国営オンラインゲーム『Battle-Cast ダンジョンアライブ』
この世界には、ダンジョンがある。
正確に言えば、ある時急にダンジョンが現れて、世界を浸食したのだ。
休日の公園で、ショッピングモールで、学校で。人の多い場所を狙いすまして、ダンジョンは現れ、『ダンジョン災害』と呼ばれる大惨事となった。
その後、多大な犠牲を払いつつもダンジョンは攻略されて消え去り、消滅した。
また、頭のいい人達の研究により、ダンジョン発生の原因が判明した。
インターネットの発展による電子の海、思考ノイズの集合体云々――とにかく、インターネット上に積もり積もった汚染、通称『デブリ』が一定量を超えると現実世界に影響を及ぼし、ダンジョンとなることが分かった。
それだけではなく、『デブリ』は電子上でもダンジョンの形をしており、特殊な電子アバターでダンジョンを攻略しコアを破壊することで除去できることが分かったのだ。
このアバターは『デブリ』を研究・応用した仕組みで、何かしらの行動をすれば発生したノイズを吸収して『成長』するという代物。
いわば、ゲームのキャラクターのようなものであった。
で。
この『デブリ』の作り上げたダンジョンを攻略するために、国は専門家を育成することにした。「ゲームしてお金を稼げる!」みたいな状況に募集前から応募が殺到。これに対し、とある天才ゲームクリエイターが画期的アイディアを発表し、採用された。
そうして生まれたのが国営オンラインゲーム『Battle-Cast ダンジョンアライブ』(通称:BCD)である。
このゲームの一番画期的な点としては、HPがお金で、ダンジョンを攻略すれば賞金が出るという点だった。
(実際、『デブリ』ダンジョン内で電子アバターが破壊されるとそれも『デブリ』に取り込まれてしまい除去費用が発生する。それを模しているらしい)
数多の応募者達はそのままこのゲームのプレイヤーとなった。
その中から賞金のかかったダンジョンを攻略して生計を立てるような者が生まれれば、それこそ当初の狙い通り『デブリ』除去の専門家育成の成功だ。
実際の『デブリ』が作り出したダンジョンに対しても賞金を懸け、攻略させればいい。
それは、政府の懐をあまり傷めず、応募者ををふるいにかけながら意欲の高いダンジョン攻略者を育成するという一石二鳥の結果をもらたした。
また一方で、天才ゲームクリエイターの発案により『誰でも練習用ダンジョンを作り、公開する』ことができた。
そしてダンジョンでプレイヤーがダメージを受ければそれに応じたお金が製作者へと還元される仕組みが用意されていた。もちろん、ダンジョンがクリアされたら製作者が賞金を払わねばならないが……
これにより、プレイヤーとは逆にダンジョン側としてプレイヤーの前に立ちはだかり生計を立てるダンジョンマスター達も生まれていた。
運営からすれば、勝手に練習用ダンジョンを量産してくれる素晴らしい協力者である。
ダンジョン攻略を行う『プレイヤー』、ダンジョンを作る『ダンジョンマスター』の2輪により、このゲームは……否、この国のダンジョン対策は大成功をおさめたのである。
また、このゲームは名前からも分かるとおり元々配信されることを前提としている。これにより、ダンジョン攻略関連の収益に加えて、配信収益を含めて億万長者となった人気プレイヤー&ダンジョンマスターが現れ始める。
そうなれば、成功者に続けと後追いの大嵐が吹き荒れるのは当然の流れであり――
――世はまさに、大ダンジョン配信時代に突入していた。
* * *
「づぁあーーーーー!!!」
戦場から帰還した少女が、アパートの玄関で苛立った声で叫んだ。
いつかお嬢様になりたい系B-Caster、竜胆寺カロナ――の中の人、篠原沙夜だ。
配信での縦ロールお嬢様姿とは打って変わって、地味でしょぼくれた見た目をした黒髪黒目の一般人。一応成人済みである。
その手にはスカスカのエコバッグがぶら下がっていた。
「ちくしょうオバちゃんたち強すぎーーー!!」
彼女はタイムセールに大敗北を喫していた。卵1パック50円の大チャンスだったのに、と悪態をつく沙耶。お一人様3パックまでの購入制限があったはずなのに、沙耶が売り場に駆け付けたころには残り1パックしかなく、それも目の前でかっさらわれていった。
「でも……今日は、勝ったから焼肉! お肉パーティー!」
と、エコバッグから鶏ムネ肉を取り出した。なんと値引きシールの張られていない高級品! 100g100円である!……高級肉なのである! 沙耶的には!
「それにしても、また首の皮一枚つながったなぁ……」
はぁやれやれ、と冷蔵庫にパタンと鶏肉を仕舞い、ため息をつく。
本日の賞金は10万円。うち半分は家賃光熱費に回すとして、少なくとも3万円は装備の修理費になるため実質2万円の収入だ。
日給2万円ならまぁ悪くない、とはいってみても、全財産10万円を賭けてのギャンブルの結果とみたらギリギリすぎる。
「いつか国産黒毛和牛のステーキを食べ放題とかしてみたい……高級スイーツ食べ放題とかもしてみたい……シャインマスカットって本当に輝いてるんかなぁ」
そんな夢を見つつ、沙耶は冷蔵庫に鶏肉をしまった。




