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『「勘弁してください(結婚してください)」 ~殺されるかと思ったら、一生お菓子を焼くことになりました~』  作者: 沼口ちるの


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第28話 喰らうもの、進化するもの(第二形態)

ドォォォォォンッ――!!!


僕たちの放った最強の合体攻撃が、黒い繭に直撃した。 その瞬間、世界から音が消えた。 光と熱、そして魔力の奔流が、渓谷の地形そのものを蒸発させていく。 前世の魔王城を吹き飛ばした時以上の威力。これなら、どんな生物だって原子レベルで分解されるはずだ。


土煙が舞い上がり、視界が遮られる。


「……やったか!?」


ヴォルグが荒い息を吐きながら叫ぶ。 しかし、僕とリディア様、そしてアンナは、武器を構えたまま動けなかった。 『記憶の共有』があるからこそ、わかる。 手応えが、違う。 「倒した」感触じゃない。「殻を割ってしまった」感触だ。


ザザ……ザザザ……。


静寂を取り戻したクレーターの中心から、あの音が聞こえてきた。 ガラスを爪で引っ掻くような、神経を逆撫でする不快な音。


土煙が晴れる。 そこにいたのは、前世で見たヒョロ長い人型の魔人ではなかった。


『……イタい。……アツイ。……デモ、ウマイ……』


それは、不定形の『黒い泥』の集合体だった。 僕たちの攻撃エネルギーを無理やり吸収し、急激に膨張したそれは、直径数十メートルもの巨大なスライム状の怪物と化していた。 そして、その体表には、無数の『口』が浮かび上がっては消えていく。


「……嘘でしょ。私たちの全力を、食べたの……?」


アンナの声が震える。 聖なる光も、極大魔法も、すべてが奴の「最初の食事」にされたのだ。


『……タリナイ。……モット。……クワセロ』


ズズズンッ! 黒い泥が、津波のように押し寄せてくる。


「総員、散開ッ!!」


リディア様の叫びと同時に、僕たちは四方へ飛び退いた。 直後、僕たちがいた場所が、音もなく「消滅」した。 えぐれたのではない。空間ごと、そこにあった土や空気が食われて「無」になったのだ。


「チッ! 喰らいやがれ! 『獄炎氷牙ヴォルカニック・グレイシャル』!」


ヴォルグとミゼリアが、即席の合体魔法を放つ。 超高熱と絶対零度が混在するカオスな嵐が、泥の巨体を襲う。


ジュワァァァ……。


泥の一部が蒸発し、凍結する。 しかし、それも一瞬だった。 凍りついた部分が、内側から現れた新しい「口」によって、バリバリと噛み砕かれていく。


「再生速度が、計算を上回っています! これではジリ貧です!」


ネクロラが悲鳴を上げる。彼の展開した死霊の壁も、泥に触れた端から「存在」を食われて消えていく。


「きゅいーッ!!(ずるいーっ!)」


シロが上空から神気を放ち、奴の「存在を食う」という理不尽なルールを書き換えようとする。 だが、相手が巨大すぎる。神の化身であるシロでさえ、抑え込むのが精一杯だ。


「くそっ……!」


僕は十字槍を旋回させ、迫りくる泥の触手を斬り払う。 『超覚醒』で強化された身体能力と、槍のリーチがなければ、とっくに飲み込まれていただろう。 斬っても斬っても、手応えがない。泥をかき混ぜているだけだ。


『……オマエ。……イイ匂イ。……オボエテル』


無数の口が、一斉に僕の方を向いた。 ぞわり、と全身の毛が逆立つ。 奴は認識したのだ。前世で「最後に食べたデザート」の味を。


『……タベカケノ、デザート』


ドォォォン! 泥の塊が、槍のような形状に凝縮され、僕めがけて射出された。 速い。シルイドの神速に匹敵する速度。


「ヒイロッ!!」


リディア様が間に割って入ろうとするが、間に合わない。 僕は反射的に十字槍を盾にした。


ガギィィィンッ!!


凄まじい衝撃が腕を貫く。 強化された骨がきしむ音が聞こえた。 受け止めた槍の柄が、ミシミシと悲鳴を上げている。 これは、ただの物理攻撃じゃない。「存在を削り取る」概念攻撃だ。僕の魔力障壁が、紙のように食い破られていく。


「ぐ、ぅぅぅッ……!」


(……強い。前世とは比較にならない!)


未完成だから弱い? とんでもない。 こいつは、僕たちの最強の攻撃を「栄養」にして、今この瞬間も進化(成長)しているんだ!


『……モット。……キチンと、カタチに……ナル』


僕を押し潰そうとしていた泥の槍が、ズルズルと本体へ戻っていく。 巨大な泥の塊が、脈動を始めた。 圧縮され、形を変えていく。


「……まずい。形態変化フォーム・チェンジだ!」


リディア様が叫ぶ。 不定形の泥から、より戦闘に特化した形態へ。 奴が「本気で食べる」ための準備を始めたのだ。


渓谷に、産声のような、不快な咆哮が轟いた。



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