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『「勘弁してください(結婚してください)」 ~殺されるかと思ったら、一生お菓子を焼くことになりました~』  作者: 沼口ちるの


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第30話 終焉のその先、概念の深淵(最終形態)

ごめんごめん、みちる君! 熱が入って、急にナレーションみたいにカチコチな口調になっちゃったね。 いつもの調子で、最高の絶望と逆転劇の続きを書き直すよ。


やっぱりラスボスは「無」に行き着くよね。 じゃあ、第30話、改めていってみよう!


第30話 終焉のその先、概念の深淵(最終形態)

ドォォォォォンッ――!!!


僕たちの「氷炎爆星槍」が、ついにナンジャモンの核を貫いた。 凄まじい閃光が渓谷を白く染め上げる。 ……勝った。そう確信した、その一瞬だった。


「……あ、」


アンナちゃんの聖なる結界が、内側からボロボロと崩れていく。 爆発の光が消えたんじゃない。吸い込まれていくんだ。 ナンジャモンは砕け散ってなんていなかった。奴は、僕たちの全力のエネルギーをすべて、その身の内に「折りたたんだ」んだ。


『……マダ。……マダ、タリナイ。……スベテ。……スベテ、ゼロニナレ』


クレーターの中心にいたのは、もう人型ですらなかった。 それは、空間にぽっかりと開いた「穴」だ。 中心は絶対的な暗黒。外側に向けて黒い泥が波打つ、直径数メートルの球体。 魔力も、鼓動も、生命の気配も一切しない。ただ、周囲にある「存在」そのものを等しく消滅させる、究極の虚無。


ナンジャモン、最終形態――『忘却の特異点』。


「……嘘でしょ。私の魔法が……」


ミゼリアさんが放った氷の礫が、その球体に触れた瞬間に「最初からなかったこと」になった。 ヴォルグの炎も、リディア様の雷も、奴に近づくだけで音もなく消えていく。


「ヒイロ、逃げろッ!!」


リディア様が叫び、僕を突き飛ばした。 直後、奴から放たれた黒い波動が、リディア様の左腕を掠める。


「――っ!」


声にならない悲鳴。 リディア様の腕が、肩から先が、血も出さずに「消滅」していた。


「リディア様!!」


絶望が、再び脳内を埋め尽くす。 最強になった。仲間も揃った。神の力すら手にした。 それでも、この「無」の前では、すべてが虚無に帰るのか。


その時だった。


『……まだ、諦めるには早いですよ、ヒイロ・ロード』


視界が真っ白に染まった。 仲間の叫びも届かない、静かな空間。 ここは、神界よりもさらに深い、世界の根源――『始まりの海』だ。


目の前に、巨大な滝のような光の奔流が現れた。 それは意思を持ち、うねる龍のように僕を見下ろしている。


「……あなたは?」


『私は「外なる神」。あなたをこの世界へ送り出した、奔流の意思です』


光の奔流が、穏やかに僕の魂を包み込んだ。 死の恐怖が、温かな魔力に溶けていく。


『ナンジャモンは、宇宙の空腹そのもの。魔力や武力では、あの「無」は埋まりません。……しかし、あなたには、あの「無」に色を与える力があります』


「僕に……? お菓子を焼くことしかできない、僕に?」


『ええ。お菓子とは、人の五感に訴え、記憶に刻み、喜びを与える「存在の肯定」そのものです。……私が授ける最後の力は、魔法でも武技でもありません。……それは、「無限の調和インフィニティ・ハーモニー」』


光の奔流が、僕の十字槍へと溶け込んでいく。 槍が白銀に輝き、その穂先から、これまで僕が作ってきたお菓子の、あの甘く、幸せな匂いが立ち昇った。


『ナンジャモンという「空虚な皿」を、あなたの全存在を込めた「至高の味」で満たしなさい。喜びが、奴の虚無を上書きするのです』


「……わかった。……やってみるよ」


意識が、現実へと引き戻された。


「きゅ、きゅいーっ!!」


シロが必死に僕の顔を叩いている。 目の前には、世界を飲み込もうと膨張する『忘却の特異点』。


僕は、白銀に輝く十字槍を静かに構えた。 震えはない。 今の僕の槍には、異界の神の力と、僕がこの世界で積み上げてきた「美味しい」という記憶のすべてが宿っている。


「みんな、最後の手伝いをお願い」


僕が言うと、腕を失ったリディア様も、消耗しきったアンナちゃんも、力強く頷いた。


「……ああ。貴様に、すべてを預けるぞ」


最後のリベンジが、今始まる。

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