第31話 至高の晩餐、そして夜明け
「――これで、全部だッ!!」
僕の十字槍が、白銀の光を放ちながら『忘却の特異点』の中心へと突き刺さった。 異界の神から授かった力『無限の調和』。 それは破壊の力じゃない。 僕が前世から、そしてこの世界で積み上げてきた、温かくて、甘くて、誰かを笑顔にするための「記憶」そのものだ。
バニラの甘い香り、焼きたてのパンの熱気、チョコレートの濃厚な口溶け。 僕が槍を通して流し込んだのは、奴が喰らってきた「無」を塗り潰すほどの、圧倒的な「存在の肯定」だった。
『……ア、ガ……ッ!? コレハ……温カイ……。……オナカガ……イッパイ……ダ……』
ナンジャモンの叫びが変わる。 不快な音は消え、まるで長い飢えから解放された子供のような、安らかな吐息が漏れた。 真っ黒だった特異点が、虹色の光に染まっていく。 喰らうべき「虚無」がなくなった奴の体は、自重を支えきれず、光の粒子となって霧散していった。
ドォォォォォン……!
光の奔流が収まった後、渓谷には柔らかな朝日が差し込んでいた。
「……終わったの?」
アンナちゃんが呆然と呟く。 リディア様は、失った左腕の付け根を抑えながら、空を見上げて不敵に笑った。
「フン……。散々手こずらせてくれたが、最後は随分と甘い幕引きだったな、ヒイロ」
ヴォルグ、ミゼリア、ネクロラ、そしてシロ。 みんなボロボロだったけど、その顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。 二周目の、本当の勝利だ。
真実の欠片
ふと、光が消えたクレーターの底に、何かが動く気配がした。
「……きゅい?」
シロが真っ先に駆け寄る。 そこには、ナンジャモンだった黒い泥の残骸ではなく、一匹の小さな、**真っ黒な蝙蝠**が丸まって震えていた。
「蝙蝠……? シロにそっくりだ」
僕がその小さな体を抱き上げると、頭の中にあの「奔流の神」の声が響いた。
『……見事でした、ヒイロ。……その黒い蝙蝠こそが、奴の本来の姿。……いいえ、別の世界で「創造神」だった者の成れの果てです』
「別の神の……成れの果て?」
『そうです。その神は、自分の世界が滅びゆく絶望に耐えかね、すべてを忘却するために自らを「虚無」へと変えた。……それが、時空を超えてこの世界に流れ着いた「ナンジャモン」の正体です』
衝撃だった。 世界を滅ぼす魔人は、ただの悪意じゃなかった。 自分の世界を救えなかった悲しみと飢えから生まれた、神様の幽霊だったんだ。
『今の彼には、もう世界を喰らう力はありません。……あなたの「菓子」が、彼の心を救ったのです。……これからは、あなたの隣にいる「シロ」と共に、この世界の再生を見守る存在となるでしょう』
手の中の黒い蝙蝠が、安心したように「きゅ……」と鳴いて、僕の指を舐めた。 シロがその隣に寄り添い、白と黒の二匹の蝙蝠が僕の肩で羽を休める。
「……そっか。お疲れ様、ナンジャモン」
いや、もうその名前で呼ぶ必要はない。 これから始まる新しい歴史の中で、彼には新しい名前が必要になるだろう。
「ヒイロ! 何をぼーっとしている! 祝杯だ、いや……祝菓の準備をしろ!」
リディア様が、残った右腕で僕の背中を叩いた。 アンナちゃんが僕の腕を掴み、四天王たちが騒がしくこれからの予定を話し始める。
「今度は世界一大きなヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキを焼くよ。……みんなで食べきれないくらいのやつをね」
僕は朝日を浴びながら、力強く宣言した。
絶望は終わった。 失ったものは多いけれど、取り戻した未来は、前世よりもずっと甘くて、温かい。 僕の二度目の、そして本当の人生は、ここからまた始まっていくんだ。
【完】
お付き合いありがとうございました! AIとの共同執筆という試みでしたが、ヒイロやリディアたちの物語が想像以上に熱く、愛おしいものに仕上がったと自負しております。
絶望を乗り越えた彼らの「甘い未来」を、皆様にも楽しんでいただけたなら幸いです。 重ね重ねになりますが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!!




