続き
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アキヤと鴨井の会話に、時々庭月がツッコむようなカタチで話しながら、三人でてれてれと歩く。
中古のゲームなどを扱う店の前で、鴨井が立ち止まる。
「あ。ちょっと見たい。」
「えーまじで?庭月さんどーすんのよ。」
「ちょっ、だけ、ちょっとだけだって。」
そんな二人の会話を横でききつつ、庭月はなりゆきを見守っている。
ちょっとだけ、楽しいから、ここで別れるのはイヤかも、などと思いながら。
アキヤと鴨井の会話は続く。
「何よ、エロゲ?」
「ばっ!”ヴイイレ”だよ」
「おー!!おー、お。」
一気にテンション高めの声を出したあと、トーンダウンしながら、アキヤは様子をうかがうように庭月を見る。
行ってもいい?と質問するように。
いいよ、というかわりに、彼女は自分の意見を言ってみる。
「ねぇ、私も行っちゃダメかな?」
一瞬、意外そうな顔をした後、アキヤはノーテンキに笑った。
「ははっおっけ、じゃ行くべ。」
店内に入ると、目的のモノはすぐに見つかった。
「うをーっ!まだちっと高いっ・・・けど、買う?買っとく?」
コーフンしている鴨井が見ているのは、サッカーゲームの新作だ。
「あ・・・これ私も知ってる。」
その作品は、庭月もテレビのCMで名前を知っていた。
「まじ?やったこと、はないよね?今度やってみる?」
話しながら商品を持って鴨井はレジのほうへ歩き出す。
どうやらお買い上げ決定だ。
そのレジのあたりは、少し混み合っているが、よく見るとそれは全員女の子。
店内の有線放送がきこえにくいくらい、きゃあきゃあとうるさい。
「ゲーム屋さんて、みんなこんなに混んでるものなの?八敷君。」
こういう店は初体験の庭月が、少々面食らいつつたずねる。
鴨井がタメイキをつき、アキヤは肩をすくめる。
「これは、異常。つか、ここじゃいつものコトなんだけどさ。」
うんざりした口調でアキヤが説明し、鴨井が人だかりの中へ声をかける。
「ははっ。聞こえるかな、スズキさぁーん?!」
それにこたえて、レジのあるあたりから、男の声が返ってくる。
「もーちょっと待ってぇ。」
甘えた響きのお返事に、アキヤが軽くキレた。
「スーズーキ!!てめサボッてるクセに何ギャラリー作っちゃってんだよ!さっさと出て来ぉい!」
コレに対して、”ギャラリー”の女の子たちの数人が、アキヤをにらんだ。
人垣のむこうの”スズキ”に無礼な口をきいたのが、気に入らないらしい。
そんな状況に、当のスズキが少々の険悪さを感じ取って、あきらめて出てきた。
「もう・・・はいはい、いらっしゃいませ?」
明らかに、仕方ないという顔をして。
女の子で出来た壁をかきわけるように出てきた彼は、日本人そのものだった話し方からは、まったく想像できないくらいに外人だった。
ウソくさいくらいのキラッキラの金髪に、カラコンみたいな青い目をしたカッコいいお兄さん。
ただ、その髪が肩の下まで長くのびているのは、少しヘンだったが。
とにかく、スズキという名はどう考えても偽名にしか思えないような人物。
初対面のハズのその顔を、庭月はどこかで見たことがある気がして、目がクギヅケになる。
スズキ本人は、その視線に気づいているのかいないのか。
「アキヤはさー、そうやって優しくないから彼女できないんだよー。」
女の子に囲まれてサボっていたのを、ジャマされたのが気に入らないようで、適当なことを言ってアキヤをからかう。
「あ、スズキさぁん、コレー。」
なじまない名を呼びながら、横から鴨井が割り込んできて会計を頼む。
「はーい5880円ねぇ。鴨井くんは、アキヤみたいにツンツンしちゃダメだよ?」
「あっはは、了解了解。」
他人事に、軽く鴨井が笑ったが、アキヤは黙っていない。
「まてっまてまてスズキ!おメーの目玉はビー玉か?あァん?」
「何それ。キレイってこと?」
スズキは、他人から容姿をほめられることに慣れすぎていた。
そんな彼の言葉に、その場にいた全員、彼にたかっていた女の子までもが引いた。
一瞬絶句してから、我に帰ったアキヤが言葉を続ける。
「ちゃんと見えてんのかってぇイミだっボゲェ!彼女様ならいるだろここに!」
ぼんやりとスズキの顔を見ながら記憶をたどっていた、庭月の肩をアキヤが急に抱き寄せた。
「え?ぇ?えぇ?」
驚いて彼の顔を見る。
いつもより近くで。
「な?庭月さん、な?」
「あ、ぅ、うんっ。」
本気なのかスズキに対して意地になっているのか、判断がつかないけれど、この場は合わせてあげようかな、と思える。
なんだか悪い気はしない。
そんな、見るからに今出来たばかりの設定丸見えの芝居を、スズキは見透かした笑顔でただ見ている。
スズキのギャラリーの女の子からもヒソヒソ話が聞こえる中、鴨井だけがだまされて、エ、うそまじで?などとうろたえていた。
数秒間、黙ってアキヤたちをうすら笑いで見つめてから、ひときわにっこりと、人の良さそうな笑顔を輝かせ、スズキは言った。
「ふぅん、ま、ガンバリなよ。」
ナリユキとは言え、ちょっといいカンジにドキドキしている二人の気持ちが、見えてでもいるように。
背中を押してくれているような、そのセリフを受けておきながら、次の瞬間、アキヤは自分から何もかもを台無しにしてしまう。
「ごめん・・・ウソです。」
彼としては、庭月まで巻き込んだのに、どう考えても鴨井以外だませていないこの状況で、これ以上言い張るのは情けなさ過ぎて耐えられなかったのだ。
ついでに、芝居に付き合ってくれた彼女にも、少し悪い気がして。
だが、それを聞いた彼女はといえば、ややどんよりとした目つきで床に視線を落としていた。
「だよね・・・」
と、元気なくつぶやいて。
ついでに、まわりの女の子たちのヒソヒソ話はさっきよりも増え、眉をひそめてチラチラとアキヤを見ている。
スズキは、というと、驚きと苛立ちの混じった、彼としては珍しい表情でアキヤを見ていた。
何だよ、俺なんかしちゃったかよ。
謝ったのになぜか、誰もが自分を責めている空気が納得いかないアキヤ。
一方で、不釣り合いな二人がやはり付き合っていたわけではないことに、深く納得している鴨井。
どんよりしたままの庭月。
「・・・じゃ、会計すんだし僕いそがしいからさっさと帰って。」
うっすら不機嫌そうなスズキは、三人に向かってそう言うと、また女の子たちの中へ戻っていく。
どうせまた、サボってやっていたゲームの続きをするだけに違いない。
が、ふだんうっとうしいくらい人なつっこい彼に、そんな風に無愛想な態度を取られては、居づらさも最高潮だ。
三人は、それぞれ違った心境で店を出る。
「スズキさん、何か怒ってなかった?あ、八敷、このままウチ来るだろ?コレ、やろ!」
何一つ空気を読めず、ひとり明るい鴨井が買ったばかりのゲームを手に、アキヤを家に招いている。
「お、おう、・・・庭月、さん、どーする?」
まだどんより状態から抜け出せない庭月を、気づかうアキヤ。
「私は、寄るところがあるから、ここで。また、明日ね。」
気のせいかふだんより少し小さい声は、元気がなく聞こえる。
ヤベー、確実にキゲン悪いだろコレ。
何か言わなきゃ、言わなきゃ、と焦るアキヤ。
「あーっと、待った!ケータイ、そういやケータイとかって教えてもらってないよね?庭月さん!後で電話、いやメールでも、していい??」
後でメールでもすれば、少しはキゲン直してもらえるかもしれないし、と考えたアキヤだったが、彼女は普通の女子とは少し違っていた。
「・・・持ってない。それじゃね。」
「あ・・・」
フォローしようとして、余計気まずくなったアキヤと、彼の気づかいをなんとなくわかってはいたものの、実際ケイタイを持っていなかった庭月。
このとき二人は、同じコトを考えていた。
ダメだ、終わった・・・と。
(続)




