたかった。
彼女が見たものを、彼が幻と笑い飛ばしてくれれば、それで忘れてしまえる気がしたから。
見ているとなんとなく安心できる、彼のあの笑顔で、非現実的な記憶をぬぐいさってほしかった、なのに。
「あぁ・・・それ、本当にアイツかも。」
アキヤは、冗談を言っているふうでもなく、そう言った。
「ぇ・・・」
あっけにとられる庭月に、アキヤは説明するように一方的に話し続ける。
「アイツさ、なんか、ユーレイとか見えるみたいでさ。実は、あん時庭月さんの様子がオカシイ、とかって言い出したのアイツで。庭月さんが俺の知り合いだ、ってことは知ってたみたいでさ。なんかよくないモノがまとわりついてるって。だから、なんとなく俺、庭月さんのことカンサツしてたワケなんだけど、とにかく、アイツも心配してて。だから、そんなときに見たんなら、無関係じゃないかもよ?ソレ。なんつの、チョージョー(超常)現象?」
彼女の話と同じくらい信じがたいことを、彼は普通に話していた。
「そんな、テレビの2時間スペシャルみたいな・・・」
「でも、そうなんだよ。不思議なヤツなんだ、アイツ。」
理解できない現象にであった、不可解な心境を何とかしたくて話したのに、よけいに頭が混乱するような話をきかされてしまった。
ユーレイ?
超常現象?
そんな、ばかな。
違う、やっぱり私が見たのは、きっとただの幻。
そう考えて庭月が落ち着こうとした時、アキヤは、笑った。
「だから、俺、庭月さんの言うこと、ぜんぜん信じられるし。」
やっぱり、なんだか見ると安心できてしまうその笑顔。
彼が信じるというのなら、それが真実なのかもしれない。
信じられないようなコトは、本当にあるのかも。
でも、だとしたら。
「ねえ八敷くん、スズキさんって、何なんだろう?」
超能力者とか、占い師、霊能者。
そんな言葉がうかぶ。
きょとんとした顔をした後、またアキヤは笑った。
「何って、ニンゲンだろ、ははっ。ヒデェなあ庭月さん。」
「そっ・・・ぉゆぅ意味じゃないー、もう!ぁはっ!」
彼女も笑った。
謎は謎のままだったが、今はそれで、いいような気がした。