第26話 魔王戴冠と「奇跡の世代」
魔界の王都が、かつてない熱狂と、それ以上の『圧』に包まれていた。
王城の玉座の間。 そこには、引退を表明した先代魔王が、ガタガタと膝を震わせて立っていた。 目の前の光景が、あまりにも現実離れしていたからだ。
「……これが、次代を担う若者たちだというのか」
先代の視線の先。 玉座に深々と腰掛けているのは、18歳となったリディア。 『超覚醒』を完全に制御下に置き、その魔力量は先代の数十倍。ただ座っているだけで、城の石材がミシミシと悲鳴を上げている。
だが、驚愕の本質は彼女一人ではない。 彼女を囲むように並ぶ面々――世間ではいつしか、彼らを『奇跡の世代』と呼ぶようになっていた。
聖女アンナ(15) 「聖」と「魔」の力を完全に融合させた特異個体。微笑むだけで広域結界を張り、怒れば一国を消滅させる『破壊の聖女』。
業火のヴォルグ & 氷結のミゼリア かつては反目し合っていた二人が、今や呼吸を合わせるだけで『極大消滅魔法』を放つ。その威力はもはや四天王の枠を逸脱している。
深淵のネクロラ 古代魔法の解析を終え、数万の死霊軍を指先一つで操る、魔界一の智将。
白き神獣シロ ヒイロの肩に乗る小さな蝙蝠。だが、その翼が羽ばたけば、戦場全体の魔力密度が神の領域へと跳ね上がる。
そして。 リディアの右隣。 背中に十字槍を背負い、凛とした佇まいで立つ少年。
勇者ヒイロ(15)。
前世の面影を残しつつも、その瞳には迷いがない。 身体能力、魔力操作、そしてお菓子作り――そのすべてにおいて、彼はこの世界の理を書き換えるほどの高みにいた。
「ヒイロ、準備はいいか」
リディアが、鈴を転がすような、それでいて威厳に満ちた声で尋ねる。
「……ああ。いつでもいけるよ、リディア様」
ヒイロは微笑んだ。 かつてのように恐怖で震えることはない。 今の彼にあるのは、大切な人たちを守り抜くという毅然とした覚悟だけだ。
「(……恐ろしい。これほどまでに異質な、それでいて強固な集団がかつてあっただろうか)」
先代魔王は、ヒイロと目が合っただけで、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 種族も、出自も、本来なら相容れないはずの者たちが、一人の少年が作る『甘い絆』によって、一つの最強の矛となっている。
「先代様、お疲れ様でした。あとは僕たちが引き受けます」
ヒイロが歩み寄り、先代の肩に手を置いた。 その瞬間、先代の体内の乱れていた魔力が、スッと穏やかに整えられた。 ただの接触で、深淵の加護を与える。もはやそれは、神の御業に近い。
「さあ、行こう。……僕たちの『本当の戦い』を終わらせるために」
ヒイロの言葉に、奇跡の世代が同時に頷く。 魔王城を後にする彼らの背中は、もはや絶望に食われる獲物ではない。 世界を救い、運命を喰らい尽くす、高潔なる狩人たちの姿だった。




