第27話 決戦の地、静寂の揺り籠
魔王城の作戦会議室。 僕の背負う最も重い秘密は、すでにみんなに共有されていた。
僕が持つ特殊スキル『共鳴する記憶』。 言葉では伝えきれない、あの日の「温度」「痛み」「絶望」を、魂に直接投影する禁断の力だ。
リディア様も、アンナちゃんも、四天王たちも、シロさえも。 僕の視界を通して、自分が食われ、世界が消える瞬間を「体験」していた。 だからこそ、今の僕たちに「甘え」はない。
「……計算が出たぞ」
ネクロラが、古文書と僕の記憶にある座標を照らし合わせ、一点を指差す。 そこは、世界の北端に位置する『無音の渓谷』。
「前世で奴が動き出したのは、数カ国を『食った』後だった。だが、今の我々は『奴が生まれて間もない、最も脆い瞬間』を知っている。……ヒイロ、お前の記憶にあったあの『黒い繭』の場所だ」
「……ああ。今度こそ、生まれる前に終わらせる」
僕が頷くと、隣にいたアンナちゃんが僕の手を強く握った。 彼女の瞳には、かつて自分が食われた時の恐怖ではなく、それを二度と繰り返させないという聖女の苛烈な意志が宿っている。
「……みんな、準備はいいね」
僕たちは転移魔法で、一気にその地へと飛んだ。
静寂を通り越して、耳の奥が痛くなるほどの『無音の渓谷』。 その最深部。 前世の記憶と寸分違わぬ光景が、そこにあった。
ドロドロとした黒い泥が、巨大な繭のように脈動している。 周囲の存在を少しずつ削り取り、自分という『虚無』を肥大させていく、厄災の幼体。
『……ふ、ぅ……。……まだ……足りない……』
繭の奥から聞こえるのは、あの不快な呼吸音。 まだ「口」さえ完成していない。 だが、放置すれば数ヶ月で世界を食い始める。
「……あの日、私たちはこれを見過ごした」
リディア様が静かに十字槍を構える僕の横に立った。 彼女の瞳は、記憶の共有によって「自分が食い殺される瞬間」を焼き付けられている。だからこそ、その怒りは誰よりも深く、静かだ。
「ヒイロ。貴様が味わった絶望の報い、ここで精算してやろう」
「みんな、全力だ! 出し惜しみはなしだよ!」
僕の合図と共に、全員の魔力が爆発した。 記憶を共有したことで、僕たちの連携はもはや『阿吽の呼吸』を超えている。 互いが何を考え、どのタイミングで踏み込むか、言葉すら不要だった。
アンナの聖なる光が、繭の再生能力を奪う。 ヴォルグとミゼリアの氷炎が、繭の表面を粉砕し、熱膨張で中身を露出させる。 ネクロラの死霊魔法が、ナンジャモンが周囲から奪おうとする生命力を遮断する。
そして、シロが神気を放ち、この空間の『理』を書き換え、ナンジャモンを単なる「肉の塊」へと格下げした。
「――終わりだ!」
僕は十字槍を突き出し、全身の、そして前世から積み上げた全ての魔力を穂先に集中させた。




