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少年と天使  作者: narrow
10/31

続き

       ◆

 アキヤと鴨井の会話に、時々庭月がツッコむようなカタチで話しながら、三人でてれてれと歩く。

 中古のゲームなどを扱う店の前で、鴨井が立ち止まる。

 「あ。ちょっと見たい。」

 「えーまじで?庭月さんどーすんのよ。」

 「ちょっ、だけ、ちょっとだけだって。」

 そんな二人の会話を横でききつつ、庭月はなりゆきを見守っている。

 ちょっとだけ、楽しいから、ここで別れるのはイヤかも、などと思いながら。

 アキヤと鴨井の会話は続く。

 「何よ、エロゲ?」

 「ばっ!”ヴイイレ”だよ」

 「おー!!おー、お。」

 一気にテンション高めの声を出したあと、トーンダウンしながら、アキヤは様子をうかがうように庭月を見る。

 行ってもいい?と質問するように。

 いいよ、というかわりに、彼女は自分の意見を言ってみる。

 「ねぇ、私も行っちゃダメかな?」

 一瞬、意外そうな顔をした後、アキヤはノーテンキに笑った。

 「ははっおっけ、じゃ行くべ。」

 店内に入ると、目的のモノはすぐに見つかった。

 「うをーっ!まだちっと高いっ・・・けど、買う?買っとく?」

 コーフンしている鴨井が見ているのは、サッカーゲームの新作だ。

 「あ・・・これ私も知ってる。」

 その作品は、庭月もテレビのCMで名前を知っていた。

 「まじ?やったこと、はないよね?今度やってみる?」

 話しながら商品を持って鴨井はレジのほうへ歩き出す。

 どうやらお買い上げ決定だ。

 そのレジのあたりは、少し混み合っているが、よく見るとそれは全員女の子。

 店内の有線放送がきこえにくいくらい、きゃあきゃあとうるさい。

 「ゲーム屋さんて、みんなこんなに混んでるものなの?八敷君。」

 こういう店は初体験の庭月が、少々面食らいつつたずねる。

 鴨井がタメイキをつき、アキヤは肩をすくめる。

 「これは、異常。つか、ここじゃいつものコトなんだけどさ。」

 うんざりした口調でアキヤが説明し、鴨井が人だかりの中へ声をかける。

 「ははっ。聞こえるかな、スズキさぁーん?!」

 それにこたえて、レジのあるあたりから、男の声が返ってくる。

 「もーちょっと待ってぇ。」

 甘えた響きのお返事に、アキヤが軽くキレた。

 「スーズーキ!!てめサボッてるクセに何ギャラリー作っちゃってんだよ!さっさと出て来ぉい!」

 コレに対して、”ギャラリー”の女の子たちの数人が、アキヤをにらんだ。

 人垣のむこうの”スズキ”に無礼な口をきいたのが、気に入らないらしい。

 そんな状況に、当のスズキが少々の険悪さを感じ取って、あきらめて出てきた。

 「もう・・・はいはい、いらっしゃいませ?」

 明らかに、仕方ないという顔をして。

 女の子で出来た壁をかきわけるように出てきた彼は、日本人そのものだった話し方からは、まったく想像できないくらいに外人だった。

 ウソくさいくらいのキラッキラの金髪に、カラコンみたいな青い目をしたカッコいいお兄さん。

 ただ、その髪が肩の下まで長くのびているのは、少しヘンだったが。

 とにかく、スズキという名はどう考えても偽名にしか思えないような人物。

 初対面のハズのその顔を、庭月はどこかで見たことがある気がして、目がクギヅケになる。

 スズキ本人は、その視線に気づいているのかいないのか。

 「アキヤはさー、そうやって優しくないから彼女できないんだよー。」

 女の子に囲まれてサボっていたのを、ジャマされたのが気に入らないようで、適当なことを言ってアキヤをからかう。

 「あ、スズキさぁん、コレー。」

 なじまない名を呼びながら、横から鴨井が割り込んできて会計を頼む。

 「はーい5880円ねぇ。鴨井くんは、アキヤみたいにツンツンしちゃダメだよ?」

 「あっはは、了解了解。」

 他人事に、軽く鴨井が笑ったが、アキヤは黙っていない。

 「まてっまてまてスズキ!おメーの目玉はビー玉か?あァん?」

 「何それ。キレイってこと?」

 スズキは、他人から容姿をほめられることに慣れすぎていた。

 そんな彼の言葉に、その場にいた全員、彼にたかっていた女の子までもが引いた。

 一瞬絶句してから、我に帰ったアキヤが言葉を続ける。

 「ちゃんと見えてんのかってぇイミだっボゲェ!彼女様ならいるだろここに!」

 ぼんやりとスズキの顔を見ながら記憶をたどっていた、庭月の肩をアキヤが急に抱き寄せた。

 「え?ぇ?えぇ?」

 驚いて彼の顔を見る。

 いつもより近くで。

 「な?庭月さん、な?」

 「あ、ぅ、うんっ。」

 本気なのかスズキに対して意地になっているのか、判断がつかないけれど、この場は合わせてあげようかな、と思える。

 なんだか悪い気はしない。

 そんな、見るからに今出来たばかりの設定丸見えの芝居を、スズキは見透かした笑顔でただ見ている。

 スズキのギャラリーの女の子からもヒソヒソ話が聞こえる中、鴨井だけがだまされて、エ、うそまじで?などとうろたえていた。

  数秒間、黙ってアキヤたちをうすら笑いで見つめてから、ひときわにっこりと、人の良さそうな笑顔を輝かせ、スズキは言った。

 「ふぅん、ま、ガンバリなよ。」

 ナリユキとは言え、ちょっといいカンジにドキドキしている二人の気持ちが、見えてでもいるように。

 背中を押してくれているような、そのセリフを受けておきながら、次の瞬間、アキヤは自分から何もかもを台無しにしてしまう。

 「ごめん・・・ウソです。」

 彼としては、庭月まで巻き込んだのに、どう考えても鴨井以外だませていないこの状況で、これ以上言い張るのは情けなさ過ぎて耐えられなかったのだ。

 ついでに、芝居に付き合ってくれた彼女にも、少し悪い気がして。

 だが、それを聞いた彼女はといえば、ややどんよりとした目つきで床に視線を落としていた。

 「だよね・・・」

 と、元気なくつぶやいて。

 ついでに、まわりの女の子たちのヒソヒソ話はさっきよりも増え、眉をひそめてチラチラとアキヤを見ている。

 スズキは、というと、驚きと苛立ちの混じった、彼としては珍しい表情でアキヤを見ていた。

 何だよ、俺なんかしちゃったかよ。

 謝ったのになぜか、誰もが自分を責めている空気が納得いかないアキヤ。

 一方で、不釣り合いな二人がやはり付き合っていたわけではないことに、深く納得している鴨井。

 どんよりしたままの庭月。

 「・・・じゃ、会計すんだし僕いそがしいからさっさと帰って。」

 うっすら不機嫌そうなスズキは、三人に向かってそう言うと、また女の子たちの中へ戻っていく。

 どうせまた、サボってやっていたゲームの続きをするだけに違いない。

 が、ふだんうっとうしいくらい人なつっこい彼に、そんな風に無愛想な態度を取られては、居づらさも最高潮だ。

 三人は、それぞれ違った心境で店を出る。

 「スズキさん、何か怒ってなかった?あ、八敷、このままウチ来るだろ?コレ、やろ!」

 何一つ空気を読めず、ひとり明るい鴨井が買ったばかりのゲームを手に、アキヤを家に招いている。

 「お、おう、・・・庭月、さん、どーする?」

 まだどんより状態から抜け出せない庭月を、気づかうアキヤ。

 「私は、寄るところがあるから、ここで。また、明日ね。」

 気のせいかふだんより少し小さい声は、元気がなく聞こえる。

 ヤベー、確実にキゲン悪いだろコレ。

 何か言わなきゃ、言わなきゃ、と焦るアキヤ。

 「あーっと、待った!ケータイ、そういやケータイとかって教えてもらってないよね?庭月さん!後で電話、いやメールでも、していい??」

 後でメールでもすれば、少しはキゲン直してもらえるかもしれないし、と考えたアキヤだったが、彼女は普通の女子とは少し違っていた。

 「・・・持ってない。それじゃね。」

 「あ・・・」

 フォローしようとして、余計気まずくなったアキヤと、彼の気づかいをなんとなくわかってはいたものの、実際ケイタイを持っていなかった庭月。

 このとき二人は、同じコトを考えていた。

 

 ダメだ、終わった・・・と。

(続)

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